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写真販売

幼稚園の頃と違い、小学校に上がると親の出番がぐっと減る。たまにの行事ー、運動会や合唱などの発表会では、だだっ広いグラウンドの中、どこにいるのかさえ分かりにくい我が子を人混みの中探し出し、豆粒程の小さな姿に向かってシャッターを切る。現像した写真の仕上がりは、正直心もとないものが殆どだ。
そこで、業者が撮る写真の出番。節約の為、幼稚園ではなるべく購入しなくても済むように、一眼レフまで使って何百枚も撮って来た。ほぼ、全ての行事は皆勤賞だった子の写真は、正直アルバムの冊数では有り余る程の枚数。厳選に厳選を重ねなければならず、他者が撮った写真までそこに入る隙はなかったのだ。
しかし小学校での行事の殆どは、園の親参加型行事とは違って、全ては学校にお任せだ。なので、子から聞く話でその詳細をイメージするしかなく、後に教師達の撮った写真が掲載される学年通信だとか、または定期的に昇降口の壁に展示される「商品としての写真」でしか映像としての事実を知ることが出来ない。また、プライベートでアルバムに残すようなイベントごとがあまりない我が家にとって、学校行事の写真はかなり貴重ー、なので出来ることならどんな写真であっても、子が写っているものは全て購入出来たらーと思うのだ。
しかし、一番小さなスナップでも、1枚150円ー、相場では高くも安くもない平均的価格なのだろうが、集合写真だと一気に800円~1000円掛かる。そして、子はどうしても集合写真が欲しいと言う。親からしたら、他人の子など興味ないし、子だけが写っていればそれで良いのだが、子はそうでもないらしい。後から振り返り、やはり1年の頃はこんなクラスでこんな担任だったなーと思い出にふけるのに、集合写真という物は十分な材料なのだろう。




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今週は、1学期の主要行事の写真が貼り出さるとの通知があり、学校へ行ってみた。人があまりいないだろう、昼時をねらって。やはり、掲示板にはポツポツとまばらに人がいるだけで、そのどの人もが単独で見に来ているようだった。
運動会や日々の授業ー、また遠足や近隣散策、そして虫取りや演劇鑑賞会などなどー、たくさんあるといっても、幼稚園の頃のような多さはなく、子が実際写っているものもわずかだ。しかし、なんだかんだで10枚ちょっとあった。
そして、毎回子が欲しがる集合写真が3種類ー、全て購入するとなるとそれだけでも2400円だ。なので、その中でも一番子が可愛く写っている物ー、運動会の集合写真を選んで番号を記入した。スナップは1枚150円ということもあり、横顔しか写っていないものだったり微妙な表情をしているものであっても、迷わず購入することにした。集計すると、合計2150円にもなった。これは勿論家計費からだ。普段、納豆1パック20円程安いかどうかによって、片道30分以上も掛けて隣街の激安スーパーまで出向く癖に、我が子の写真だと思うと財布の紐も緩む。

この手の写真販売は、ダンス教室の習い事でもある。レッスン中は親の出入りが禁止なので、練習風景を写真におさめることは出来ない。発表会はまた別だが、やはり業者の撮った写真はアングルだったり写りが違う。やはり、プロはプロなのだ。ただ、学校での販売と違い、ダンス教室のそれは少々やり方が汚く感じる。何故なら、子が単独で写っている葉書2枚分の大きさの写真は、購入しなければ破棄する旨の記載がされているのだ。母親達は、我が子の笑顔が他者によってシュレッダーに掛けられることを恐れている。なので、1枚1200円もするそれを躊躇なく購入するのだ。
実際、先日ダンス教室で貼り出された我が子のショットは、確かに写りも良かったし生き生きとした表情をしていた。しかし、前回販売された時と同じような写真であり、その違いはよく分からなかった。同じようなショットに1200円もの大金をはたくのは、正直勿体無いという気持ちも働いた。せめて大きさをこの半分にして価格も半額にしてくれたらー
しかし、周囲の母親達は次々と写真の申し込みをし、貼り出されている写真はどんどん売られて残りは数枚ーそうなのだ、これにより購入したか否かが他人からも丸見えなのだ。1200円を出して、我が子の写真が他者に切り刻まれるのを防げたかどうかー、また経済的に余裕があるのかどうかさえ顔見知り達から憶測されるに違いない。
最後まで迷い、残り6~7枚の中に残る子の笑顔が、まるでダンボールに入れられた捨て猫のように見えてきた。もう、購入するしか選択肢は残っていないようだった。

子供の写真販売は、デジカメやスマホが普及した現在でも需要があるー、需要を消費者に押し付けることが可能な商売なのかもしれない。




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たまごっちぼっち

ダンス教室で、たまごっちが再ブーム。いつものメンバーは皆、レッスンが終わると母親の元へ行き、それぞれのたまごっちを受け取り遊び始める。
まいこちゃんママ達の輪は、出来上がっていると既に入りにくい。まいこちゃんママが一人でいれば、私に声を掛けてくれてそのまま他の人達が合流ーという流れになることもあるのだが、それはそれで酷く疲れる。その輪の中で、私はやはり「部外者」だからだ。
挨拶をしてもどうせ聞こえないだろうし、誰も私の存在に注意など払ってはいないのだからという都合の良い自己判断で、遠回りをして彼女らの輪を通り過ぎる。あたかも彼女らに気が付かなかったかのようにー、それを一番意識しているのは自分だけだというのに。
背後に彼女らの黄色い声を感じながら、携帯を触る。誰かにメールをしている訳でもないが、「電波の向こうに話し相手がいて忙しい」風を演じる。いくらかこれで孤独感が和らぐ。
子供達の近くにいたことから、何かと子とまいこちゃんが私に話し掛けて来たりするので、それも心強かった。「子供達を見守るお母さん」として、その場にいることを許されるような気がするからだ。


「まいこのたまごっち、ともだち沢山いるんだよ~ほら。」


友達同士でと通信すると、その履歴がともだちとして残るらしく、まいこちゃんのたまごっちは30匹以上ともだちリストやらに残っていた。他のメンバーも、少ない子でも10匹はともだちがいると言う。
子は、誰かと通信で遊んだことがないらしく、ともだち手帳とやらは0匹のままらしかった。


「OOちゃんのたまごっち、ともだちいないの?可哀想~」


悪気のない言葉だが、胸に突き刺さる。子はそう言われて戸惑うような表情を見せた。最近遊んでいるというクラスの友達は皆、DSは持っているらしいがたまごっちは持っていないようだったし、もう2年生だがこうした人脈作りのスキルは、それまでの母親付き合いも影響しているらしかった。現に、まいこちゃんが通信で遊んでいる友達は、家の行き来を親子でしている風だった。またひとつ、子に対して後ろめたい気持ちが湧く。


「可哀想だから、まいこのたまごっちをともだちにしなよ。」


途端に、優しい言葉を掛けるまいこちゃん。やはり子供というのは裏表がない分、時にその言葉は痛く、時に暖かい。しかし、


「ねえ、OOちゃんのたまごっちと通信出来ないよ。」


まいこちゃんが子のたまごっちを覗き、そう言った。


「まいこのはピースでOOちゃんのは4Uだからかな。」


どうやらまいこちゃんの持っている機種は一つ前のものらしく、子のたまごっちのようにタッチが出来ないようだった。他の子達も、まいこちゃんの持っているものと同様、ピースだ。
最初こそ、自分達の持っているものと違う新機種のたまごっちを、興味本位で貸して貸してと騒いでいたまいこちゃん達。順番に子のたまごっちを触り一通り遊んだら満足したようで、子に返却すると、それぞれが自分達のたまごっちを手に通信をし始めた。2人~4人くらいと通信出来るのだろうか?よく分からないが、まいこちゃんのたまごっちのお部屋へ皆で遊びに行ったり出来るようだった。
子は一人、それを羨ましそうに眺めていた。わいわい皆で盛り上がり、他の子供達はすっかり子の4Uの存在を忘れているかのよう。


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ー子供は残酷だ。


まだ人を気遣うーなんて無理な年齢。しかし、傷付くことには敏感な年齢でもある。楽しそうに互いの部屋を行ったり来たり通信し合う友達を横目に、最初こそそれを覗き込んでいた子だったが、画面は小さいしあまりくっつくと、


「ちょっと!OOちゃんどいて!見えない!」


と振り払われるので、一人、自分のたまごっちをピコピコと動かすしかないようだった。しかし、視線はまいこちゃん達に向けられているのが分かる。
それは、まるで私だった。私が先程携帯を触っていたのと同じ行動。それに気が付くと、途端に切なくなりその場にいさせるのが可哀想になってしまった。


「ねえ、買い物あるし、もう帰ろう。」


子に助け船を出すと、素直に頷く。子は、この言葉を待っていたのかもしれない。
皆にバイバイしても、たまごっちから視線を逸らすことなく、声だけバイバイする子供達ーこれも、まるであの輪の中で話に夢中になっている母親達と同じだ。
子も子なら、母親も母親。似たもの親子とはよく言ったものだ。


帰り道ー、子がぽつりとつぶやいた。


「OOも、ピースが欲しかったな・・」


自分の足元を見つめながら歩いている小さな頭に向かって、何と言葉を掛けたらよいのか分からず、しかし、少しでも子の孤独感を和らげたかった。


「ねえ、ママにも今度やり方教えてよ。」


「え?ママもやりたい!?」


「うん!楽しそう。」


内心、たまごっちなどてんで興味がなかったのだが、子の為に一緒に遊んでみようと思ったのだ。子は目を輝かせ、早速催促して来た。


「あのね、4Uは携帯からアイテム貰えるんだって。ママの携帯でやってよ。」


しかしよくよく調べると、ガラケーからは無理でスマホからなら通信が可能らしい。また、タッチスポットというものがコンビニや大型スーパーのおもちゃ売り場などにあるらしく、そこへ行きタッチすれば、様々なミニゲームやアイテムが貰えるとのこと。早速、子が学校の間にタッチをしに行くと約束をした。
子は大喜び、そして私も「やるべき事」が出来たことに満足した。写真撮影をする気になれなかった最近では、また手持ち無沙汰な日々を送っていたからだ。
それまで、学校に行っている間はたまシッターにお世話を頼んでいた子だったが、私にそれを頼むようになった。たまごっちはママと2人で育てているー、その共同作業が子の孤独感を和らげてくれるといいのだが。
一番は、ダンス教室でのたまごっちブームが廃れてくれること。やはり、輪から外れてしまう子を目にするのは胸が痛い。それが故意な苛めではなくても、やはり切なくなってしまうのだ。

たまごっちを通して、親子でのコミュニケーションを深めることが出来るのなら、これはかなり優れた玩具だと言えるだろう。DSでも何でも、「親子で楽しむ」のならば、安全で健全なツールになると言えるから。




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苦手なエントランス

通院日は朝が早い。買い物や銀行などの用事に関しては、自分の都合の良い時間帯をねらって外に出られるが、病院となるとそうはいかない。
バスと電車を乗り継いで行かなければならないので、どうしても時刻表に合わせる形で出なければならないのだ。朝の8時半前後は、丁度幼稚園の送迎時間帯ー既に子が小学校に通っている私には関係がないとはいえ、しかし顔見知りがエントランスで輪を作って仲良くわいわいしている横を通り過ぎるのは、何とも具合が悪い。
今朝は、同じ棟のサカイさんがエントランスで幼稚園のバス待ちをしているようで、同じくバス待ちの母親連中と楽しそうに話している様子が見えた。
エントランスはもう一つあるのだが、それは裏出口のようなもので、私が使うバス停の逆側に出てしまう。なので、必然的にそこを通らなければならない。
サカイさんは後ろ姿ーこちらを向いている2人の母親達は別の棟の人達で、挨拶すらしたことはない。サカイさんの子供達が走り回っているのが見えた。子が小学校に上がってからというもの、生活時間帯が違うようになったことでめっきり顔を合わせることもなくなった。




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こういう時ー、私は気が付かないフリをする。サカイさんは後ろ姿なんだし、こちらに気が付いている様子もない。それに、3人共話に夢中だ。それを私の挨拶によって中断させるのは悪い気もする。さっさと目の前を通り過ぎようーそんな言い訳をいくつも並べながら、エントランス前の輪にじりじりと近づく。そして、サカイさんの子供達がこちらに走り寄って来たことで、サカイさんが私の方を振り向いたーと、同時に、咄嗟に手に持っていた携帯を耳に当てた。




「あ、うん、そうだね。うん・・」




「ツー、ツー・・」




受話器からは無機質な電子音。私はそれに向かって、さも誰かと携帯で喋っているような自分を演じる。通話中なのであなた達のことが見えていませんよー、と愚かな意思表示をするのだ。

しかし、サカイさんとばっちり目が合った。慌てて会釈をしたー彼女の方もしてくれた。それは殆ど同時だった。会釈をしながら彼女らの横を通り過ぎる。そそくさとその場を立ち去るが、あくまでも「誰かと電話をしている私」なので、その行動に不自然さはなかっただろう。

エントランスを出て、20m近く歩いたところでようやく耳から携帯を離した。バス停には既にバスが停車していた。大慌てで走り、なんとか乗車に間に合った。つり革につかまり、窓の外を見る。もう一度団地のエントランスをバスが横切る。バスの中からサカイさんらをじっとみつめる私がいる。
にこりともせずにー、怯えもせずにー、ただ、屈託のない彼女達の笑顔に嫉妬しながら。




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遠くの親戚

ようやく墓に着いた。
母は、久しぶりだというのにまるで昨日もここに来ていたのだと言わんばかりの慣れた手つきで墓石周りの掃除を始めた。私も子と共に、花を入れる為に水を入れ替えたり。
父と弟は手持ち無沙汰なのか、黙って突っ立っているだけだった。
一通り綺麗になった墓石を前に、母は満足した様子で父から線香を受け取る。火を付け、先ずは自分が手を合わせ拝み始めた。一体何をつぶやいているのか?聞き取れなかったが、何かを頼んでいるらしかった。長い頼みごとが終わり、続いて私と子、そして弟と父が順番に手を合わせ、一通りの儀式が終わった。


「やれやれ、これで一安心。じゃあ行きましょうか。」


何が一安心なのかは分からなかったが、母に促されるまま駐車場へと向かった。
車内で、母が叔父に電話をしている。このまま叔父宅へと向かうのだ。正直もう何年ー、いや十年以上だろうか?会っていない親戚に会うのは気が重かった。私は子供の頃から、こうした親戚の集まりごとが苦手だった。他の従姉妹達が、それぞれの叔父や叔母達に馴れ馴れしくタメ口で話せるのに対し、私はというと、物心ついた頃から敬語を使い、それとなく彼らと距離を取っていた。それが大人達にも伝わるのか、必要以上に私に話し掛けては来なかった叔父や叔母。結婚時も出産時も、彼らとは葉書だけの事後報告でやり過ごしたのだ。なので、会うのは相当前にあった祖母の法事以来だろう。

もう記憶にも残っていないー、懐かしさのかけらもない道を通り、親戚宅に到着した。私には叔父や叔母、従姉妹達が多くいるのだが、実際大人になってからも会うのは母の姉の娘のみで、他の従姉妹とは15年以上会っていない。街ですれ違っても、互いに分からないーそんなレベルだ。




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「やあ、いらっしゃい。」


玄関扉が開き、中に通された。すっかり小さくなった叔父ー、しわくちゃの薄汚れたシャツを着た、かなりみすぼらしい姿の叔父に驚き過ぎて声も出なかった。叔母は母と会うのを避けているのだろうか?仕事中で留守にしているという。還暦過ぎても仕事を続ける叔母は、ある特殊な資格を保持しており、いまだ忙しい日常を送っているらしい。


「お姉さんも、一体いくつまで働くのかしらね?家の中ぐちゃぐちゃじゃないの。兄さんもそんなみすぼらしい格好して。洗濯とかちゃんとしてるの?」


叔父は、自分の家だというのに、何となく居心地の悪そうなバツの悪い表情をする。父と私に向かって、


「こんな汚いところに呼んで、すまんね。」


と謝罪した。ふと目に入った流しには、昼食に食べたのだろうか?カップ麺の容器が、食べたそのままに投げ入れられており、朝食で使ったと思われる皿や茶碗もそのままキッチンに放置されていた。 私の後ろに隠れる子に気が付いたのだろう、目を細めて尋ねる。


「おや、おチビちゃんは今何歳かい?」


「8歳だよ。」


多少、ぎこちなくもきちんと相手の顔を見て答える子にほっとする。母は嬉しそうに、


「兄さんのところはどう?××君はまだ子供出来ないの?孫はいいわよ。本当、可愛くってね。」


ただ自慢したいだけなのだろう、勝ち誇ったようにデリケートな話題を躊躇なく出す母に、嫌悪感が湧いた。


「うん・・そうだな。嫁さんが看護師でね、忙しくて子作りどころじゃなさそうでさ。本当、気の強い嫁さん貰ったもんだから、盆だろうが何だろうが帰ってきやしない。」


結婚してからというもの、もう何年も実家に帰らず、むしろ相手側の実家に入り浸りの息子を、「アレはもう婿養子にやったようなもんだ」という一言で片付けようとする叔父。 隣で母が一段と嬉々とした声を出す。


「やっぱり息子より娘よ!兄さんのところも哀れよね。娘は結婚してからも家に戻って来るからいいものよ。まあ、うちは息子が結婚することだってありえないからね。孤独な老後とは死ぬまで無縁ってことね。」


叔父は、やはり男性なのか気が利かない。お茶の一杯を出すことさえ思い付かないようだった。喉が乾いたと言う子をなだめ、ただひたすら時が経つのを待つ。
父は、床に置いてある週刊誌を広げ、弟はバッグに入れてあるゲームを取り出し遊び始めた。母と叔父ー、血を分けた兄弟だというのに、どこか張り合い、そして自分の立ち位置がそれより上位だということを再認識し、喜ぶ母。私はうんざりしながらも、一応その場で愛想笑いをしつつ、「話の分かる娘」を演じる。

小一時間もすると、会話は尽きた。 お互い、他の親戚の話や病気の話ー、そして一番核心に触れたいのであろう年金や資産の話については、カマを掛けたり、掛けられたり、はぐらかしたりする中でおぼろげに推測し合い、もうこれ以上話しても何も出ては来やしないと分かった時点でお開きの流れとなった。


「それじゃあね、兄さんも体に気を付けて。」


「あ、ああ、わざわざありがとうね。あ、そうそうこれこれ。」


そう言いながら、部屋の奥に戻り何か紙袋のような物を下げて来た。それは、プリキュアの絵が書かれた袋で、中にはお菓子や文房具が入っているようだった。


「叔父さん、こういうのよく分からないからね、もしかしたらおチビちゃんは好きじゃないかもしれないけど。」


そう言いながら、子に差し出す。子は、とっくにプリキュアから卒業していたし、むしろその年で持っていたら「恥ずかしい」とさえ思うキャラクターだということが分からないくらい、叔父は子供と無縁の生活を送っていることが分かる。


「ありがとうございます。」


子は、戸惑ったような表情をしながらも、空気を読んでそれを受け取る。しかし、母だけがそんな子の気遣いなど無視するかのように、


「ちょっとちょっと、もうこんなの幼稚園の子のキャラクターだって!OOにはこんなの赤ちゃんだよね。」


その場が一瞬凍りついた気がした。子も、紙袋を手にしたまま、どうして良いか分からず狼狽え始めた。母に怒りが湧く。


「プリキュア、まだ見るもんね。OO、良かったね!」


私の切羽詰った声で、何か感じるものがあったのだろう、


「うん、車の中でお菓子、食べる。」


何とか丸く治まった。叔父も一瞬気まずいような表情をしたのだが、子の言葉に安堵したのか再び笑顔を取り戻し、


「それじゃあね、気いつけて帰りや。」


車に乗り込み、もう一度窓を開けて会釈をする。車が最初の角を曲がるまで、叔父は私達を見送っていた。


「はー、本当、びっくりだわよ。兄さん、よぼよぼになって。家の中もちゃんがらじゃない。女房に放って置かれて可哀想に。お父さんは私が家にいるから本当幸せものだわね。」


父は、黙ってハンドルを切る。母の台詞は宙に浮いて、そのまま開け放した窓の外へと消えて行った。

バッグに入れっぱなしだった携帯を取り出すが、相変わらず夫からの着信はない。


『今終わりました。これから高速に乗ります。夕飯までに間に合うとは思うけれど、一応カレーだけ作って鍋に掛けてあるので、もし私達の方が遅かったら温めて食べて下さい。』


気が張っていたのだろう、気が付くと車の中で熟睡していた。辺りは真っ暗ー、そして時計は6時過ぎ。それに前方には動かないテールランプが綺麗な線を作っていた。
ドキドキしながら携帯を見ると、メール受信が1件。急いで開けると、携帯会社からのインフォメーションで力が抜ける。再度、夫へメールを送る。


『御免なさい、道路が渋滞していてやはり帰りは遅くなります。カレー、食べてて下さい。』


そう書いて送信しようと思ったのだが、たまごっちで遊んでいる子に助っ人を頼む。子からメールを送ったということにすれば良いのだ。


『パパ、おしごとおつかれさま。いまかえりだよ。早くパパに会いたいな、ごはん、先に食べていてね♡ OOより』


デコ文字や絵も使い、送信。
15分後に夫から返信。


『パパの方が仕事で遅くなりそうです。』


子の手前返信はしたが、それは明らかに私に当てつけるような一文だった。まだ適当に飲み会でもしてくれれば良いのに、私がたまに好き勝手しようとすれば、こうして「家族の為にあくせく働く夫」を主張し、こちらに罪悪感を持たせる。

助手席から母のいびきが聞こえて来る。その規則正しい音は、私をイラつかせるのに十分な騒音だった。




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お彼岸ドライブ

このシルバーウィーク、のんびり子と過ごす予定だったのが一転、急遽母方の実家の墓参りに参加することになった。夫が出勤だった早朝、子がだらだらと朝食を取っているのを尻目にバルコニーで洗濯物を干していたのだが、家の電話が鳴り出した。出ようとリビングに戻るも、子が既に受話器を取り誰かに向かって喋っていた。
毎回、勝手に電話に出ては駄目ーと注意をしているのに、私の小言はすぐに耳から抜けてしまうようだ。子から電話を取り上げると案の定、実母からだった。


「もしもし、おはよう。今、OOとも話してたんだけどね、あんた達今日暇みたいね。皆で墓参りに行こうと思うんだけど、たまには来たら?旦那は仕事なんでしょう?OOも行きたいって。」


子はその日、確か友達と約束をしていたはず。そう思い直し、母に断りを入れようとしたが、


「子供同士の約束でしょう?そんなの間に受けてるんじゃないわよ。じゃあ、お父さん達と車で11時にはそっちに着くと思うから。後でね。」


こちらの気持ちなどお構いなしに、電話を一方的に切られた。溜息をつきながら、子に約束していたことを再度聞いてみると、しまった!という顔をしたものの、すぐに諦めたようで、家の電話から友達の携帯にキャンセルの電話を入れた。

バタバタと家事を終え、急いで身支度。そして微々たるへそくりを財布に入れる。昼食はきっと私が奢ることになりそうだからだ。そして、時間より15分も早くチャイムが鳴った。


「おはよう。支度は出来た?」


エントランスに停めている、父の運転する車に子と共に乗り込む。弟も後部座席にいたものだから、狭い車内。子も小学生となるとこの車に5人乗りは窮屈過ぎる。
母方の墓は県外にあり、途中海を越えて約2時間半は掛かる。ちょっとした小旅行だった。一応、夫に出る前にメールをしておいたのだが返信はない。へそを曲げてはいないかーそれも気になり落ち着かなかった。帰りは夕飯に間に合わせるつもりでいるが、シルバーウィークということもあり道は思う以上に混雑していた。


「なんだかあんた達が子供の頃を思い出すわねー。」


私の憂鬱な気持ちをよそに、母は呑気に感慨にふける。母は、子にあれこれ不在がちな夫のことを聞き出す。子は素直に答える。子からしたら、「家族思いの良い父親」なので、きっと母が欲しい情報は得られなかっただろう。母は、夫の揚げ足を取りたいのにそれが上手く行かないことに歯がゆさを覚えているようだった。




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昼は、高速のパーキングで取ることになった。なので、自然に各自で精算となった。正直ほっとした。今の私に数千円の出費は痛い。子はB級グルメを食べたがり、それを二人で半分ずつとコンビニのおにぎりで腹を満たした。

父と弟は相変わらず無口だった。可愛い孫が目の前にいるというのに、淡々と自分の世界だ。なので、子供心に多少気を遣う相手であっても、母の方に子は懐いていた。


「ばあばに買って貰ったー!」


目を離した隙に、子が20cm程のゆるきゃらぬいぐるみを抱きかかえていた。母は満足そうな表情で私の方を見る。


「え、あ、買って貰ったんだね。お母さん、ありがとう。」


「いいのよ。お父さんからまたお金貰ったから。」


内心、またどこかでその分を払い戻さなければーという計算が頭の中で働く。咄嗟に思い付いたのが、墓参りついでに寄ると言っていた親戚の家に渡す供え物だ。適当に店内を見渡し、モンドセレクション金賞だというバームクーヘンを購入した。


「お母さん、叔父さんちにこれ。」


「あ、いいのに!もうこっちで用意してるわよ。じゃあこれはうちで頂くわ。」


なんだか空回ってしまったが、この日の母は機嫌が良かった。久しぶりの遠出にちょっとした旅気分を味わっているからなのだろう。そして、それは私もそうだった。海沿いを車で走るー、子が窓を開けると、途端に潮風が車内を覆い尽くす。母は饒舌だった。私と子がそれに答え、父は黙々と運転する。子は隣に座る弟に遠慮しながらも、次第にその空気に慣れて来たようだった。弟は障害を持っており、人とうまくコミュニケーションが取れない。姉である私とも取れないのだから、姪となどもってのほか。むしろ、姪を姪と思っているかさえ疑わしかった。二人が目と目を合わせて会話をしたところを、子が誕生したあの日から一度だって見たことはないのだ。

高速を降り、目的地の側まで来たところで小さなスーパーに入って花を買った。それは勿論私の役目だ。お彼岸だからか、1束598円もしたのは、そのスーパーが寂れており普段人が来ないことからか?それを2束購入し皆の待つ車内に戻る。


「なんだか元気のない花だねぇ。」


遠慮なく母が言う。確かに値段の割に、所々しなびた風の花束だった。598円もしたのだーと言いたい気持ちをぐっとこらえる。しかし、供えの花をケチったなどと思われるのは御免だ。


「店にこれしか置いてなかったんだよ。それなのにこれ二つで1200円もしたんだよ~、ぼったくりだよね。」


冗談っぽく笑いを込めて事実を伝えた。


「へー!そんなにしたの?見えないね、見えない。」


母は大袈裟に驚くと、それからは大人しくなった。メールを見る。夫からの着信はまだない。もう一度、メールをした。


『今、現地に着きました。これから墓参りです。その後、叔父のところに寄ってから帰宅する予定です。また連絡します。』


沈黙の携帯に胸騒ぎー、突然のことなのと、自分だけがないがしろにされたと怒っているのではないか?時間が経つにつれ不安が募る。
どこにいても、夫と母の顔色を伺い続けなければならないことに、少し疲れて来ていたー




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コーヒーファーム

子と一緒でも、一人ぷらっとでも、買い物ついでに駅前にあるカ○ディに寄るのが私の癒しだ。入口で配っている甘いコーヒーを飲めるのもいい。カップ片手に、特に用はなくてもぶらぶらと異国の調味料だったり菓子だったりを眺めていると、大袈裟かもしれないが、ちょっとした旅行気分。
海外のスーパーにいるような、そんな気分。

買う物はいつも大体決まっていて、スパイスなどの調味料、それにパスタとトマト缶。余裕があればお菓子も買う。お気に入りは、赤いパッケージのサブレ。安くて美味しい。今回、賞味期限間近で50円もせず買えたのはお買い得だった。

この店は、図書館と同じく一人で来てる人が多いような気がする。コーヒーの香りが漂う店内で、時間と気持ちに余裕があるー、そんな人達の憩いの場。
少しの好奇心から、いつもは使わない調味料や食材を使って料理をしてみること。日本では見ない彩りの鮮やかなパッケージに釣られて、甘すぎるかもと思いながら菓子を選ぶ楽しさ。今ならお月見だったりマロンだったりの限定物商品で季節を感じたり。




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ここに来ると、ついつい要らない物まで買ってしまいたい欲求に駆られるけれど、ぐっと我慢して厳選する。これもまた楽しい。際限なくあれこれ買い物が出来る贅沢さに憧れるけれど、しかし、私のような凡人には、限られた中から欲しい物たちを迷いつつ、取捨選択する楽しみもまた贅沢なひと時だ。

一旦かごに入れたチョコレート菓子を、やっぱり・・と思って棚に戻す。3つあったはずの乾麺を、お試しなのでと1つに絞る。ノリで入れた、店頭目玉商品のスープを、思い直して棚に戻す。スープは面倒でも手作りにしようと心の中、独り言つ。


「ママ、まだー?」


子に急かされて、結局買ったのは4つだけ。岩塩とサブレと、それからパスタにトマト缶。サブレ以外は絶対に必要だった物だから、無駄遣いしてしまったという罪悪感もない。

今日は、午後から子の友達が遊びに来ると言う。その子の親は休日だというのに働いているとのことだ。差し出がましいと思いながらも、昼ご飯を一緒にするか聞いてみたら、する!と嬉しそうにしていたそうだ。一応、アレルギーがないかは確認済みで、子を通してだが、向こうの母親にも了承を得たようで、小さなメモを預かっている。
ランチは、子供達が大好きなパスタ。余り物で作るそれは、正直おもてなしって感じでもないけれど・・ベーコンとなすのトマトパスタ、喜んでくれますように。




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シルバーウィーク

爽やかな晴天ー今日からシルバーウィークだ。
我が家は通常運転。夫は仕事、子は何日かは友達と約束をしているらしい。しかし、久しぶりに「ママとデート」をしたいと言ってくれたので、少し足を伸ばして電車で原宿辺りにショッピングへ行こうかと思っている。

子が一緒だと、ついつい散財してしまう。内職で得た金は、殆ど歯科矯正の費用になってしまっているが、端数は気持ち良く使うことにしている。
本当ならば何かの為に貯金をしておく方が賢明なのだろうが、だからといってキリキリした生活は情緒を不安定にさせるので嫌なのだ。

家計で回さないとならない物ー、食材や日用品、また雑貨などは1円でも安い物を求め遠くのスーパーまで自転車を走らせたりもする。
しかし、子の物となると話は別だ。文房具やヘアアクセ、カバンや服などは、多少高くても良い物を選んでしまう。女の子だからかもしれないー、可愛らしいデザインの服やキラキラした小物を子の為に買ってやる時、自分の物欲も満たされるのだ。脳内からアドレナリンが出ている感じー子が喜んでいる姿を見ると、それだけでストレス発散になる。




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この間も、一人、ショッピングモールをプラプラしていた時に、ふらりと立ち寄った子供向けの雑貨屋で色々見ていたら合計1000円もの金を使っていた。
購入したのは、最近子供同士で流行っているゴムで作るアクセサリーのキットーこれが700円くらい。後は学校に持って行ったら自慢になりそうな可愛い定規。
定規が壊れてしまったので、新しく買って欲しいと頼まれていた。百均でも売っているのだが、ファンシーショップで買うそれは女の子の「カワイイ」を満たしてくれる色だったりデザインが目白押し。本当なら子に選ばせるのが一番だが、急を要していたのもあって私が見に行くしかなかったのだ。

ラッピングの必要もないのだが、どうするか聞かれてプレゼント用だと店員に告げる。エコに反するし、店員には余計な仕事を増やして申し訳ないのだが、子がワクワクしながら包を開ける様を思い浮かべると胸がときめく。

子が帰宅し、包を渡す。てっきり定規だと思って受け取った子だったが、包が可愛らしいリボンとシールでラッピングされていたことと、その大きさから期待が一気に膨らんだようだった。


「え、何これ?プレゼント!?」


はしゃいだ声に満足する。


「うん、この間の学期末テスト、頑張ったでしょう。」


だいぶ前の話になるが、100点を取ったご褒美。いつも、テストで満点を取ったご褒美は100円と決まっているのだが、今回はプレゼントということにした。


「あ、これってOOが欲しかったやつ!!それに、この定規ってアリス?可愛いー!!」


包を開けて、大興奮の子の姿にますます満たされた気持ちになる。そして、次は何を買って喜ばせようかと考えている私がいる。


ー孫が出来たら、色々買ってしまうお婆さんになるのかな。


遠い未来を想像する。そして、そんなお婆さんになれるように、自分で稼ぐ力をいつかは身に付けなければならないとも思う。

子とのデート、しかし、散財し過ぎないように予算を守って行くつもり。またねだられて、キラキラのネックレスやヘアアクセサリーを買うハメになるのかな、と心の中で苦笑する私がいる。




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リトマス試験紙

「もしもし、私よ。」


第一声で分かる、猫撫で声。長雨が続く日中、実母からの電話。
いつもは自分の病気ネタや親戚の愚痴をまくしたてる彼女が、珍しく私の体の心配と子の最近の様子を聞いてきた。素直に娘として嬉しく、しかし心のどこかで疑う気持ち。悲しいことだが、母の優しい素振りは落胆させる何かの前兆であることが多い。そして、毎度のことのようにその予感は的中するのだった。
まるで、世間話のついでかのように出た従姉妹の話。例の金持ちだが不妊治療に悩む従姉妹のことだ。彼女の母親とは定期的に連絡を取っており、その孝行話がまた始まったのだ。


「O×ちゃんから毎月3万もお小遣い貰ってるんだって。すごいわよねー。あの子、結婚する時に300万も置いてったらしいわよ。本当、親孝行よね。それだけでもびっくりだったのに、結婚した今もまだ親に仕送りしてるなんて本当、育て方が良かったんだろうね。」


うんざりだ。
こうしてまた私に揺さぶりを掛ける。こう言えば、私が微々たる金額であっても金を出すということを彼女は熟知しているのだ。育てて貰った礼ーそう思い、今までも母に金を渡して来た。
独身の頃、


「あんたはざるだから、そんなんじゃ結婚資金たまらないわよ。お母さんが管理してあげる。」


そう言って、給与口座の通帳を預かろうと申し出た。それは有無を言わせないー、金を預けること=母を信頼しているということ、を証明させるリトマス試験だと言わんばかりの押しの強さがあった。
しかし、その頃買い物依存に陥っていた私は、全財産を管理されることに抵抗があり、ならばーと財形だと思って毎月3万は生活費とは別に母が元々管理している私名義の通帳口座に預け入れることにしていたのだった。
その通帳の暗証番号を聞くことすら、自分名義だと言うのに母を信用していないことになる気がして聞けなかった。名義は「私」 なのだが、その口座は、私が誕生した時に学資代わりとして開設したものらしかった。そもそもそこにいくら貯めていくら使ったのかは分からず、


「もうそれは全部使っちゃったわよ。」


と、聞けば母は言うかもしれない。それなりの塾や習い事に通わせてくれていたのは事実なのだ。しかし、バイトから社会人になってまでの月々結婚資金として貯めといてあげるという費用は、とうとう本当に式をあげる前日になっても親の方から出して来る気配はなかった。
そしてそれを問い詰めるのは、娘として親を失望させるに違いないー、そう思いその存在を忘れることにしたのだ。私達の親子関係で、子から親への金の要求はタブーなことなのだ。

最近、歯科矯正でへそくりがわずかになり、母にあの頃預けていた通帳にはいくらくらい残高があるのだろう?と想像することが多くなった。
普通に、バイト~仕事をしていた月数に3万を掛けると、余裕で3桁はあると思われる。そのことを問い詰めたい欲求が現れるのは、決まってこんな風に母が従姉妹を引き合いに出す時なのだった。


「本当、あそこも老後は悠々自適よ。老後破綻なんて言葉、あの家には無関係ね。私達には切実だけど。」


冗談めかしてか、半笑いしながら受話器の向こうで嫌味を言う実母。まるで、老後破綻は出し渋りの悪い娘とケチな夫のせいだと言わんばかりにー


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ーお母さんが作ってくれた私名義の通帳、私が働いてた時結構な額入れてたよね?OOに使いたいから返して欲しいんだけど。


喉元まで声が出掛かる。
暗証番号さえ知らない、私名義の口座。


「結婚する時、渡すから。」


そう言いながら、いつまで経っても出て来なかった金。


「あんたの為よ。何かあった時の為にお母さんが管理しておいてあげるから。」


何かあった時ーその金を要求する時、その何かが何であるのかを包み隠さず伝えなければならないー、隠し事あっての要求は受付ないのだ。


ー独身の頃預けてたお金っていくらくらいだっけ?あれ、お母さんに全部あげるよ。


そう言えたらどんなにすかっとするか。そもそも、穿った見方をすれば、既に全て使われているのかもしれなかった。あるのかないのかさえも分からない金。
そして、それを確認することは、母を信頼していないことに繋がる。


「O×ちゃん、いずれまた薬剤師として働くらしいわよ。ますますあの家は安泰よね。老後は高級老人ホームにでも入所するんでしょうね。」


くすぶり続ける実母への疑惑が爆発する前に、


「あ、ごめん。これから学校のパトロールなんだった。またね。」


受話器を置いた。
何故、あの口座に毎月3万もの金を預け入れていたのだろう。こうなることをあの頃の私は想像していなかったのか?あげたとも預けたとも言えない金の行方を知るのはまだまだだいぶ先ー、母がこの世を去った頃になるのだろう。









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まごころ便

ピンポンー

チャイムの音。玄関に出ると、いつもの宅配業者だ。また夫が何かくだらないものを頼んだのだろうか?


「え・・と、OOさんですよね?」


驚いたことに、宅配業者は私の名を告げた。急いで印鑑を押し、包を受け取りリビングへ。差出人は、引越し前のママ友だった。急いで中を開けると、そこには旬の果物がーがたくさん入っていた。それと共に、手紙と可愛らしい彼女手作りのミニポーチまで。
手紙には、梨園を営む親戚から送られて来て食べきれないとのこと。商品にならなかったもので見た目悪いけど、美味しいから良かったら食べてーと手短だが温かみのある文字で書かれていた。

嬉しかった。彼女なら、ご近所やママ友関係、多くに配るアテはあるだろうにー、わざわざ配送料を掛けてまで私の元に送ってくれた、その心遣いにジンときて、涙が滲んだ。この地でママ友と呼べる人がいない孤独感も、こうした彼女の存在が薄めてくれる。ありがたいな、と思った。
大人になり、友達が出来なくなった。いや、子供の頃から友達作りが下手だった。そしてこれまでの人生に「親友」がいたためしがない。学生時代から社会人、そして結婚して子供を産み育てる中で「親しい人」は少ないながらいたけれど。彼女もその一人だ。同じ環境だったり似た境遇だったり、その時を「共有」してきた同士のようなー、そんな存在は片手で数える程だけれどこんな私にだってあるのだ。
今ひとりぼっちでも、いつかの過去に仲良く笑い合い、互いを知り、気持ちの良い時間を共に過ごした仲間ー


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人との距離感を詰めるのが苦手だ。時間を掛けてそうしようとすると、いつの間にか疎遠になる。結局のところ相手に踏み込まない、踏み込めないから。本当に思っていることは口にせず、相手が気持ち良くなるような言葉を口にするのだ。それは、相手を思ってのことではないしある意味冷たい人間なのかもしれないということは自覚している。でも、白黒付ける勇気がないのだーそれをして「拒否」されることの恐怖心がそうさせるのかもしれない。なので、引越し前のママ友のように、グイグイこちらに来てくれる人とは案外長続きするのかもしれない。

引越し前のママ友とは、勿論、子育てに限らず色々な話をする。しかし、その殆どは彼女から振られた内容に同調したり質問をしたりするだけ。私はずるい人間で、夫の本当の姿だったり実母との関係だったりを彼女の前でさらけ出してはいない。よくある夫婦間の愚痴ー「夫は脱いだら脱ぎっぱなし」だとか、「実母はいちいち口うるさくて困る」だとかは口にするけれど、そのどれもは上辺だけの悩み事なのだ。
引越し前のママ友は、良い意味で鈍感な人なので、こんな私の裏を知らない。だから、こうして穏やかな関係を続けることが出来るのだろう。彼女の方は、すっかり心を開いてくれているのが分かる。なのでこちらも肩の力を抜き、安心して付き合いを続けられる。私以外の人間にもそういったプライベートの話は気軽にする性質なのかもしれないが、その内の一人であってもその瞬間、私を最上の聞き手として選んでくれたのだと思えば、なんだか自分が彼女にとって唯一無二の存在のようで嬉しく思う。


今朝、夫と子の朝食に彼女から貰った梨を出した。2人共、食欲のない朝であってもそのさっぱりとした口当たりのお陰で残さず食べた。彼らを送り出し、残り物を洗い物をしながらいくつか詰まんだ。食後に、彼女から貰った梨の皮を丁寧に剥いて、お気に入りのガラスの器に盛った。そして、時間を掛けてゆっくりそれを食べた。
梨は、思う以上に瑞々しく、日頃乾いている心を優しく潤してくれるのだった。






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授業参観○懇談会×

子の授業参観だった。数日前から半分楽しみ、半分憂鬱。授業参観は良いのだが、その後の懇談会に出席するか否かをずっと迷っていた。
悪魔が耳元で囁く。


ーどうせ2学期だし、大した話もないはず。出席したところで時間の無駄。


一方、天使はこう言う。


ー専業主婦で一人っ子親だっていうのに、我が子の懇談会にも出席しないだなんてどうかしてる。担任からもやる気のない親だと思われるし、周囲からも変な親だと思われる。

子のクラス前の廊下には一台の机があり、そこには配布プリントと保護者出欠簿が置かれてあった。生徒の名前の横には2つの欄ー「授業参観」「懇談会」の2つだ。
授業参観の欄には大体の保護者が○を付けているようだったが、その隣の懇談会についてはちらほら空欄があった。ざわざわとした廊下ー、取り敢えず授業を観なければ。
特に顔見知りもおらず、また挨拶をしなければならないような顔ぶれもなかった為、一人黙々と入口から窓際の端っこを陣取り、子の様子を見ていた。
去年はスネオママらがいたことで、授業も集中出来ずにいたが、今回のクラスは殆ど知らない人達だったので気楽だ。しかし、相変わらず幾つかの群れがあり楽しそうにしているのを横目で見ると、何となく落ち着かなくなってしまう。私の悪い癖だ。

授業は算数だったのだが、子は相変わらず目立たず、しかしクラスメイトや担任の話は良く聞いていた。自分は大人しいのを棚に上げて、子には目立って欲しいと思う親心。十人十色だと分かっていても、薄暗いグレーよりも元気な黄色や可愛いピンク色に我が子は染まって欲しいとどうしても願ってしまう。しかし、それは自分の胸にだけ納める。子にそれを伝えてしまえば最後、余計なプレッシャーを与えるだけ。それは、私が子供の頃に受けていた辛さなのだということを思い出す。
長い目でー、いつかの将来、子にしか出せない色に染まれば良いのだ。

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隣には、赤ん坊を抱きかかえた母親が体をゆらゆらさせながら参観していた。ビスケットを与えつつ、騒がせないよう細心の注意を払っており、自分の子供の様子に集中することが出来ないようで不憫だった。
また、2~3歳の下の子供を連れた母親達も、参観に集中出来ないようだった。パズルやシールを与え、静かにさせようと頑張るも、廊下で騒ぎ出す子供達を追い掛け出す始末。同じ年頃の下の子供達を持つ親らは、授業が始まる頃は初対面だったようだが、いつしか世間話をする程に親しくなっており、その人間関係構築のスムーズさに息を飲む。
このように、私はフリーなので授業をじっくり観ることが出来る癖に、周囲の保護者達の関係性やスペックを観察ばかりしているどうしようもない親だった。


授業が終わり、懇談会ー
授業参観に出席している親のうち3分の1は×印だったこともあり、私もその流れに乗って帰宅してしまおうー悪魔の声に負けてそうしようと思っていたのだが、実際帰宅するのは幼い下の子連れや赤ん坊連ればかりー。知り合いに挨拶をしつつ帰宅して行く彼女らの後ろ姿を目で追いつつ、判断し兼ねる。出欠簿の懇談会欄は、相変わらず空欄のまま。×を付ける勇気もなく、かといって○を付ける度胸もなく、だらだら迷いながら周囲の様子を伺う。
廊下には、いつしか誰ひとりとしてぽつんと佇む母親はいなかった。皆、親しげに会話をしている。いつの間に?そもそも知り合いだったのか?大小異なる群れに挟まれて困惑していると、担任が教室から顔を出し、


「お待たせしましたー。準備が出来ましたので、空いているお席にお座り下さい。」


ぞろぞろと知り合い同士、相談しながら着席して行く。埋まっていく席を見ていたら、胸がドキドキして止まらなくなった。恐怖感が私を支配し、冷や汗まで出て来たのだ。
具合が悪くなり、外の空気を吸おうと昇降口まで出た。その足で、私は校門を目指す。振り返らず、早足で。もう教室に戻る気力は湧いてこなかった。

空欄のままの出欠簿ー、担任はどう思うだろう?しかし、それよりもこんな母親を持つ子はどう思うだろう?情けなくて涙が止まらなかった。




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写真家気取り

昨日は気分良くカメラを持参し、隣街まで出た。そのまま電車に乗って海にまで行きたい気分だったが、子が帰宅する時間を考えると到底無理な話。しかし、一人で遠出したい、そう思わせるのに十分な趣味と言えるものが自分にも出来たという事実に満足している最近のこと。


秋晴れと呼ぶにふさわしい気候の中、隣街にある気に入りの公園に出掛けた。しかし、案外人はそう多くおらず、未就園児の親子連れが多くいるかもしれないと少々臆していたのだが、案外それも目立たず数人のみ。後は犬の散歩や若者のジョギングなど、私にとってそこは居心地の良い空間だったし、写真を撮る条件としても最高だった。
少し前、「カメラ女子」という言葉が流行り出し、若手女優やモデルなどがこぞってカメラを首から下げていた頃があったのだが、それが過ぎた今では、流行りに乗ったおばさんというレッテルも貼られずに済むので具合がいい。やはり、この年ですぐ流行りに飛び付く行為は、どこかみっともなく痛々しさを感じさせるものがあるのだ。

カメラを片手に、うろうろ歩く。木々や空、花や噴水など目につくものにシャッターを切る。頭を空っぽにしてー、ただ本能のままにー。そうしている自分に酔っている部分も正直あった。有り余った時間を有意義に過ごせているー、充実している私ー。


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「すみません!」


突然、強い力で肩を叩かれた。物凄く驚くと、人は一瞬息が止まる。止まった息を吐き出しつつ振り返ると、私と同じ世代の女性が眉間にシワを寄せて立っていた。何か、酷く怒っているような顔つきだ。


「さっきそのカメラで水遊びしてるうちの子撮ってましたよね!?許可も得ずそういうことをしていると訴えられますよ!!」


子供を撮った記憶はまるでなかったが、しかし、噴水を撮った記憶はある。彼女に急かされデータを確認すると、確かに噴水の横でしゃがんでいる小さな後ろ姿があった。


「あ・・え・・と、これですか?でも、顔は写していませんよ。」


私も馬鹿だった。すぐに謝って削除すれば良かったものの、この日はまるでカメラマンになったかのように気分が高揚し、目に飛び込む自然達から、必要以上のポジティブさを得ていたのかもしれなかった。


「そういう問題じゃなくって!!お宅、電話番号と名前教えて下さい!!」


母親は金切り声を上げた。あぁ、しまったーそう思った時にはもう手遅れだった。すぐに謝罪してその場でデータを削除したというのに、それでも彼女は私を許してくれず、氏名と携帯電話の番号、それからメールアドレスを教えるよう促された。彼女の差し出す小さなメモ帳にしぶしぶそれらを記入すると、ようやくその場から解放された。
周囲からは、直接こちらを見ていなくてもそれと分かる野次馬的な視線があちこちから注がれていた。穴があったら入りたいーきっと、素人のカメラマン気取りが馬鹿を見ていると思われているに違いない。
親子が去った後、もうそこで写真を撮る気力は残っておらず、すごすご公園を引き上げ自宅に向かった。嫌な目に合った。これでもうしばらくあの公園には行けないだろう。とっておきの写真スポットだったというのにーアクティブにー慣れないことをするといつもこうだ。
パソコンにデータを写してチェックする。全てが自己満足の世界。その世界を忌み嫌う人間だっているのだ。

あれから携帯はまだ鳴らないが、いつ鳴るのだろうと恐怖に怯えている。ただの脅しだったのかもしれないし、もしかしたらこれから大ごとになるのかもしれないー不安感が押し寄せ、また眠れない日々が続きそうだ。




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投稿写真

昨夜は夫が上機嫌で帰宅。何でも、社内である賞の表彰が決まったらしい。詳細は省くが、それにより今後の査定にも影響するのだろうから私も他人ごとではない。
それでもー、同じ家族だというのに夫の晴れの舞台を心底喜ぶことが出来なかった。家での横柄な態度もそうだが、内助の功とまではいかなくても、子や家のことはほぼ私に丸投げ、仕事に集中出来る環境を与えてるのだからそういった賞を得る機会が与えられたと、少しは私に感謝を示して欲しいと思うのは我侭だろうか。
そんな私の思いなど露知らず、夫はとにかくよく笑い、喋り、食べ、飲んだ昨夜。子とも久々にゆっくり食卓を囲んだことで団らんも大いに楽しんだように見えた。

食い散らかされた食器を洗いながら、尚もまだ、夫はビールを片手に話を続けるーいかに自分がデキル人間なのか、部下から慕われ上司から一目置かれている人間なのかと。
子がテストで良い点を取ったのなら、素直に喜べるのに、夫に対して同じ様に思えない。私にとって夫は一体誰なんだろう?家族ではないのか?夫の活躍を素直に喜べない自分が妻としておかしいのかもしれないと思いつつ、しかしそれは夫の日々の行いのせいだと恨む気持ちもどこかにあった。


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朝、夫と子が出て行き、洗濯物を回している間にコーヒーを飲みながらフリーペーパーを眺めていた。そこに、1枚の素敵な風景写真があった。投稿写真だ。76歳の老人が投稿したものだが、その1枚からどこかで見たかのような懐かしさを感じた。ふと、昔のことを思い出した。
学生時代、単語帳をめくりながら電車から眺めたあの景色ーそれに似ていた。たった1枚のどうってことのない投稿写真だったのだが、その風景は私の心を遠い過去に一時連れて行ってくれたのだ。それは、ある種の時間旅行だった。写真には、それを見る人それぞれに、それぞれのストーリーを与えるのだ。

ふと、写真の募集要項に目が留まる。応募してみようかー掲載されると謝礼も貰えるらしい。まだ写真は始めたばかりだけれど、一人、ただ黙々と写真を撮る行為にマンネリも感じていた。
よし、そうしよう。そうと決まると、大急ぎで洗濯を干し、掃除をし、一通りの家事を終えた。てきぱきと動く自分に、デキル主婦だと錯覚する。家から一歩も出ない日は、自堕落なのだ。そして、それを後ろめたく思う自分がいつもいるのだ。

秋晴れの心地良い太陽の光を浴びてー、今日はカメラ日和。外の空気はきっと、落ちそうな気持ちを前向きにしてくれるはずだ。




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ぽつんの週末

今朝は大きな地震に起こされた。突然の揺れに驚き、布団からガバリと飛び起き、少しすると揺れは治まった。隣では子がすやすやと寝息を立てている。先日の土砂災害といい、一体日本という国はどうしてしまったのだろう?何か、とてつもないことが起こる「警告」のように思えて仕方がない。
携帯電話の時計を見ると、アラームが鳴る15分前だった。

土曜出勤である今日は、いつもより1時間以上早く家を出ると言っていた夫。逆算し、朝食と弁当の準備を考えればもう起きなくてはならない時間だ。
手早く身支度をし、窓を開ける。久しぶりの晴れ間に鬱々としていた心にも新鮮な風が吹き抜ける。第一陣の洗濯を回し、均等に切った豆腐とわかめ、それに少しの揚げを入れた味噌汁を作る。隣のコンロでは並行して弁当のおかず作りだ。主婦に土曜も日曜もない。


夫を起こすと、まだ寝足りないからか機嫌が悪かった。まるで子供だ。目の前に並べられた朝食をちらっと見ると、味噌汁を少しだけ啜って漬物を箸で突っついて、ご飯を一口食べたら箸を置いた。
文句の一言でも言いたいが、ぐっとこらえ、まだ手をつけていない自分の茶碗に入った米を炊飯器に戻した。そして、夫が一口しか食べなかったご飯の入った茶碗を手に取り、そのまま口に運ぶ。


「貧乏臭い。」


それを見た夫がそうつぶやき舌打ちをした気がしたが、聞こえないふりをした。

ー貧乏臭い?いや、そう思うお前の方が貧しい心の持ち主だろうが。

最近、心の中で夫のことを「お前」と呼んでいる。特に生理周辺のイライラ期、そう呼ぶことが増えている。心の中の言葉遣いは酷いもので、もしそのまま口に出したら夫も子も仰天するに違いない。しかし、それが表向き平静を装う為のストレス発散になっていることも否めない。



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夫を見送り、土曜なので遅く起きた子に第二の朝食を与える。TVを観ながら食べようとしている子をたしなめ電源を切る。そして、今日は何しようか?と子にお伺いを立てようとする前に、


「ねえ、今日遊びに行ってもいい?」


こう言われてしまった。土曜なので児童館が空いているのだが、そこでクラスメイトの数人と待ち合わせをしているらしい。その数人の母親は働いているらしく、週末も暇を持て余しているとのことだった。
宿題と復習だけはして、昼を食べてからならという条件で先程送って来た。子は飛び跳ねるように児童館の中に入って行った。そして私は、少しの買い物をして帰宅した。


なんだか取り残されたような気分だった。いつものことだけれど、こんなに天気が良いというのに家に篭っている。こんな日は、子と一緒に電車に乗ってお茶でもしに行きたかったのだが・・
しかし、今は節約。それにー、そろそろ本気で仕事も探さないとならない。そこでネットで求人を探そうとしていたのだが、何故かこうしてブログを書いている。
私の意思は、豆腐より柔らかいのだ。


朝早かった夫、今日は帰宅が夕方だと言っていた。そして必ず夕飯は自宅で取るだろう。コロンは付けていなかったし、パンツも使い古した物を履いて行ったからと確信する。
私は料理に自信がないが、味のうるさい夫から褒められたものだけはきちんとレシピ帳に記録し、忘れないよういつでもその味を復元出来るようにしている。
冷蔵庫を開けると、鳥もも1パックとたまねぎが大量にあった。なので、夕飯はディアボラチキンに決定だ。
レシピ帳のメニューは、夫が残さず食べた物に限る。少しでも気に入らないと箸を置く夫には、結婚当初から手を焼いているーしかし、ある意味分かりやすい人だとも言える。カレーかレシピ帳の料理を出せばその殆どを文句なしに平らげるのだから。


フライパンに、温めるだけのチキンソテーと上に掛ける大量の玉ねぎソースは既に別鍋に用意出来た。後はサラダとスープ、小鉢で数品出せばいいだろう。
平日と変わらない、一人きりの週末。違うことと言えば、いつもはそれなりに満杯な駐車場にある車達が出払っているということだろうか。
皆、まだ暑さは残るが久しぶりの日光浴を家族団らん、楽しんでいるのだろう。私はそんな仲良し家族を尻目に、求人を眺めながら子を迎えに行くまでの時間、大好きなチョコレートとアイスコーヒーを傍らにしばらくソファーに横になろうと思う。




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少女漫画

「ママ、パパとキスしてる?」


ふいに子から質問を投げかけられ、ドキリとする。その他にも、


「OOが寝てる時にしてるんでしょう?きもーい。」


どこで覚えたのだろう?最近ぐっとませた子に戸惑う。そういえば、夏休みくらいから友達の影響なのか?少女漫画にはまっている子。暇さえあれば漫画を読んでいる。
休みの間、どこにも出掛ける予定がなく、また友達との約束もなく、私も内職で子を構ってやれない後ろめたさから、子が欲しいと熱望していた少女漫画雑誌を買ってやったのが始まりだった。
クラスの女の子達が皆読んでいるものーその言葉を鵜呑みにし、中身をよく確認せずに買ってやった雑誌だった。私も少女時代、この手の雑誌を購入していた。毎月発売日になると、少ない小遣いをやりくりしつつ小さな財布を握り締め、本屋に走ったものだった。その頃の記憶があるのだろう、キラキラした瞳の男の子と女の子が手を取り合い笑い合うーそんなお花畑なイメージこそが私の中の少女漫画の定義でもあった。
しかし、子が学校に行っている間に思い立ち、ふと本棚に並んでいる漫画雑誌をパラパラめくり驚いた。
そこには、私が思い描いていた内容とはかなり掛け離れた、まだ早すぎる高学年の女の子達向けの内容と思われる男女の描写が多く含まれていたのだ。
流石に、裸で抱き合うような描写はなかったものの、どの頁を繰ってもキスだらけ。私の主観だけれど、どこか「性」描写へと妄想が続きそうなキスも幾つかあった。
まだ子にとっては未知の世界ー、そう信じている親にとっては、十分衝撃的過ぎる内容だったのだ。子が私を驚かせるような質問をしたのも、やはりこれらの漫画に影響を受けていると言ってもいいだろう。

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ゲームばかりもよくないだろうと与えた漫画ー、しかし、年頃の女の子に読ませるものには注意した方が良かったと思うものの、与えてしまった後ではもう遅い。
ならばー、子が妙な妄想に走らないように、私も一緒に「共有」すれば良いのだと気付く。共に読んで、その内容を語り合うのだ。友達同士のように。
うざったい母親かもしれないと思ったが、しかし予想外に、私が漫画を読んだと告げると子は喜んだ。やはり、まだまだ低学年なのだ。

家事の合間、なんとなく読み始め、ついには止まらなくなり最後まで一気に読んでしまった。読み進めると、漫画の絵だけでどきついと思わせる内容が実はそうでもなかったりして、頭でっかちで先入観に捕らわれていた自分に気付く。
そして、なんとなく遠い昔に味わった甘酸っぱい懐かしい記憶が蘇る。この間までおむつを付けていたと思っていた子が、こうした想いを胸に秘め、誰かに恋焦がれる日がじきに来るのかと思うと少し寂しいのも正直な気持ち。
いつか訪れるその日ー、せめて、子が恋愛相談をしたい、そう思わせるような母親になりたい、なれたらーと思う。






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矯正代

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矯正代がへそくりでは足りず、夫に予め考えていた嘘を付いた。実家で冠婚葬祭があったということ、結婚と出産と葬儀ー3件あったと普通ならばそれが一気であるから胡散臭いと思われるだろうことだが、酒が入っているところを見計らって話を切り出したので、嘘だとバレずに済んだ。
私も気付けにワインをグラスで3杯程飲んだ後だ。飲み会だった夫、フラフラになりながらも機嫌良く帰宅し、風呂に入り出て、まだ飲み足りないのか冷蔵庫にビールはあるかと聞かれたその時、チャンスだと思った。


キンキンに冷えたグラスにビールを注ぎ、一応申し訳程度に凍らせていた枝豆を解凍して皿に出す。それをリビングに持って行くと、珍しく私の分のグラスも持って来るように言われたのだ。
そういう時の夫は何か良いことがあったサイン。仕事上かプライベート上かは分からないが、とにかく気分が良いのだろう。



「俺のプレゼン、社長に褒められたよ。」


ここ数週間、そのプレゼン準備でピリピリしていた夫、夏中残業三昧だったし、たまに家にいても自室でPCをしていることが多かった。勿論その合間にイヤラシイサイトにアクセスしていることは知っているが、生理的欲求をうまく自分で処理しながらも、納得の行く物が出来たのだろう。
周囲からの高評価に、本人も嬉しさを隠しきれないようだった。もう、今しかないー


「あのね、うちの実家で今度従姉妹が結婚するの、それからもう一人の従姉妹も出産することになって・・それから叔父が亡くなったの。で、お祝いと香典代が欲しいのだけど・・」


それまで笑顔だった夫の顔色が変わる。


「え?なんでそんな立て続けなの?っていうか、そんな遠縁の分、もう嫁に出たんだししなくていいんじゃない?」


あまりにも非常識な物の考え方に驚く。夫の実家側の冠婚葬祭のお祝いや香典、一応実家からということで私のへそくりから今まで出して来ているというのに・・


「でもさ、毎回そっちの香典とか、うちの親出してくれてるし。ほら、うちの親戚もちょっと色々うるさいから。」


うるさくもないし、そもそも実両親は義両親に対して不義理であるというのに、少し大袈裟に伝えた。夫は機嫌良く話していたところに水を差されたような思いからか、少々不満そうな顔をしながらも、しぶしぶ了承してくれた。
これで、2万5千円得ることが出来たーさて、残りの8万をどうするか?やはり、単発でもいいからアルバイトを探そうと思う。





















































オーデコロン

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私も体臭はあるけれど、夫は年々オヤジ臭が酷くなって来ている。毎日枕カバーは洗濯し、天気が良ければ枕も外に干しているというのに、朝になればたちまち漂う枕からのにおいに思わず顔をしかめてしまう。

ツーリング仲間と会う日は、いつも以上に夫は身だしなみに配慮する。分かりやすいといえば分かりやすいのだが、あの女性の為に小奇麗でいたい男心に嫉妬する自分も否めない。
私が整体に行く際、いつもより念入りに化粧をするのと同じ感覚だろうか?

最近、仕事もノリに乗っている夫は、朝から鼻歌混じりでご機嫌だ。そして、最近購入したのだろうか?馴染みのない香りを漂わせながらダイニングにつき、いつも通りの朝食を腹に収める。髪もワックスでばっちり決めて、ネクタイもお気に入りのブランドの物。一日自宅にいる時とは別人、普段、家では全体的にもっさりとした容貌なのだ。
彼女と深い関係になっているとは思っていない、夫のことを信じていると言えば聞こえはいいが、単にそこまでの度胸がないのだ。それは私に対してーというよりも彼女に対して。恐らく、彼女にそれ以上を求めて断られた時の自分の立ち位置を考えると、一歩前に踏み込めない何かがあるのだろう。

夫とはセックスレス、会話も弾まない、私が昔夢見ていた「縁側に並んで腰掛ける老夫婦」のような未来は見えないー、それでも私は夫の妻であり、夫との間には子供もいるのだ。
その現実はいくらか私に力をくれる。そして、その力がジェラシーを呼ぶのかもしれなかった。

夫がここぞと言う時に、使いもしない癖に履く気に入りのブランドトランクスー昨日、そのトランクスにこっそり穴を開けたのだ。本当なら、それに「くさや」でも擦り付けておきたい気分だったが、それだと夫にすぐに気づかれてしまう。なのでばれないように抵抗するにはこれが精一杯のやり方だったのだ。
プライドがひと一倍高い夫のことだ、穴の開いたパンツで好きな女の前に出ることなど出来ないだろう。もしも「その時」が訪れた時に、ここで踏みとどまって欲しいと思うのは子の母親としてだろうか?夫の妻としてだろうか?それとも女としてのプライドとしてだろうか?
ハサミで夫のトランクスに穴を開けている最中は無我夢中だったものの、終わればその穴以上に大きな穴が心にぽっかり開いた気がした。正面切って話し合えない夫との関係性にうんざりするよりも、虚しさで全ての気力が失われていくような、そんな感覚。

夫が新しく購入したオーデコロンは有名ブランドの物で、3000円ちょっとの物だ。彼女の好きな香りなのだろうか?私はコロンを付けるような男は嫌いだ、それだけで軽薄な人間にさえ思える。しかし、そんな私の趣向などお構いなしに、夫が去った後のリビングはその残り香で充満する。その香りを鼻腔に吸い込むと、再び顔をしかめ、不快な気持ちになる。それはまるで、思春期を迎えた娘が色気付くのを嫌悪する毒母のような気持ちーに近いものなのかもしれなかった。

























雨が続く。
悶々としながらも心が落ち着くのは、こうしてブログを綴っている時だけだ。

















社交場デビュー

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子がやりたいと言い出したスイミング。どうやらクラスで仲良くなった友達が通っているらしく、最近では夫にも訴えるようになった。


「見学行ってみたら?」


夫は子に甘い。私から習い事の件を頼んでみたところで動かない癖に、子から直接お願いされると案外すんなりことが進むのだ。早速、夏休み明けから始まるらしい教室のお試し見学とやらに行って来た。
習い事は、学校の垣根を越えて人が集まる。なので、多少一人きりでいたところで顔も名前も知らない関係なのだからそれ程居心地が悪いわけでもないだろう。むしろ知った顔がいなければいいのだが・・
自宅前のバス停から送迎バスも出ており、車の運転が出来ない私にも具合がいい。

スクールに到着すると、年齢はバラバラ、中高生や成人男女、また老人までいるので気後れせずに済んだ。それに、知らない顔ばかり。群れている人々もいくらかいるが、それも気にならない。ここでなら気兼ねなく、子が泳ぐのを見学しながら携帯をいじったり読書をしたり思うまま過ごせるかもしれない。
子が体験する小学校低学年コースの時間になると、やはりプールのガラス越しには私と同年代くらいの女性の群れがいくらか出来て来た。最初なので子の着替えを手伝い更衣室を出ると、知った顔が前方にあったー素敵ママだった。


「あれ?通ってるの!?」


素敵ママは下の子を抱っこし、R君を追い掛けて何かを渡そうとしているところだった。彼を見送り、再び私に話し掛けて来た。


「やだー、いつから?」


「今日から。OOがやりたいって言うからね。一応お試しで。」


「そうなんだー。うちの学校の人、結構通ってるよ。」


それを聞き、少々げんなりした気分になる。折角自宅から少し遠目のスクールを選んだというのに、ここでまたダンス教室のような疲労感を味わいたくはない。
立ち話をしながらも、あちらこちらに彼女は手を振り、声を掛けられ、そしていつものように彼女の隣で私は劣等感を味わうのだった。

なんとなく話の流れで、彼女と共にガラス越しに見学出来るソファー前に座った。少しして、やはり顔の広い彼女の元に2人組がやって来た。予想通りの嫌な展開。しかし、彼女は笑顔で私にそれぞれを紹介、そして2人組も感じ良く私に挨拶をしてくれた。
R君は幼稚園の頃からこのスクールに通っているのだから、素敵ママがこの場に何人もの顔見知りがいて当然のことだ。それに、こうしてすんなり仲間に入れてくれ、また既存の彼女のママ友らも新入りの私を感じ良く迎えてくれる。2人は初対面だったが、どうやら1人は子と1年の時に同じクラスだったこと(要するに、R君ともということだ)が判明し、当時の男性担任の話題で盛り上がったので、私もその話題に乗ることが出来、疎外感を感じることもなかった。
2人組のうちの1人ーFさんは、私と同じくらいといっても良い程無口で、しかし愛想が悪いわけではなくにこにこしており好感が持てた。もう一方のGさんは、学校が違うこともあり、適度な距離感が心地良さを与えてくれる。要するに、失敗したとしても引きずらずに済むってことだ。
素敵ママを介さなくても、2人は直接私にあれこれ質問をしてくれた。いつもならばスルーされることが多いだけに、予想外の展開にあたふたしてしまったが、多少どもりながらの私の会話を彼女らは嫌味のない笑顔で真摯に耳を傾けてくれたのが嬉しかった。

結果から言えば、とても楽しい待ち時間が過ごせた。ダンス教室のようなー、たまに群れに入れた時の疎外感を感じることもなく、団地の集まりの時のような居たたまれない雰囲気でもなく、素敵ママと2人きりで話している時と同じくらいまでにはいかなくとも、それに近いくらいの気軽さがこのグループにはあった。


ーいよいよ私にも居場所が出来るかも・・


スイミングの契約をすれば、週に1回この感じの良いグループの中で自分の居場所を確保することが出来る。それは大きな収穫だった。あっと言う間に待ち時間の1時間が過ぎて、子供達が更衣室から出て来ると、そこでなんとなく雑談タイムはお開きになった。どうやら子供同士は特段仲良しでもないらしく、その事実は更に心を軽くした。余計なしがらみもないー

子は子でクラスのお友達には会えなかったというが、それは体験だったからだろう。おそらくR君らのクラスに在籍しているのかもしれない。
最初は一番下の級から始めることになること、お友達と必ずしも同じクラスになれるとは限らないこと、それらを伝えても子はスイミングを習いたがった。
帰りのバスは混んでいたが、知った顔はどこにもいなかった。素敵ママは車で送迎しているので、そのまま共にいると図々しくも家までの送迎を無言でお願いしているようで、挨拶もそこそこに先回りしてバスに乗ったのだ。私と彼女の距離はそこまで近くはない。いや、私にとっては近くても彼女にとったら遠いのだということくらい自覚している。

帰りのバスで、私は機嫌が良かった。それは子にも伝わったらしい。

「ママ、何かいいことあった?」

さすが女の子だ、勘が鋭い。


「うん、OOが上手に泳いでいたのが嬉しかったの。」


「え、OO今日泳いでないよ。宝探しゲームで潜っただけなんだけど・・」



その一言に、浮かれ過ぎて子のことを全く見ていなかった自分にハッとした。自分の居場所を求めることに必死になり過ぎて、肝心の子の様子を見逃したのだ。
それを誤魔化すかのように、


「パパもやっていいって言ってたし、次回から通おうね。」


と伝えた。


子の習い事=母親達の第二の社交場。やっと私もデビューする時を迎えられたのかもしれないと思うと、ようやく風向きがこちらに向いて来たのだと期待に胸が膨らんだ。







































自己顕示欲

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新しいブログを始めてからというもの、写真熱が復活して来た。やはり、1人でも誰かが見てくれているという事実が張合いを生むらしい。
小心な私は、しかし独りよがり。
コメント欄を締めているのも、あれこれ評価されることが怖いのだろう。ヘタな写真にナルシシズムな言葉を並べて、完全に自己満足の世界なのだから。

しかし、それでも私はそれをしている時間、孤独を一瞬だが忘れることが出来る。一眼レフを片手に、一人で日中表をふらふらすることに今だ抵抗はあるものの、顔見知りのいない隣街まで自転車で出れば、いくらかその窮屈さからも解放される。公園のベンチに座り、持参したコーヒーを片手にぼーっとする間、言葉がとめどなく溢れて来る。そして、それを携帯メモに記す時、なんだか自分が自分であるような、「居場所」を見つけられたような気分になれるのだ。
群れの中では味わうことのない、安心感。これでいいんだ、という気持ち。それがもう少し持続してくれればよいものの、凡人の私はちょっとしたことですぐに不安感に足を引っ張られてしまうのだけれど。

新学期が始まり、来週に控えた目白押しの学校行事を迎えるその現実に、そんな充足した気分も一気に吹き飛ばされるのだ。やはり、集団の中の孤独には打ちのめされる。誰だってそれはそうだろう。
あの、大小まばらに出来た群れの数々から弾き出されたような、決して皆は私のことなどてんで注目してはいないのだけれど、自意識過剰気味に、独り者の居心地の悪さを体感しつつ、後ろ指を指されているような具合の悪さと疎外感ー
新しいことを始めて、気分一新したのも束の間、すぐに近い未来の憂鬱な予定が胸を重くするのだ。


雨降りが続き肌寒くなったので、長袖を何枚かクリアケースから出した。しかし、Tシャツの上にカーディガンを羽織ると、たちまち蒸し暑く感じる中途半端な気候。
太陽がなかなか出ない9月、夏なのか秋なのか分からずに迷子になっている蝉たちの泣き声が切なく耳に響いた。


































土産合戦

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夏休みが終わってから初めてのダンス教室日ー
まばらだった生徒達もほぼ全員集まってのスタートとなり、待合室では送迎の母親達がたむろしている。いつもならば送迎のみで途中は抜けているだろう人々も、久しぶりということもありその場に残るのだろうか?いつまでも場は賑わっていた。
私はというと、そんな雰囲気にやはり馴染めず、そそくさと子を送り届けると出口に向かい近くの商店街にある本屋で時間を潰した。気になっていた芥川賞作家の作品が掲載されている雑誌を1冊購入し、表の公園へと向かう。気温は高いが空気が乾燥しているせいか心地良い風が首筋を撫でた。
人気のないベンチを探し、そこに腰をおろして頁を繰る。夢中になって読んでいたら、すぐに子を迎えに行かなくてはならない時刻になっており、急いで教室へと向かった。


待合室に到着すると、いつもよりかさ増しした人々の熱気で空気がもわっとしており、気のせいか視界が霞んで見えた。待合室の奥にある丸テーブルに子やまいこちゃん達がおり、何やら交換をしている。子が私を見つけ、こちらに駆け寄って来た。


「ママ、こんなに皆から貰ったよ、OOは皆にあげるのないの?」


子がいくつもの袋を手にぶら下げて私に尋ねる。袋の中身は一目でそれと分かる土産の数々。大体目星は付いていたが、一応子に誰から貰ったのか聞けば、やはりいつものメンバーからだった。
気が進まなかったが、おずおずと盛り上がっている輪に近づいて声を掛ける。


「こんにちは。」


すぐに小太りママが私に気が付き、にこやかに会釈をしてくれた。



「すみません、色々頂いてしまって。」


ざっと輪を見渡し、もう一度一礼した。きちんと確認はしていないが、ここにいるメンバー全員から貰ったのだろう土産の礼を述べた。



「いいのいいのー、大したところ行ってないんだけどね。」


まいこちゃんママが一際嬉々とした声を出す。他のメンバーも、私が土産の礼を言ったことで、再び夏休みの思い出をあれこれ語り始めるきっかけを得たようだった。


「本当、お盆だし混んでて大変だったわよ。本当はハワイに行きたかったんだけどね、まあ今年はうちの両親も連れて行かないとだったし、長時間飛行機乗せるのも負担掛けるかと思って。」


言い訳がましく彼女は言うが、沖縄だって私からしたら十分なセレブ旅行だ。
群れメンバーで海外に唯一行ったのは、千葉ママだった。友人がドイツで音楽の仕事をしているらしく、休暇が取れたというので家族全員招かれたそうだ。千葉ママが皆に向かって話している最中、まいこちゃんママの表情はどこか悔しそうにも見えた。
小太りママは北海道へ行って来たそうだ。スマホで撮った、まるでポストカードのような富良野の写真を何枚か見せてくれた。他のメンバーも、避暑地や観光地へとそれぞれが夏を満喫したようだった。
そんな中、我が家だけがどこにも行かず土産も渡せずだったのは惨めな気分だった。しかし、どう取り繕ったところでボロが出るのだと開き直り、


「うちは夫が夏も仕事で・・結局遠出は出来なかったんです。なので皆さんにお渡し出来るものも何もなくて・・すみません。」


誰も私からの土産なんて期待していないだろう、分かってはいるが貰った手前伝えなければならなかった。メンバーは、私を責めるでもなく、むしろ憐れみの混じった表情を浮かべつつ、そんなこと気にしないでと笑う。群れ全体が微妙な笑顔を作り、私にはその空気が何とも耐え難く、用もないのにその場を離れた。


「では、今日はちょっとこれから用事があるので。本当にありがとうございました。」


楽しそうに走り回っている子を呼び止め、手を引いて外に出た。子から幾つもの袋を受け取り、ちらっと見えたその中身達は色とりどりで、まるで互いに牽制し合っているかのようだった。












































イヤラシイ目線

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どんなに美人でスタイルが良くたって、若さにはかなわない。確実に、平等に、人は皆老いるのだ。

最近見掛ける綺麗な女性。エントランスでも何度か遭遇し、その輝くようなオーラに同性でありながらも目を奪われていた。猫背の私とは違い、姿勢良く歩くほっそりした後ろ姿。長く手入れの行き届いた栗色のゆるくカールを掛けたロングヘア。目鼻立ちの整った、今風メイクが良く似合う整った顔立ち。そして、若さゆえの特権である上品な素材と柄だが座れば太腿が露になるだろう、ミニ丈のワンピースに、きゅっと引き締まった足首を強調させるかのようなヒールの高いパンプス。
学生だろうか?いや、まだ社会人になりたて?しかし平日の昼間からウロウロしているところを見ると、まだ二十そこそこの学生といった方がしっくり来るだろう。
すれ違いざまに、ふわっと良い香りがした。


夫が代休の日。
珍しく子が学校で留守にしている間、米や日用品のストックを買いに車を出して貰うことになった。いつもなら遠慮がちに頼むところだが、珍しく夫の方から一緒に行かないかと誘って来たのだ。一瞬雨でも降るのではないかと天気予報を再確認した程だ。普通の家庭なら当たり前の光景であっても、我が家にしたらそれは思いがけないサプライズなのだ。


先に駐車場から車を取りに出た夫を、少ししてから追うように玄関を出る。そこへお隣の玄関も開いた。お隣さんと赤ちゃん、そして、あの気になっていた女性も共に出て来たのだ。


「こんにちは。」


「あ、こんにちはー」



何でもない風を装い、挨拶をする。同じエレベーターに同乗している間、例の若い女性が、



「お姉ちゃん、それ持つよ。」


と、お隣さんに向かって言い、赤ちゃんを抱えていた彼女が肩から下げていたマザーバッグをさり気なく受け取った。
どうやら、お隣さんの妹だったようだ。そういえば、なんとなくだが雰囲気が似ているような気がする。遊びにでも来ているのだろうか?普段から特に接触もない彼女に、気軽に二人の関係性を聞き出すことなど出来ず、ただ1分足らずのエレベータ内での会話でしか憶測することが出来なかった。

エントランスを出ると、夫は既に車を道路脇に停め私のことを待っており、車内からこちらを見ていた。というか、私ではなく明らかにお隣さん達を。その目つきが何だかイヤラシかった。車に乗り込み、隣をちらっと見ると、やはり夫はミラー越しに彼女達を見ていた。それは、上から下までを舐めまわすかのような視線。恐らく、赤ちゃんを抱いたお隣さんではなく、妹さんを見ているのだ。それを見て、何かを言うでもなく、私の方からも夫にあれこれ言うわけでもなく、車内は定期的なエンジン音のみ、微妙な沈黙が続いた。いつでも私達二人きりでの車内は沈黙なのだが、その時の沈黙はやけに体にまとわりつくようなねちっこいそれだった。
もしかしたら、私は嫉妬していたのかもしれない。今思えば、その不快な空気は私自身が作り出していたのだろう。


私が二十の頃に戻ったとしても、あの人には勝てないだろう。どんなに着飾って今風のメイクをしたところで、地味顔で雰囲気も暗い私が彼女に太刀打ち出来るわけがない。
サイドミラーには、それ相応の年齢を重ねた、世間からしたら「オバサン」のカテゴリーに属する疲れきった表情の女が写っていた。その女は、もう女であることを忘れたかのように普段は振舞っていても、ちょっとした出来事からすぐに自分の「性」に足を引っ張られては困惑するのだった。




































私信***

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