にほんブログ村 主婦日記ブログ ひきこもり主婦へ
にほんブログ村 主婦日記ブログ 専業主婦へ
にほんブログ村 子育てブログ 一人っ子へ

リトマス試験紙

「もしもし、私よ。」


第一声で分かる、猫撫で声。長雨が続く日中、実母からの電話。
いつもは自分の病気ネタや親戚の愚痴をまくしたてる彼女が、珍しく私の体の心配と子の最近の様子を聞いてきた。素直に娘として嬉しく、しかし心のどこかで疑う気持ち。悲しいことだが、母の優しい素振りは落胆させる何かの前兆であることが多い。そして、毎度のことのようにその予感は的中するのだった。
まるで、世間話のついでかのように出た従姉妹の話。例の金持ちだが不妊治療に悩む従姉妹のことだ。彼女の母親とは定期的に連絡を取っており、その孝行話がまた始まったのだ。


「O×ちゃんから毎月3万もお小遣い貰ってるんだって。すごいわよねー。あの子、結婚する時に300万も置いてったらしいわよ。本当、親孝行よね。それだけでもびっくりだったのに、結婚した今もまだ親に仕送りしてるなんて本当、育て方が良かったんだろうね。」


うんざりだ。
こうしてまた私に揺さぶりを掛ける。こう言えば、私が微々たる金額であっても金を出すということを彼女は熟知しているのだ。育てて貰った礼ーそう思い、今までも母に金を渡して来た。
独身の頃、


「あんたはざるだから、そんなんじゃ結婚資金たまらないわよ。お母さんが管理してあげる。」


そう言って、給与口座の通帳を預かろうと申し出た。それは有無を言わせないー、金を預けること=母を信頼しているということ、を証明させるリトマス試験だと言わんばかりの押しの強さがあった。
しかし、その頃買い物依存に陥っていた私は、全財産を管理されることに抵抗があり、ならばーと財形だと思って毎月3万は生活費とは別に母が元々管理している私名義の通帳口座に預け入れることにしていたのだった。
その通帳の暗証番号を聞くことすら、自分名義だと言うのに母を信用していないことになる気がして聞けなかった。名義は「私」 なのだが、その口座は、私が誕生した時に学資代わりとして開設したものらしかった。そもそもそこにいくら貯めていくら使ったのかは分からず、


「もうそれは全部使っちゃったわよ。」


と、聞けば母は言うかもしれない。それなりの塾や習い事に通わせてくれていたのは事実なのだ。しかし、バイトから社会人になってまでの月々結婚資金として貯めといてあげるという費用は、とうとう本当に式をあげる前日になっても親の方から出して来る気配はなかった。
そしてそれを問い詰めるのは、娘として親を失望させるに違いないー、そう思いその存在を忘れることにしたのだ。私達の親子関係で、子から親への金の要求はタブーなことなのだ。

最近、歯科矯正でへそくりがわずかになり、母にあの頃預けていた通帳にはいくらくらい残高があるのだろう?と想像することが多くなった。
普通に、バイト~仕事をしていた月数に3万を掛けると、余裕で3桁はあると思われる。そのことを問い詰めたい欲求が現れるのは、決まってこんな風に母が従姉妹を引き合いに出す時なのだった。


「本当、あそこも老後は悠々自適よ。老後破綻なんて言葉、あの家には無関係ね。私達には切実だけど。」


冗談めかしてか、半笑いしながら受話器の向こうで嫌味を言う実母。まるで、老後破綻は出し渋りの悪い娘とケチな夫のせいだと言わんばかりにー


スポンサーリンク




ーお母さんが作ってくれた私名義の通帳、私が働いてた時結構な額入れてたよね?OOに使いたいから返して欲しいんだけど。


喉元まで声が出掛かる。
暗証番号さえ知らない、私名義の口座。


「結婚する時、渡すから。」


そう言いながら、いつまで経っても出て来なかった金。


「あんたの為よ。何かあった時の為にお母さんが管理しておいてあげるから。」


何かあった時ーその金を要求する時、その何かが何であるのかを包み隠さず伝えなければならないー、隠し事あっての要求は受付ないのだ。


ー独身の頃預けてたお金っていくらくらいだっけ?あれ、お母さんに全部あげるよ。


そう言えたらどんなにすかっとするか。そもそも、穿った見方をすれば、既に全て使われているのかもしれなかった。あるのかないのかさえも分からない金。
そして、それを確認することは、母を信頼していないことに繋がる。


「O×ちゃん、いずれまた薬剤師として働くらしいわよ。ますますあの家は安泰よね。老後は高級老人ホームにでも入所するんでしょうね。」


くすぶり続ける実母への疑惑が爆発する前に、


「あ、ごめん。これから学校のパトロールなんだった。またね。」


受話器を置いた。
何故、あの口座に毎月3万もの金を預け入れていたのだろう。こうなることをあの頃の私は想像していなかったのか?あげたとも預けたとも言えない金の行方を知るのはまだまだだいぶ先ー、母がこの世を去った頃になるのだろう。









スポンサーリンク




trackback

copyright (c) 隣の芝生 all rights reserved.

プロフィール

selinee

Author:selinee
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR