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遠くの親戚

ようやく墓に着いた。
母は、久しぶりだというのにまるで昨日もここに来ていたのだと言わんばかりの慣れた手つきで墓石周りの掃除を始めた。私も子と共に、花を入れる為に水を入れ替えたり。
父と弟は手持ち無沙汰なのか、黙って突っ立っているだけだった。
一通り綺麗になった墓石を前に、母は満足した様子で父から線香を受け取る。火を付け、先ずは自分が手を合わせ拝み始めた。一体何をつぶやいているのか?聞き取れなかったが、何かを頼んでいるらしかった。長い頼みごとが終わり、続いて私と子、そして弟と父が順番に手を合わせ、一通りの儀式が終わった。


「やれやれ、これで一安心。じゃあ行きましょうか。」


何が一安心なのかは分からなかったが、母に促されるまま駐車場へと向かった。
車内で、母が叔父に電話をしている。このまま叔父宅へと向かうのだ。正直もう何年ー、いや十年以上だろうか?会っていない親戚に会うのは気が重かった。私は子供の頃から、こうした親戚の集まりごとが苦手だった。他の従姉妹達が、それぞれの叔父や叔母達に馴れ馴れしくタメ口で話せるのに対し、私はというと、物心ついた頃から敬語を使い、それとなく彼らと距離を取っていた。それが大人達にも伝わるのか、必要以上に私に話し掛けては来なかった叔父や叔母。結婚時も出産時も、彼らとは葉書だけの事後報告でやり過ごしたのだ。なので、会うのは相当前にあった祖母の法事以来だろう。

もう記憶にも残っていないー、懐かしさのかけらもない道を通り、親戚宅に到着した。私には叔父や叔母、従姉妹達が多くいるのだが、実際大人になってからも会うのは母の姉の娘のみで、他の従姉妹とは15年以上会っていない。街ですれ違っても、互いに分からないーそんなレベルだ。




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「やあ、いらっしゃい。」


玄関扉が開き、中に通された。すっかり小さくなった叔父ー、しわくちゃの薄汚れたシャツを着た、かなりみすぼらしい姿の叔父に驚き過ぎて声も出なかった。叔母は母と会うのを避けているのだろうか?仕事中で留守にしているという。還暦過ぎても仕事を続ける叔母は、ある特殊な資格を保持しており、いまだ忙しい日常を送っているらしい。


「お姉さんも、一体いくつまで働くのかしらね?家の中ぐちゃぐちゃじゃないの。兄さんもそんなみすぼらしい格好して。洗濯とかちゃんとしてるの?」


叔父は、自分の家だというのに、何となく居心地の悪そうなバツの悪い表情をする。父と私に向かって、


「こんな汚いところに呼んで、すまんね。」


と謝罪した。ふと目に入った流しには、昼食に食べたのだろうか?カップ麺の容器が、食べたそのままに投げ入れられており、朝食で使ったと思われる皿や茶碗もそのままキッチンに放置されていた。 私の後ろに隠れる子に気が付いたのだろう、目を細めて尋ねる。


「おや、おチビちゃんは今何歳かい?」


「8歳だよ。」


多少、ぎこちなくもきちんと相手の顔を見て答える子にほっとする。母は嬉しそうに、


「兄さんのところはどう?××君はまだ子供出来ないの?孫はいいわよ。本当、可愛くってね。」


ただ自慢したいだけなのだろう、勝ち誇ったようにデリケートな話題を躊躇なく出す母に、嫌悪感が湧いた。


「うん・・そうだな。嫁さんが看護師でね、忙しくて子作りどころじゃなさそうでさ。本当、気の強い嫁さん貰ったもんだから、盆だろうが何だろうが帰ってきやしない。」


結婚してからというもの、もう何年も実家に帰らず、むしろ相手側の実家に入り浸りの息子を、「アレはもう婿養子にやったようなもんだ」という一言で片付けようとする叔父。 隣で母が一段と嬉々とした声を出す。


「やっぱり息子より娘よ!兄さんのところも哀れよね。娘は結婚してからも家に戻って来るからいいものよ。まあ、うちは息子が結婚することだってありえないからね。孤独な老後とは死ぬまで無縁ってことね。」


叔父は、やはり男性なのか気が利かない。お茶の一杯を出すことさえ思い付かないようだった。喉が乾いたと言う子をなだめ、ただひたすら時が経つのを待つ。
父は、床に置いてある週刊誌を広げ、弟はバッグに入れてあるゲームを取り出し遊び始めた。母と叔父ー、血を分けた兄弟だというのに、どこか張り合い、そして自分の立ち位置がそれより上位だということを再認識し、喜ぶ母。私はうんざりしながらも、一応その場で愛想笑いをしつつ、「話の分かる娘」を演じる。

小一時間もすると、会話は尽きた。 お互い、他の親戚の話や病気の話ー、そして一番核心に触れたいのであろう年金や資産の話については、カマを掛けたり、掛けられたり、はぐらかしたりする中でおぼろげに推測し合い、もうこれ以上話しても何も出ては来やしないと分かった時点でお開きの流れとなった。


「それじゃあね、兄さんも体に気を付けて。」


「あ、ああ、わざわざありがとうね。あ、そうそうこれこれ。」


そう言いながら、部屋の奥に戻り何か紙袋のような物を下げて来た。それは、プリキュアの絵が書かれた袋で、中にはお菓子や文房具が入っているようだった。


「叔父さん、こういうのよく分からないからね、もしかしたらおチビちゃんは好きじゃないかもしれないけど。」


そう言いながら、子に差し出す。子は、とっくにプリキュアから卒業していたし、むしろその年で持っていたら「恥ずかしい」とさえ思うキャラクターだということが分からないくらい、叔父は子供と無縁の生活を送っていることが分かる。


「ありがとうございます。」


子は、戸惑ったような表情をしながらも、空気を読んでそれを受け取る。しかし、母だけがそんな子の気遣いなど無視するかのように、


「ちょっとちょっと、もうこんなの幼稚園の子のキャラクターだって!OOにはこんなの赤ちゃんだよね。」


その場が一瞬凍りついた気がした。子も、紙袋を手にしたまま、どうして良いか分からず狼狽え始めた。母に怒りが湧く。


「プリキュア、まだ見るもんね。OO、良かったね!」


私の切羽詰った声で、何か感じるものがあったのだろう、


「うん、車の中でお菓子、食べる。」


何とか丸く治まった。叔父も一瞬気まずいような表情をしたのだが、子の言葉に安堵したのか再び笑顔を取り戻し、


「それじゃあね、気いつけて帰りや。」


車に乗り込み、もう一度窓を開けて会釈をする。車が最初の角を曲がるまで、叔父は私達を見送っていた。


「はー、本当、びっくりだわよ。兄さん、よぼよぼになって。家の中もちゃんがらじゃない。女房に放って置かれて可哀想に。お父さんは私が家にいるから本当幸せものだわね。」


父は、黙ってハンドルを切る。母の台詞は宙に浮いて、そのまま開け放した窓の外へと消えて行った。

バッグに入れっぱなしだった携帯を取り出すが、相変わらず夫からの着信はない。


『今終わりました。これから高速に乗ります。夕飯までに間に合うとは思うけれど、一応カレーだけ作って鍋に掛けてあるので、もし私達の方が遅かったら温めて食べて下さい。』


気が張っていたのだろう、気が付くと車の中で熟睡していた。辺りは真っ暗ー、そして時計は6時過ぎ。それに前方には動かないテールランプが綺麗な線を作っていた。
ドキドキしながら携帯を見ると、メール受信が1件。急いで開けると、携帯会社からのインフォメーションで力が抜ける。再度、夫へメールを送る。


『御免なさい、道路が渋滞していてやはり帰りは遅くなります。カレー、食べてて下さい。』


そう書いて送信しようと思ったのだが、たまごっちで遊んでいる子に助っ人を頼む。子からメールを送ったということにすれば良いのだ。


『パパ、おしごとおつかれさま。いまかえりだよ。早くパパに会いたいな、ごはん、先に食べていてね♡ OOより』


デコ文字や絵も使い、送信。
15分後に夫から返信。


『パパの方が仕事で遅くなりそうです。』


子の手前返信はしたが、それは明らかに私に当てつけるような一文だった。まだ適当に飲み会でもしてくれれば良いのに、私がたまに好き勝手しようとすれば、こうして「家族の為にあくせく働く夫」を主張し、こちらに罪悪感を持たせる。

助手席から母のいびきが聞こえて来る。その規則正しい音は、私をイラつかせるのに十分な騒音だった。




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