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「一言」の恐怖ー続き

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「ではー・・どうしましょう。」


「あ、じゃあ、目が合ったので私から!」


元気そうな、肝っ玉系の母親が身を乗り出し、同じグループのママ友達から笑いを買った。私の緊張などよそに、一気に場は和やかムード。そして、その母親を始点として、コの字型をぐるりと一周ー、つまり、私の位置は”とり”を務めることになると気付き、まな板の上のコイ状態に陥る。
ざっと見渡してみると、20名あまりの中には、ママ友はいるらしいが気の弱そうな人だったり、緊張からか顔がこわばっている人もいたので少しだけほっとする。
トップバッターに躍り出た母親は、始終笑顔でちょっとした冗談を交えつつ、子どもの失敗談からの成長エピソードや面白話、そしてきちんと担任を立てる発言も忘れない。最後に私達に向かってもお礼の言葉を述べた。


「皆さんのお子さんに直接一人ひとりお礼を言えるわけではないのですが、息子がこの1年楽しく学校に通えたのも、クラスのお友達の力によるところが大きいかと思います。本当にありがとうございました!」


彼女の言葉が終わり、しばしシーンと沈黙の時が流れたが、右隣の母親が続いて皆に向かって頭を下げ、担任に向かっても頭を下げると、当たり障りのない、しかし場当たり的ではない言葉を選んだ一言を述べた。


ー皆、あらかじめ言葉を用意しているのか?


今回、私はメモをして来なかった。なぜなら、欠席すると腹に決めていたから。それが、担任から呼び止められるというアクシデントによって、大きな失態を招いたのだ。


ーどうしよう、どうしよう。誰か・・・しどろもどろな発言をしてくれないか・・


しかし、私の意に反して、誰もが無難に一言を述べて行く。すらすらと流暢にーまたはぎこちなくても誠実に。そして、ついにあと2名で順番が回って来るという時だった。心臓が早鐘のように打ち、嘘のような本当の話だが、実際その音で彼女らの声が掻き消される程。


ードッキンドッキンドッキンドッキン!


そして、あと1名ー大人しそうな母親。しかし、どっしり落ち着いた様子で、緊張すら見せずに滑らかに言葉を繋げて行く。皆、一言と言われたというのに、実際には「一言」で終わらずに二言三言ー、いや、1分間スピーチ以上の尺を取っており、それを乱すことは許されないー、そんな空気に教室中包まれていた。


「-・・・本当に、1年間お世話になりました。ありがとうございました。」




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最後まで一定の落ち着いたテンションを保ちつつ、一言を終えた彼女に担任は頭を下げると、今度は私の方に顔を向けた。もう、この時は緊張の頂点。口から泡を吹きそうなー、そんな勢い。そこで、急に私の携帯電話が鳴り始めた。普段、携帯が鳴ることなどない為、バイブにするのすら忘れていた。

リリリーン!リリリーン!!

教室中、また違った緊張の空気が漂ったのと同時に、


「あ、出て下さって大丈夫ですよ。」


担任が笑顔を浮かべて言った。


ー天の助けだ・・


私は一礼だけすると、すぐに鳴り響く電話を手に、廊下へ出た。着信画面を見ると、それは夫からだった。


「もしもし、家に掛けたんだけど出ないから。今どこ!?」


「え、学校。今日はOOの参観日と懇談会だって朝言ったよ。」


「・・・それより、ちょっと急ぎで部屋の机の上に置いてあるクリアファイルの資料の何枚かを写真撮って送って欲しいんだけど!15分までに出来る!?」


出先で、自宅まで自転車を走らせたらなんとか10分。出来ないことはない。いつもなら頭に来る一方的な無理強いも、この時ばかりは神の思し召しかと思った。


「はい!分かりました!すぐに送ります!!」


頬を蒸気させ、教室のドアを開ける。担任を呼び、


「すみません!急な仕事が入ってしまって・・申し訳ありませんが、途中退席させていただきます。」


「あ、分かりました。では、ちょっとお話ししたい件につきましてはまた後日こちらからご連絡させていただきますね。」


「はい!すみません、お先に失礼します。」


結局、夫のお陰で恐怖の一言から逃れられた。
勿論、頼まれた写真は滞りなく送信することが出来たし、夫も助かったようだ。


ー嘘はついてない。仕事だ。夫のだけれどー、大事で急な仕事だったのだ。


少しの罪悪感で胸の奥がチリリと痛んだ。それを打ち消すように、買い置きの安い赤ワインをグラスに注ぎ、一気に体に流し込んだ。




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