「来週末付けで退職でいいですよ。」
朝礼で、新しい人が入って来たことを知って間もなく呼び出されて伝えられた言葉。
工場長は、あなたの要望にはすべて答えてやっているのだという満足げな表情だったが、実際のところ痒いところにはまったく手が届いていない。
なんなら、子の受験週は仕事ということ。かろうじて入試日は休みだけれど、その前日はパートが入っている。
子は、学校を休むと言っているし、私も身の回りのサポートくらいしか出来ないけれど家にいてやりたい。
しかし、これ以上こちらの要望を伝える隙など与えられないまま、工場長は背中を向けてしまった。
皮肉なことに、辞意を伝えてからの最近では作業も慣れて来て怒られることも少なくなった。ただ、相変わらず周囲に馴染めず他のパート仲間と雑談なんて出来ないけれど。
先日のバレンタイン、出勤したパート女性らはそれぞれチョコレートを配り合っていた。おばさん達が女子高生のようにきゃいきゃいしている中で居心地が悪く、それはママ友の世界でもそうだったけれど、どの環境に身を置いても女性の群れの中に溶け込めない。
次の環境ー、一人で黙々と作業出来るような、そんな居場所を探している。
退職をするのだから、少しでも節約。
おにぎりにスープが定番。スープはドラッグストアで安い時にまとめ買いしたもの。これは震災用ストックでもある。
しかし、この定番が続くと飽きて来た。コンビニ飯が飽きるのと同様。すべてが同じ味に思えるのだ。
おにぎりは、自分で握るものとコンビニのもの、またスーパーでのものは違うけれど。
先週、自宅に弁当を忘れて仕方なく買ったおにぎりがとびきり美味しかった。
おにぎり専門店のもので、昼時になるとその店の前にはサラリーマンだけではない、働いて無さそうな主婦達もテイクアウトしていたので気になっていたのだ。
そこで、たらこおにぎりを一つだけ購入した。250円程したので、正直迷った。コンビニで買えば二つ買える。しかし、一口頬張ったらふんわり美味しい上質な米の甘さが口中に広がり、これはまったく違う。おにぎりなんて言葉で片付けられない、それ程うまかった。
たらこも3つ程中に入っており、満足感がある。コンビニのとは違い、ひとつ食べただけで胃が満たされて腹もふくれた。塩加減も絶妙。
これは家で真似したいーそう思い、作ってみたがまったく駄目。
主婦歴15年以上の腕前でも勝てない、匠の味だ。
あぁ、またあのおにぎりが食べたい。
しかし、今日は自分で握ったおにぎり。当たり前だけれど、ただ空腹を逃す為だけで心の中まで満足しない弁当だ。それに、春雨スープ。
あんなおにぎりが毎日食べられたら幸せだろうな、と思う一方で、このご時世、そんな贅沢なことを言ってられない。
恐らく価格にしたら、30円もしない。マイおにぎりを今日も持参して一日乗り切ろう。
この週末も、子は夫の事務所で勉強していた。
弁当を用意するか聞いたら、子が事務所近くにある美味しいハンバーガーをテイクアウトしたいと夫に頼み、作らなくて済んだ。
夫と子が二人で朝から出て行き、私は週末たまった家事が出来るというのに、身体は鉛のように重く動かない。
それでもネットをする元気はあるのだ。
どう切り出そう。
来週、パートに出てまずすることは、「退職の意」を伝えるということ。
子の受験日当日。休み届けを出せなかった。正確に言えば、先を越されたのだ。
先輩パートの数人に大学受験組を持つ母親がおり、彼女らがその日の休みをとっていた為、それ以上休まれるとどうしても人数が足りない。
ミスしてばかりで足手まといの私でも、休まれると困る雰囲気。
夫に、今のパートを辞めろと言われた。融通が利くのがパートの強みなのに、それを使えないのなら意味が無いと。
子の大事な日に傍にいてやれない仕事なんて、辞めてしまえと。
代わりはいくらでもいるし、もっと条件の良い仕事を子の受験が終わって探せばいいと。パートといわず、子が高校生になればもっと自由が利くのだから、時給の良い派遣や正社員を目指せと。
夫は私のことをバカにする割に、実際の社会で通用するかどうかの能力を過信している部分がある。私がこの工場パートに辿り着くまでの過程や辛さなんて、まったく理解しようともしないのだ。
もし今のパートを辞めたとして、また仕事探しは難航する。それに、子の受験が終われば義父や義母の件もあり、そのままもしも介護なんて流れになったら、無職の私がその一手を引き受けることになるのではないだろうか。
身体が重い。
しかし、夫の言う通り、今は我が子に寄り添わなくてはならない大事な時だと頭では分かっている。
大きなミスをしてしまった。
パーツを種別に分けて数えてセットする作業だったのだが、それが何百セット。
そしてすべてを終えなくてはならない制限時間を守る必要があった。
向き不向きー、それを改めて実感させられた。
例えば、500セット作らなくてはならないのに、なぜか一つのパーツが足りないという。
先日もこの手のミスをしたのにまただ・・・
作業が少しばかり込み入ってくると、すぐに混乱してしまう。惣菜パートの時もそうだった。
工場なので、単純作業を延々としていればいいと思ったが、毎日のように持ち場も変わるし、内容も指示してくる人間も変わる。
変化に対応し辛い私にとって、この職場は辛い。
辞めたいなーと、同期が退職を申し出る前から思っていた。義実家の件があり踏ん張ったけれど、やっぱり無理かもしれない。
仕事が出来なさ過ぎて、最近では皆の輪に入れないなんて悩みなどどうでもよくなり、ただ目立たない存在でいたいと思うばかり。
仕事が出来て目立つ分ならいいけれど、皆の足を引っ張って目立つだなんて、どうにもこうにも恰好悪い。
子の学校も始まり、通常運転。
パートについては、いまだ慣れない。
毎朝配布されるグループ表のようなもの。それを目にするまで安心出来ない。
作業ごとにグループは分かれており、またグループは固定されていないので、心の準備が出来ないうえに、その日にならないとどの班長で誰と組むことになるのか分からないのだ。
そして今日。
ハズレだった。いや、厳密には相手側が私をハズレだと思っているだろうけれど。
ある部品の数を数えて揃えるのだが、そのカウントを間違えた。それにより、出来るパーツの数が合わなくなり、その犯人捜し。
すぐに私だとばれて針の筵。
ひたすら謝り続け、そして自己嫌悪。
他のパートの人達は、お喋りしながらもテキパキと作業し、そしてノーミス。
対して私。黙々と集中して作業している風に見えて、まったく頭の中はとっちらかってる。目の前の作業に集中しようと思うのに、なぜか次の段取りを考え始めたりしてしまうのだ。
だからといって、次の作業をスムーズに進めることも出来ないのだけれど。
昼は公園へ行こうと思ったが、寒過ぎるので諦めた。持参していたおにぎりをバッグに入れ直し、イートイン出来るコンビニへ。
おでんを買って、隅っこでこそこそおにぎりと共に食した。
注意されながらあっという間に定時。
急いで家に戻り、なんとか子の塾前に帰宅。
軽食を食べさせてから送迎。家に戻り、洗濯物を片付けたり食器を洗ったり、その他風呂掃除など家事色々。
夕食も作り、へとへとになりつつ一息付こうとするも、子の塾が終わる時間。
再び寒い中自転車を走らせ迎えに行き、家に着くと既21時。
子に夕飯を食べさせ、私も一緒に食事をとる。食べ終わったタイミングで夫帰宅でまた温め直したりしつつ、なんだかんだで23時。
翌日の夫や子のシャツをアイロンしたり、洗濯を回したり・・
日付が変わり、疲れ果てて就寝。
小さな子がいる訳でもないのに、私の要領が悪いのだろうか。
へとへとだ。