今週でパートも終わりだけれど、明日は超絶行きたくない。
子に、弁当を作りチン出来るようにして家を出る。後ろ髪を引かれる思いで。
午前だけで早退してしまおうかーと思い、だったら熱があるだとかなんとか嘘付いて休んでしまおうかと思っていた昨夜。
「俺、明日在宅するわ。あなた、パート休めないんだろ?」
夫が急遽、在宅仕事に変更してくれることになった。
「昼飯だけ用意しといてくれよ。俺らの分。仕事は家でやるわ。」
自営の夫、ここにきてようやく融通を利かせてくれた。子も、一人で前日を過ごさなくてよくなり、安堵した表情を見せた。
「次は、もっといい仕事見付けてくれよ。」
釘も挿されたけれど、まあいい。
夫はまだ寝ている。自宅で仕事と決めたからか、割と緩い仕事の仕方。以前の職場ではリモート会議だからと通常通りに起きて支度し部屋に籠り切りだったのだが。
子をそろそろ起こして、私はパートに集中しよう。
もう退職すると決めていても、給料を貰う分はしっかり働かなくては。
夫から年賀状の束を渡された。
会社用に届いたもので、当選番号を調べておいてということ。
こういう仕事は吉田さんではなく私にやって欲しいらしい。
私だって、使う神経は違えどパートで働いている。物理的な時間でいえば、受験生を抱える親でもあるのだから、彼女より忙しい時だってある。
それでも、時間の合間を縫って当選番号を調べた。残念ながら、はずれのオンパレード。
宝くじでも思うことだが、すべてハズレなのでは?と不信感すら湧く。
この中に当たりがあればー
なんて意味のない願掛けなんかしたりして。しかし、当たるはずがないのだからとそんな妄想を振り払う。
結局、ほぼほぼ外れ扱いの切手シートすら当たらず、ただの紙束となった年賀はがき。
そして、何となくぼーっと宛名を眺める。夫の会社名が記載されている。その文字の羅列は見慣れているような、しかしどこかまだ私にとっては他人行儀で馴染めないような、別世界の中にあるリアルのように思えるのだ。
明日はパート。憂鬱でしかない。
私が退職することは周りに伝わっているはず、なのに、誰もそのことに触れはしないし話し掛けても来ない。
いてもいなくても同じ、空気人間のような扱いは慣れているけれど、それでもネガティブな視線が私を捉えるのだ。
子の受験の件で、ゴタゴタしそうな予感。
そういうこともあり、気持ちが落ち着かない。
今日も、子は夫の事務所へ勉強道具を持って行ったっきり。もうすぐ夕飯時なのに連絡すらない。
夫からもだ。
夕飯の準備はしたけれど、先に風呂に入るかどうか迷いつつもう一度電話を入れるが反応なし。
実は、先日子がお守りを持ち帰った。合格祈願。吉田さんからだ。
「これ、どうしたの?」
「ちあきさんから貰った。」
ちあきさんー子から初めて聞く彼女の代名詞だ。子がまだ幼い頃も何度か私抜きで夫と3人会っていたのは知っているけれど、あくまで仕事仲間ー父親の職場仲間という位置付けだった。
しかし、子はもうそういう事情を汲める年頃。いったい彼女のことをどう思っているのだろう。
そんな私を見透かすかのように、
「会社にはいなかったよ。パパが預かってたんだって。」
微妙な空気が流れた。しかし、私は子の前では何でもない風を装う。精一杯の妻として母としてのプライド。
心の奥底に煮えたぎる感情に蓋をする。
今はまだいいー、今度考えよう。
思考を止めて、息を吸う。
とにかく毎日が忙しい。この忙しさに潰されそうになりながらも、余裕がないことを言い訳に先延ばしに出来る逃れられない問題から現実逃避している。
昨夜、珍しく晩酌だけでぐでんぐでんになった夫が言った一言が気になる。
テレビで熟年離婚的な番組を観ていた時のことだ。
子育ても終了し、父や母としての責任がなくなった頃、夫婦でいる意味を考えた時にそれが必要ではなくなった彼らの選択。
「OOが巣立てば、俺らも解散してもいいかもな。」
ふと呟いた言葉にぎょっとしつつ、それを聞き返すだけの勇気もなく、聞こえないふりをした。
それは、「リコン」ということだろうか??
私は捨てられるの?
薄々、そうなるかもしれないと未来への不安があったけれど、その言葉は現実味を帯びる。
私は夫の子どもではない、しかし、妻として扶養されている。自立出来るだけの収入がなくとも生活出来るのは、夫の子どもを育てているから。
勿論、私の子どもでもあるのだけれど。なんだかそんな風に捉えてしまう。
二人で乾杯。
ささやかなクリスマスイブー
そう思っていたら、突然夫が帰宅することになったと電話。それが夕方だったこともあり、ほぼほぼ下準備も出来ていたクリスマスディナーに、これでは足りないと追加の食材を買いにスーパーに走り、更に酒も用意。
チキンは二人分しか用意していなかったから、仕方がなく出来合いのクリスピーチキン的なものを買った。これは私が食べる分で、もし残ったら子や夫が食べるかもと。
夫には、手作りのもの。私は少しだけそれを味見程度に貰い、市販のものでもいいやとちょっと奮発してスーパー併設だけれど専門店の美味しそうなデリ。自分が普段作りそうもないお惣菜をちょっと買おうと寄ると、グラムで500円もして買う気が萎えた。
結局、冷凍のチキチキボーンなどを買って、後は生ハムとチーズ類をちょこちょこと。
手作りのチキンは、こんな時くらいにしか作らない。下拵えが面倒だからだ。でも、家族が喜ぶのならその面倒も厭わない。
なんとかテーブルセッティングまで終えて、喉がからからなことに気付く。夫の帰宅コールからまったく水分をとっていなかったのだ。
ビールでも飲みたい気分だが、ぐっと堪えて。ようやく夫帰宅。なんだか不機嫌な表情。仕事で疲れていたのだろうか。
風呂上りの夫は、クリスマスディナーにちらりと目を向けただけで、冷蔵庫からビールを取り出しグビグビ飲んだ。
「じゃあ、食べましょうか。」
家族全員そろったところで声を掛ける。ダイニングに並べられたクリスマスディナーに、達成感。
子は、素直に美味しい!と喜んでくれた。
夫とはいうと・・
無言で咀嚼。顔色ひとつ変えずテレビを観たままチキンにかぶりつく。感想の一言もない。せめて、美味しそうな表情でも見せてくれたら作った甲斐もあるというのに。
子が夫に話し掛けても上の空。私はもう何も言う気になれず、食事を口に運ぶことに集中した。
こんなに振り回されて準備したのにー、しかも、私用に買ったチキチキボーンの方が食いつきが良いではないか。
夫は私の手作りのローストチキンは半分程残した。残った肉が勿体無いけれど、さすがに夫の残飯に口を付ける気になれない。生理的に無理。これが最愛の夫のものなら残飯というよりも仲良く半分こなのだけれど。
子に無事届いたプレゼントを渡し、消灯。
もういい、子の為のクリスマスイベントだったと割り切ろう。