にほんブログ村彼女がどんどん遠い人になって行くー
引越し前のママ友宅へ遊びに行った。積もる話はたくさんー、子育てのことや夫婦関係、身内のあれこれや噂話、たわいのない冗談。それは、今この地で手に入れることが出来なかった時間で、年に数回、私はこのひと時を過ごすことで息を吹き返すことが出来るのだ。リア充ママになれたような、束の間の夢の時間。
しかし、実際私が思い描いていたような時間はこの日訪れることはなく、ただただ子の顔色ばかりを伺い疲労感が残るだけの時間となったのだ。
彼女宅に着くと、出迎えてくれたのは彼女一人。子供達は?と聞くと、近所の子の家に行ってしまったがおやつの時間には戻ると言う。子と共にリビングに通され、紅茶好きの彼女は冷たいピーチティーを出してくれた。大きなガラス製の素敵なポットには、贅沢にも生の桃がカットされた物がふんだんに入っており、グラスにそれを注ぐと途端に桃の甘い香りが立ち上る。氷も、自家製ではないウイスキー用の白い部分のない氷。なのでお店で飲むようなアイスティーだ。もてなし上手の彼女らしい。
「このピーチティー、すごく美味しいね。」
「ありがとう!最近はまってて。フレーバーティーも美味しいんだけど、子供達が甘い紅茶が好きでね。ただ香りだけ付いているのだと飲まないの。これだとほんのり甘いしジューシーな感じで満足感もあるみたい。」
子も、普段紅茶はあまり好まないのに、余程美味しかったのかゴクゴク喉を鳴らして飲み、あっと言う間におかわりだ。少ししてから彼女お手製のパスタとパエリア、サラダにビシソワースが出て来た。家では作ったことがないスープに、子はまたもや一気飲み。
「おいしい!このスープ美味しいよ!!」
「ありがと~、暑いから冷たいもの欲しくなるもんね。」
「どう作ったの?」
「簡単だよ、じゃがいもと牛乳と玉ねぎをフープロでガーっと混ぜただけ。あっと言う間。」
料理上手な彼女、その他のメニューも文句なしに美味しかった。彼女の子供達は近所でお昼をご馳走になっているそうだ。正直、私達が来るのなら子供達もいるものだと思っていたので、なんだか拍子抜けした。取り残された子が少し可哀想に思えた。しかし、子供には子供の都合があるのだから仕方ないー、それに、1年に1度会うかどうかの友達なんて子供からしたらもはや友達ではないのかもしれない。毎日遊び慣れている子の方を優先するに決まってる。
それにしたって、私が彼女の立場なら・・わざわざ遠方から訪ねて来たお客さんに会わせることの方を優先するのだけれど・・
多少もやついた気持ちを抱えながらも、しかし、お腹が満たされる頃にはそういった不満も薄らいで行った。
彼女に会って、いち早く聞きたかったことーご主人との離婚話、しかし子の手前、なかなかその話を持ち掛けることが出来ない。彼女も子に気を遣って、学校でのことや習い事など当り障りのない話ばかり。
そうこうしているうちに、ドタバタと玄関の方から音がし、彼女の子供達が帰って来たようだ。
「あ、帰って来たみたい。」
「ただいまー!」
賑やかな声達。しかし、その声は複数。ドヤドヤと騒ぐ声。玄関から彼女が困ったような声で何かを言うのが聞こえたが、少しして気まずそうに私達のところに来たかと思うと、
「ごめんね、子供の友達をちょっとの時間預からないとならなくなって。さっきまでお昼ご馳走になってたんだけど、その子の家の末っ子ちゃんが熱出たみたいで今すぐ病院に行かないとならなくなったみたいで・・1~2時間だけど預かることになっちゃったんだけどいいかな?」
駄目など言えるわけもなく、笑顔で頷く。久しぶりの息子君と妹ちゃんが彼女の後ろから顔をぴょこっと出し、子の方を見ているがお互い声を掛け合う訳でもなく、なんとなく微妙な空気が流れた。更にその後ろに息子君のお友達と妹ちゃんのお友達?もおり、彼女に聞くと、近所のその子達とは、彼女の子供達と同性&同学年で四六時中家族ぐるみで行き来をしている気心知れた仲らしいのだ。斜め上に住んでいることから、バルコニー越しに子供同士声を掛け合い、遊びに行ったり行かせて貰ったり。また、ママ同士の関係も良好そうだ。
「OOちゃんも遊んでおいでーちょっと!あなたたち、OOちゃんも入れてあげなさいよ。」
彼女は気軽に言う。子の方を見ると、居心地の悪そうな表情でもじもじしていた。そして、そんな子の感情に全く気付かない彼女の鈍感さにイライラが募る。
彼女の子供達は、子ども部屋に行きわいわいガヤガヤしている。その中に子を連れて行こうとした彼女を私は制した。
「あのさ、もう2年生だし女の子だし、やっぱり久しぶりだとアウェー感半端ないと思うんだ。2、3歳なら入れるかもだけど・・知らないお友達の中にはちょっと無理かな。」
そこまで言って、ようやく彼女は分かってくれた。
「そうだよね、ごめん!なんかOOちゃんは私の中でずっと2歳くらいのままで・・そりゃあ入り辛いよね。でも下の子達となら絡めない?まだ幼稚園入ったばっかだし、ちょっと呼んで来る!」
そうして、妹ちゃんとそのお友達だけがリビングに連れて来られた。どうなることかと思ったが、まだ幼い女の子達は彼女の言いくるめもあり、すぐに我が子と馴染んでくれた。子は、少々物足りないようだったが、かといって子供達の声のする中大人といる方が手持ち無沙汰になるようで、すぐに小さな子達のごっこ遊びに付き合い、次第に仕切り始めるようにまでなったのでホッとした。
ー子供連れでこうして会えるのもあと数年だね・・
心の中でつぶやく。子を通しての付き合いが、子の成長と共にそれとは別になって行くのだ。それは至極シンプルな付き合い。1対1のー、大人だけの繋がり。
リビングでは妹ちゃんのお友達が少々ワガママで子も手を焼いているようだ。突然泣き出して、私達も肝心の話が出来ないまま時間だけが過ぎる。かと思えば、息子君達は見慣れない客が気になるようで、ちょこちょこリビングと子ども部屋とを往復する。私としては子と少しくらい会話をして欲しいと思い、なんとなく話し掛けるのだが、こちらのぎこちなさが伝わるのか、息子君もいまいちのリアクションだ。
息子君らが来ると、息子君のお友達は我の強い子なのだろう、すぐにその場を仕切ろうとする。妹達にあれこれ指令し面白い遊びを始めるのだが、それまで折角ごっこ遊びで子も楽しく遊べていた関係がすぐさま崩れ、仕方なしに子は私達のところに戻る。
「ねえ、これって何?」
妹ちゃんが、私が土産に渡した包みに気が付く。サンリオのラッピングなのですぐ目にとまったのだ。
「これはね、OOちゃんママがお土産にくれたのよ。ありがとうは?」
「ありがとう!これはにいにの?」
「うん、そうだよ。ほら、ありがとう言いなさい!」
「ありがとう・・」
シャイな年齢なのだろう、小さくぼそっとお礼を言う息子君。何故か、傍にいるお友達兄弟がそのプレゼントを見たいと騒ぎ出した。なんだかやりたい放題なそのお友達兄弟に次第に嫌悪感が湧く。
「ねえ、見てもいい?」
妹ちゃんも我慢出来なくなったようで彼女に聞く。正直、お友達がいる前で開けたらトラブルが起きそうなので後にして欲しかったが、渡してしまった物はもう彼女達の物。その判断は任せるしかなかった。そして、子供達の好奇心を止めることはもう不可能で、バリバリと包装紙を破く音にリビング内は包まれた。
その間、私と子はハラハラしながらそれを見ているだけしか出来ずにいた。
「かわいーい!!」
「妖怪ウォッチじゃん!」
子供達は、ぱぁっと嬉しそうな笑顔を見せてくれたので、内心胸を撫でおろした。息子君は、やはりピカピカ光って回るボールペンに食いつき、妹ちゃんはシールやメモ帳を大層喜んでくれた。しかし、その隣にいるお友達兄弟は物欲しそうに見ているだけで飽き足りなくなったのか、危惧していたことがやはり起こったのだ。
「これ欲しい!可愛い!!」
まずは妹ちゃんのお友達。プレゼントしたぷっくりシールのジュエルペットを指差して言った。困ったな・・と思い、でも彼女に全ての成り行きを任せようと見ていると、驚くことに、
「3シートいただいたし、1つくらいあげたら?」
なんと妹ちゃんをこう促したのだ。ちょっと彼女の言動が信じられなかった。それは彼女の子供にあげた物で、赤の他人の子にあげた物じゃないんだけど・・
なんとなく気になり息子君の方を見ると、早速プレゼントした折り紙を盛大にばらまいてあれこれ折り出したのは、息子君のお友達だ。息子君は光るボールペンに夢中で、勝手に折り紙を使われていることに気が付いていないようだ。彼女の子供たちの為にあれこれ悩んで決めたプレゼントなのにー、悔しい気持ちと子供相手に腹立だしい気持ち、そしてそれを注意しない彼女に苛立ちは更に募る。
せめてー、そのお友達が我が子を快く輪に入れて遊んでくれたのなら、その図々しさも帳消しになっただろう。しかし、遠巻きに子を眺めてアウェイにした。彼らがいなければ、多少のきごちなさはあったかもしれないが、仲良く3人で遊ぶしかなかっただろうし、私もアウェイにされた子に必要以上に気を遣う必要もなく、彼女との久しぶりの会話に花を咲かせられたというのにー、大体、近所だからといってそのお宅に来客があるというのに子供達を預ける親の神経も分からない。下の子が熱が出た!?そんなのこっちの知ったことじゃない。
引越し前のママ友だって、少しいい顔し過ぎではないか?たまに会う昔のママ友よりも、毎日会う近所のママ友を優先する、そんな調子の良い彼女に対し、マイナスの感情がドバドバと溢れ出す。
結局、最後までお友達兄弟のママさんは子供を迎えに来ることはなく、ラインで何やらやり取りをした後、夕飯は彼女の家で面倒を見ることに落ち着いたようだった。
「なんだか・・折角来てくれたのにバタバタしてごめんね・・」
「ううん、楽しかった!ご馳走様。」
プレゼントのくだりから、子も妹ちゃん達と絡むことが殆どなくなり、ぴったり私の横に張り付いていたものだから、例の件を聞くことも出来ず仕舞いでなんとも不完全燃焼のまま彼女宅を後にした。
土産にと、私と子にハンドメイドの素敵なヘアアクセサリー、それから最近近所で出来た、美味しいと評判のはちみつとクッキー、お取り寄せしている桃のおすそ分けを持たせてくれた。
自宅に戻りヘアアクセサリーを取り出すが、それは大きなシュシュであり、常日頃ボブヘアの私が使えるものではなかった。ゴムでギリギリ結える長さであっても、シュシュが大き過ぎてすぐに落ちてしまう。彼女にとって、私のヘアスタイルの記憶さえ薄らいでしまったのだろうか?
日頃の寂しさを埋める為に会いに行ったはずなのに、なんだか私も子も気疲れだけの時間を過ごしに行ったようなものだった。





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