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やっぱり、もう少し続けて行こうと思う写真。
無趣味な自分から抜け出したい。


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気の良い店主

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自分の住む街で、ぶらりと入れる行き付けの店ーそんなものがあったらと思う。
理想としては、モーニングを気軽に摂れる場所。一人で来る客ばかりで、店員達とも程良い距離感。少しの雑談くらいはあっても良いけれど、基本静か。それぞれが好き勝手にネットをしたりぼーっとしたり。
マスターがとびきり愛想良く、会話上手で面倒見が良い人柄なら言うことなし。むしろ、人が苦手ーそんな人達が集う場所だからこそ、マスターを通してなんとなく人と人との繋がりが出来ていく、そんな感じ。都合の良い他力本願だけれども。

ここ最近、名古屋発祥のモーニングを出す店が都内でも増えて来たけれど、実際のところ敷居が高い。どうせ送迎帰りのママ友連中や、仲良し夫婦、ゲートボール仲間などが常連なのだろうと思うと、一人きりで入る勇気などない。より一層、惨めで孤独な気分になるからだ。

孤立する老人達を救うべく、そういった店は孤独死や痴呆症を軽減する役割を果たしているのだと、いつかどこかの番組で目にしたことがある。しかし、実際ああいった店に出入りする老人は、元々社交的で自治会などの地域活動にも積極的に顔を出し、忙しく立ち動いている人々ばかりなのだろうと思う。


私は妄想するー


ポツンを集めたらどうなるだろうと。引きこもり達を集めたら、どうなるだろうと。
口下手な人間が集まれば、一体誰が主導権を握るのか?恐らく沈黙が続いて気まずい時間が流れるだけだろう。そこで、お節介な世話役が必要である。分け隔てなく人と接することが出来て、細やかな気遣いを提供出来るー例えばYさんのような人。彼女のような人が私達ポツンの仲介者となるのだ。
ポツンが集まれば、それでもやはり派閥は出来るだろう。もしかしたら「群れ」も出来るかもしれないけれど。どんなに良い人であっても、相性ありきの人間関係なのだ。




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ぼんやりそんなことを考えながら、図書館へ向かう。図書館の道すがら、いつからあったのだろう?よく見ないと気が付かない場所にこじんまりとしたパン屋があった。
お洒落でもない地味な出で立ちが自分と重なり、なんとなく親近感を持ってそのパン屋にふらりと入った。

店に入ると、奥は広い作業場となっており、小学校の頃目にした給食室を思い出させるような景色が広がっていた。店主はどこにいるのだろうか?探すが人の気配がない。なので、トレイを片手に取り敢えずめぼしいパンを物色する。アンパンマンやピカチュウのパンもあり、子供に優しい店なのだと更に親近感が湧いた。値段も良心的だったので、久しぶりにおやつになりそうなパンをいくつか見繕った。


「いらっしゃいませー!今日は寒いですね!」


突然、三角巾を頭に巻いた人の良さそうな、私よりも多少年上の女性が顔を出した。ドキっとしたが、


「本当、急に寒くなりましたよね。風邪ひかないように気を付けないと。」


咄嗟に返事を返した。店主は、私が喋り終えると、更に次々と話を持ち掛けて来た。私のトレイにピカチュウが乗っているのに気が付いたのだろう、子供はいくつなのか?アレルギーとかは大丈夫なのか?店主にも子供がいること、喘息持ちで大変だったことー

彼女にこれからどこかへ行くのかと聞かれ、図書館へ行くことを告げたら、パンを袋に詰めながらもずっと図書館ネタを提供してくれた。面白い司書がいること、なかなか予約した本が回って来ないと思い聞いてみたら1年待ちだったということー、どれもどうってことのない話だし、人によっては彼女のような接客を好ましく思わないかもしれない。しかし、私にはそれが心地良かったのだ。恐らく、隣街だということと、別に好かれなくても良い、一期一会の関係だという気楽さがそこにあったからー


「又吉の読みました?」


「ええ、結構面白かったですよね。」


会計が終わってからも、彼女は私に話し掛けてくる。いつ終わりにしたら良いのか、タイミングがつかめなかったが、話好きなのだろうーそれでも私のような詰まらない人間にあれこれコミュニケーションを取ろうとしてくれる彼女に好感が持てた。勿論、それは商売という利害関係があってのことなのだろうが、それでも私は嬉しかったのだ。

彼女から、いくつかお勧めの本を聞いたので、その日はそれを図書館で借りることにした。
次回、図書館へ行った時にまたこのパン屋に寄ろう。そこで、借りた本の感想を彼女に伝えられたらーそう思う。




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加工肉除去

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連日のニュースで繰り返される、ハムやソーセージの発がん性についてー
夫が今朝もニュースを観て、


「今日からうちも、一切禁止だ。」


そう言いながら、突然冷蔵庫から在庫にあったそれらを取り出し、ごみ箱に捨て始めた。まだ買ったばかりのウインナー、封も切っていないというのに、次々に思い切りよく捨てる。


ーまだ食べれるのに・・


そう思いながら、一方では私自身も不安感があったので、これからは買うのを控えようと思ったのだが、一切禁止というのはどうにも極端過ぎやしないかー




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子は毎朝、ハムエッグやウインナーソテーを食べるのが恒例だし、突然それを止めるといっても代替案が浮かばない。また、ポテトサラダや春雨サラダなどに入れていたハムは、カニカマなどで代用するしかないのだろうか。
何かと便利な加工肉、それをいきなり全て除去するというのは、主婦だけでなくそれが主力商品である企業にとっても大打撃であろう。

夫の弁当も、ウインナーに随分助けられていた。5品以上で冷凍おかずではなく毎朝作りたての物を入れるとなると、やはりその内の1品としては、有能なレギュラー選手だったからだ。
加工肉が駄目だということは、魚肉ソーセージはOKなのだろうか?しばらくはそれを代用するしかないか・・何となく味気ない気もするけれど。

WHOのデータが、もう少し消費者に分かりやすく、尚且つ納得させるものならばこんなにも悶々とすることはないように思う。1日辺り50g摂取というのも、なかなか微妙な線を付いてくる数値だ。

夫が出勤し、先程捨てられた未開封のウインナーを取り出す。やっぱり勿体無いー私が処理すればいいー。主婦がどうしても太る原因、勿体無い症候群には、それらのデータは所詮ただの数字の羅列に過ぎないのかもしれない。




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OO一番!

大嫌いなアイツの子供ー、スネオママの息子程、あざとい子供はいないと思う。
成績優秀、スポーツ万能、しかし、1年の頃にはクラス内である女子を虐めたり、また園時代の頃もボスママの子をターゲットに仲間と共に散々虐めているのを何度も目撃している。
そんな彼が、自分のことをこうも評価するかーそしてそれを鵜呑みにしているだろう彼女に心底うんざりするのだ。

今月の学年便りー、毎度の月のスケジュールや連絡事項、裏面には各クラスで選ばれた子供達の一言が、先月の行事写真と共にテーマに沿って並べられていた。12ヶ月あるので、毎月クラスから2~3人程度選ばれる。そしてその中にスネオママの息子ーK君の名前があった。今月のテーマは、「わたしの一番!」だった。
「リフティング一番!」「ピアノ一番!」「お笑い一番!」数々の一番が並ぶ中、K君は「やさしさ一番!」と書いていた。




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ーはぁ!?・・・あんたが優しさ?意地悪一番!でしょうが。


心の声が思わず外に漏れそうになる。あの子が誰かに優しくするとすれば、教師や親の前でのみ。子供だけになれば、何の欲求が満たされていないのか、それを補うかのように弱い子達を虐めるのだ。
いけしゃあしゃあと、よくもそんな嘘が書けるものだと心底呆れ果てた。そしてK君の世渡り上手さに反吐が出る思いだった。
大人の前では無邪気な子供を演じるー、クラス委員も積極的にこなす。担任にとっても扱い安い「良い子」なK君。
結局は、要領の良い子がうまいこと世渡り出来る、そんな社会なのだ。
ふと、TVで無邪気な発言をし、天使のような笑顔とお喋りで回りを魅了する有名子役達が頭に浮かぶ。あれは子供本来が持ったあざとさなのか?それとも回りがそうさせたのか?
瞬時にその場が欲する空気を読み取り、それを自分の中に習得しながらうまいこと自分の個性を絡めて放出するーあれはあざとさがないと出来ない、そう思うのは私だけだろうか?

まだ我が子の出番は回って来てはいないー、何の一番と書くのだろうか・・うまく書けるだろうか・過保護な私は今から気を揉んでいる。
ふっと自分の小学校時代にタイムスリップするー
私なら、何が一番だと書いただろう?思えばあの頃から自分に自信がない子供だった。しかし、母からのプレッシャーで、表向きは自信があるように振舞っていた。ある時期、毎日逃げ出したい思いで学校に通っていたこともあったけれど、玄関を出る時は常に笑顔を心掛けたー
あの頃は自分の長所なんて全く思いつかなかったけれど、今こうして大人になった私からあの頃の小さな背中に向かって、こう伝えたい。


「あなたは、気遣い一番!だよ。」


私もK君のことを言えないが、たまには自分で自分を褒めてあげる時があっても良いと思うのだ。




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匿名の誘惑

夏休みの課題でもあった読書感想文、まいこちゃん宅に担任から電話があり、今年のコンクールに提出してもよいかどうかの打診があったそうだ。勿論、打診というのは建前のものであり、二つ返事で彼女はOK、大喜びで週末は家族でお祝いディナーをしたそうだ。
賞を取ったわけではない、まだまだ選考過程ではあるが、やはり我が子がそれに選定されれば嬉しいのは親心。正直、羨む気持ちがムクムク湧いた。絵画や書道、その他諸々いまだそういったコンクールに声が掛かっていない我が子に、健康であればそれで良しーそう思う一方で少々残念な気持ちもなくはない。担任に見る目がないのではないかーなどと穿った見方までする始末。
ダンス教室では、まいこちゃんママは取り巻き達に声高らかに自慢をし、賞賛の声を浴びせられては喜んでいるように見えた。私は少し離れた場に一人、相変わらず携帯片手に突っ立っていたのだが、レッスンが終わり、子がまいこちゃんと共に出て来た時、まいこちゃんママはまいこちゃんに水筒を渡す為、一旦群れを抜けて私達の所に来た。


「ほら、まいこ。これ飲んで。」


そう声掛けしながら、私と目を合わせる。軽く会釈で終わるかと思ったが、こちらに近寄って来た。そして、案の定、読書感想文の話をして来るのだった。


「コンクールなんて凄いですね!うちの子、あんまり本読まなくて、夏休みの宿題も困り果ててました。」


すると、予想外の返事が返って来たのだった。


「うーん、実はね、読書感想文、まいこやる気がなくってね。殆ど私がやっちゃったの。本選ぶところから文章も。勿論子供が書いたようにしないと駄目だからね、末尾とかわざと子供っぽい言い回しにしたりしたけどね。そしたら選ばれちゃった!」


悪びれることもなく、飄々と言う彼女に驚く。どうやらその事実は私にしか言っていないようだった。きっと、私にママ友がいないからー、彼女からしたら、私は「王様の耳はロバの耳」の「洞穴」なのだ。そして、小学生対象の募集だというのに、あたかも自分に文才があるかのような、それを自慢したいだけの心がヒシヒシと伝わって来た。


「・・・・・」




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私が心底驚き、言葉を失っているのに気が付き、少々バツの悪い顔をしたものの、今度は弁明が始まる。


「今の時代、業者頼んで宿題して貰ったりってのも当たり前でしょう?まだ親がやる方がマシだよね。コンクールで賞貰ってる子なんかだって、殆どは親が書いてて本人は書いてないよ。じゃなきゃあんな文章書ける訳ないって!出来すぎでしょう?」


別に私は聞いてもいないのに、彼女は次から次へと言い訳をする。つい口が滑ってしまったのだろう、言った後にだいぶ後悔したようだった。


「でも、これがきっかけでまいこも自信付くと思うんだよね。賞貰ったらある意味プレッシャーじゃない?まいこちゃんは本を読む子って回りからレッテル貼られるしね。現に、コンクールに出すって分かった途端、まいこったら図書室で本何冊も借りて来てさ~」


何が可笑しいのか、彼女は一人ケラケラ笑う。私はそれを能面のような顔で眺めていたー勿論それは心の中での話で。実際は、彼女に合わせてにこにこ笑う。


「それがきっかけで本好きになってくれたら、かえって良かったかもしれませんね。」


愛想良く、無難にー内心では黒々とした感情が湧いていた。匿名で電話でもしてやろうかー。母親が書いた読書感想文を提出するのはおかしいだろうとー。実際、それをしてしまったら、匿名ではなくすぐに私が犯人だと判明するだろう。私にしか告白していない、そして私が誰にも言わないとタカをくくっているのだ、彼女は。
その鼻っ柱を折ってやりたい衝動に駆られる。しかし、そんなことをすること自体が無駄な時間にも思える。好きにすればいい、それが本当に子供の為になると思っているのならそれまでで、そんな歪んだ教育方針はすぐにボロが出るだろう。


「まいこちゃん、すごーい!!」


子が信じきった様子で、まいこちゃんのコンクール話に驚いている。まいこちゃんが自分の口から会う友達それぞれに自慢して歩いているようだ。親が親なら子も子だ。自分が書いた訳でもないのに、あそこまで自慢気に振る舞えるのはある意味一つの才能だとも思う。

匿名電話で学校にそれを伝える自分を想像する。やはり、そうと分かれば取り消しになるのだろうか?好奇心が湧く。何もかもが順風満帆な彼女らの鼻を明かしてやりたい。そして、向こう側にいる取り巻き達の何人かがこの事実を知ったらどう思うだろう?私と同じような妄想に取り付かれるに違いない、そう確信するのだった。




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隣の夫はよく柿食う夫

「え、あげちゃったの?俺、柿好きなんだよね。あんなにあったのにこれだけしか残ってないわけ?」


果物籠の中には、3個程の柿。確かに配りすぎたかもしれないー、しかし私も子も柿はあまり好きではないし、夫だけの分なら3個もあれば十分だと思っていたのだ。それに、かなり熟したその柿は今週中に食べないと駄目になる。夫がそれを食べるのも気分ありきなところが大きいので、それを待っていたら折角の柿も全て捨てることになりかねない。

夫の取引先から、夫宛に柿がダンボールで送られてきた。お中元でもお歳暮でもないこの季節に何故?と思うのだが、何かしらの世話をしたらしく、話のついでに夫が無類の柿好きだと知り気を利かせたらしい。30個前後もある柿を前に、夫は喜び3日続けて食べてからはぱったりと放置。そのまま食卓に出しても手を付けることがなくなっていたこともあり、急遽、お裾分けを思い付いたのである。

お裾分けには、夏休みの土産を貰ったままのメンバー、バレエ教室での4家族分。一人当たりにすると、ダンボールに残った柿を考えれば4個が適正個数だったのだが、4という数字がどこか演技悪く感じた。しかし3個だと少なすぎる。土産代を考えるとその個数でのお返しは非常識だと思える。5個ずつ配れば、確かに我が家に残る分は3個と物足りない。しかし、届いてから数日は既に十分過ぎる程食べたのだからと思い、夫に一言入れずに配ったのは私に配慮がなかったとも言える。


「夏休みのお土産貰ったままだったし、OOも仲良くして貰ってるし。それにもう十分食べたのかと思ってたから・・・」


「俺はね、好きなもんはゆっくり食べたいの。給食だってプリンは最後まで取って置く性格なの、あなた知らなかった!?」


子供のようにダダをこね始めた夫に、心底嫌気がさした。しかし、それを顔に出さずにひたすら謝った。
柿はあと3個も残っている、子供の付き合いに貢献出来た、そういう思考になれないのは親になりきれていないからー、いや、それ以前に大人になりきれていないからなのだろう。仕事は確かに出来るかもしれない、社会的には認められているであろう夫だが、家庭に入ればこのざまだ。
昨夜はラスト一個の柿だった。夫はそれを大事そうにゆっくり味わって食べているように見えた。食べ終わると大きな溜息を一つ付いたが、何か言葉を発することはなかった。ただただ深い溜息を意味ありげに吐いただけだったが、それは私に対するあてつけには十分なものだった。




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今朝、珍しく夫は朝食を取りながら広告を眺めていた。そしてすぐに、


「おい、ここのスーパーのこの柿、これ旨いやつだから買っといて。」


そうやって、私にまた罪悪感を植え付ける。確かに何の断りもせず夫の柿を配ったのは悪かった。そのことについては謝ったはずだ。本当にしつこくて嫌になる。

スーパーで夫に頼まれた柿は、ブランド物の柿。1個200円もするものだった。隣に子の大好物であるりんごが1個98円で売られていた。本当ならそれを10個買ってやりたかった。しかし実際は夫がうるさいので、5個の柿をかごに入れて全部で千円、勿論りんごは買えなかった。1日分の食費が飛ぶ。しかしもうこれ以上責められたくない思いから、こうするしか選択肢は残っていなかったのだ。
自宅に戻り、何の罪もない柿を壁に投げつけた。何度も何度も。隣からは騒がしい音ー、きっとまたママ友らとランチ会でもしているのだろう。イライラし、もう一度思い切り柿を壁に投げつけたところで静かになった。
はっと気が付いた時にはもう遅いー、お隣に騒音クレームだと思われたかもしれない。そうしてまた私は、「何を考えているのか分からない隣人」というレッテルを貼られることになるのだ。




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何もしてない

「今日は何してたの?」


私になど興味がない癖に、不意を付いて出る質問。それにいちいちドキリとする私。何もしてないー、そうあっけらかんと言い返せたらどんなにか楽だろう。
子がまだ乳幼児の頃は、頻繁にされた質問。それはまるで家に一日いることが悪いかのような、外に出て子を遊ばせなければ駄目な母親だと言わんばかりの口調で私を追い詰めるものだった。
引っ越し前は、そのプレッシャーによって、どうにか気力を振り絞って表に出るよう心掛けた。外が雨だったり、また子が体調悪く家にいなければならない状況だと安堵した。そうした日々をなんとかやり過ごしていくうちに、運良く引越し前のママ友らと出会い、充実したママライフを過ごすことが出来たのだから、それには感謝すべきだ。金を使わず、子とママ友とで弁当持参で公園に行ったと言えば、夫は心底満足したような表情を見せた。
しかし、こちらに越してきてからこの質問はどうにも堪える。子は学校に行っているので、一人で過ごす日中、用事といえば「買い物」くらい。それを知っていてそんな質問をする夫のいやらしさに心底吐き気がする。




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「今日は駅前に買い物に出掛けて、その後OOから頼まれてるDVD借りに図書館に行ったけど・・」


前半は事実だが、後半は真っ赤な嘘だ。DVDなんて借りに行ってはいない。なんとなく付いた嘘ーしかし、


「何のDVD?」


と聞かれ、途端に焦る。しかしそれを悟られないように平然とした様を保ちつつ、


「えーとね、アニメ。普通のアニメ。ディズニーの昔の。」


「ふうん。」


見せてーと言われやしないかと思い、


「でも、貸し出し中で駄目だった。」


先手を打った。夫は詰まらなそうにネクタイを緩めると、やはり恐れていたあのことを聞いて来る。


「そういえばさ、仕事探し、どうなってんの?順調?」


「・・・・・」


「一日買い物くらいしか外出ないんじゃ、うつ病になるよ。学校なんてそれ程行事もないし、OOだって6時間授業の日なんて帰って来るの4時だろう?その間、まさか昼寝とかしてんの?」


尻を叩かれる思いー、外であくせく働く人間からしたら、私のような人間が自堕落な日々を送っていることは不愉快きわまりないことなのかもしれない。
夫はそれ以上追求しなかったが、何も言い返せない自分が情けなく、そしてまたその問いから逃げられない窮地に立たされた状況にいつまでいるのかと思うと妙な焦りと不安が湧いた。
夫の後輩に、子供が4人おり、PTA役員も引き受け、その合間にパートもし、毎日彩り豊かな弁当を持たせる妻がいると聞いたことがある。私はその彼女にどの点でも劣る。対抗するわけではないけれど、それでも自分が夫にとって、妻としては落第の判を押されている現状に、常日頃居心地の悪さを感じているのにもかかわらず身動き出来ない。結局は、ぬるま湯に浸かりきっている自身に嫌悪感が湧くのだ。




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Mさん

心強いメッセージ、ありがとうございました。孤独感が和らぎました。

seline

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目の上のたんこぶ

目の上にたんこぶなど作ったことはないが、スネオママの存在を一言で言うならばそんな感じ。


ー何故、私の前に出て来るの?やっと離れられたと思ったのに・・


私がやっと見つけた居場所にズカズカと入り込み、まるでそこが最初から彼女の陣地だということを主張するかのように振舞う。私以外のママ友に取り入り、わざとらしく大きな声で笑い、忙しく口を動かす。そして、絶対に私を見ないのだ。
それは、雄弁な圧力だった。うまい具合の四角形が、いびつな五角形になって行く。そしてきっと、いつしかそれは私という点を省いた四角形になるのだろう。

大嫌いな人。ここまで来ると、スネオママが苦手ではなくキライだと確信する。どうにかして良いところを見つけようともしてみた。それは彼女の為ではなく、自分の為だった。良いところー、きっと、私以外のママ達からすれば、楽しく話題豊富で、リーダーシップも取れて、テキパキ動く快活な人なのだろうな、と思う。しかし、私を空気扱いする冷たい横顔や、園時代に受けた、一見そうとは分からない嫌がらせはもはやトラウマだった。挨拶をしてもスルーされることは日常茶飯事。次第に心も折れて、挨拶をしなくて済むよう、彼女がお迎えに来ない時間帯をねらって一番乗りで教室前にスタンバイしていたことまでが、つい昨日のことのように思い出される。そんな昔を回想しながら、いつものようにFさんとGさんが座っているソファーへ向かう。憂鬱な気分になりながら足を進めると、2つの見慣れた後ろ姿にほっとする。


ー良かった、まだスネオママはいない。


挨拶をし、いつものように2人の隣に座る。もしかしたら、今日はお休みかもしれないと希望的観測を持ちながら、気合いを入れて話題を提供する。予め話そうと思っていた事色々。駅前で見掛けた、新しいコンビニのことー新商品のお菓子、もうすぐ始まる新ドラマの話題や災害時の備蓄について。
次第に言葉は淀みなく出て来るようになっていた、この2人の前でなら。むしろFさんが聞き役で、Gさんと私が会話の中心にいるかのようにー。調子が良かった。ここに素敵ママが来たとしても、きっと良い感じだ。しかし、アイツが来たら全てはぶち壊し。
夫同様、スネオママに対しても最近では心の中で「アイツ」と呼んでいる。スネオママ親子が、このスイミングに通っているという事実を知ってから1週間ー、折角楽しみにしていたこの曜日が、中途半端に憂鬱なものになっていた。
何を話題に笑っていたのか忘れたが、その笑いが治まり、少しの沈黙ーすると、聞きなれた素敵ママの声が背後から聞こえた。続いて「アイツ」の声ー気分がすっかり暗くなった。
素敵ママも、何故彼女を連れて来るのだろう?いや、素敵ママに彼女が付いて来てるのかもしれない。お互い波長が合うのか、息子同士が仲良しだからというのもあるのか?すっかり打ち解けているようだった。1年生の頃、2人が同じクラスになった時から嫌な予感はしていたが、ここに来てそれがこのように影響するなど思ってもみなかった。
人と人はどこでどう繋がっているか、繋がるかなんて分からないのだ。




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2人が合流してから、私はすっかり貝のごとく口を閉じてしまった。Gさんはその変化に気が付かないようだったが、Fさんはなんとなく気が付いたのだろう。3人がぺちゃくちゃ盛り上がっている中、気を遣うように私に向かって話し掛けてくれたのだ。


「さっきの話の続きですけど、OOさんのお宅は震災用に小銭とかどれくらい置いてますか?」


折角、彼女がボールを投げてくれているというのに、私は殆ど上の空だった。意識はすっかりスネオママの方に向けられていた。


「え・・と、2000円分くらいですかね。10円も電話用に多めにしてます。後、小銭の他にお札もいくらか用意してます。ATMとか機能しなくなるってどこかで聞いたんで・・」


意気消沈し、すっかり敬語に戻ってしまう。声はハリをなくしボソボソ乾いた風だった。そして、話を膨らませることも新しい話題を提供することも出来ず、スネオママや素敵ママらの話が気になってしまい、再度黙り込んでしまった。Fさんとの沈黙の気まずさよりも、スネオママと私との間にある分厚い壁に気を取られていた。そして、まだ誰も気が付いていないのだろう、私とアイツが同じ園だったことを。そして、それを知られた時、私はどんな顔をすれば良いのだろう?アイツはきっとうまく話を流す、流せるだけの会話スキルを持っている。一方私はー・・先を考えれば考える程、鉛のように心が重くなって行く。
気が付くと、Fさんはスネオママらの会話に戻っており、ニコニコ相槌を打っている。口数は少なくても、きちんと会話に参加しているのが分かる。それを証拠に、スネオママはしっかりFさんに向かって愛想良く話しているのだから。
そして、衝撃の事実。Fさんの上の子とスネオママの上の子は同級生で、昔同じクラスだったことから互いに古い顔なじみだったということー。
ますますFさんは、私の手の届かない人になってしまった。だから、大人しく控えめながらも顔が広いのだ。そして、あの悟りを開いたような落ち着きは、上の子がいるお母さんだけが持っているものだった。

あぁ、終わったなー、そう思った。温室は取り上げられた。また吹きっさらしの冷たい荒野に追い出されるのだ。一人、あてもなくさまようのだ。
意気地のない私は、それでも必死で愛想笑いを浮かべていた。面白くもないスネオママの冗談を、さすがに手を叩いて大笑いするのは無理だったが、小さく微笑するくらいならなんとか出来た。しかし、目は笑っていなかっただろう。そして、そんな私の目を見ている者は誰もいなかった。


ーいなくなればいいのに。アイツなんてどこか遠くに引っ越してしまえばいいのに。


嫌いな人間を前にして、戦うことも出来ない私に残された道はただ一つー、「回避」だ。スイミングの曜日をずらすしかない。流石に辞めるなんてことは子の気持ちを考えたら不可能だった。
しかし、折角出来た人脈を詰まらないことで手放すのが惜しかった。黒々とした感情が、彼女の子供にまで覆いかぶさる。人間失格の文字が浮かんだ。









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喉に支えた声

ああ、取り返しのつかないことをしてしまったー、正直に言おう、言おうとするけれど声が出ない。
思えば昔からそうだった。何でもかんでも問題は後回し、仕事で大きなミスをしてもすぐに報告出来ず、上司が気付いて叱られるのを待つだけ。たちが悪いのは、言われてから初めて気が付いたーそんな演技をすることだ。
昨日、作ってしまったシミー、結果から言えば、多少薄くなったものの光に当たればすぐにそれと分かる。分かるのだが、部屋の中でハンガーを掛けた状態だと分かりにくい。その微妙なラインがまた、私に問題を後回しにさせるのだ。いつ夫にばれるか分からないし、ばれた時は「演技」をしようー、そう決めても、一向に心は落ち着かない。




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午後は、ショッピングモールの中のドラッグストアへ行き、丁度安くなっていた歯磨き粉を一旦カゴに入れるも、よく見ると塩入りだったことから、購入を見合わせた。
次に、隣接のスーパーで、再度歯磨き粉を購入し、また塩入りのを選んでしまったことに気が付き、それを棚に戻してから似通ったデザインの塩なしをカゴに入れ直した。その後、食材諸々カゴに入れてレジに向かう。ぼーっと店員がカゴからカゴに商品を入れるのを見ていると、先程ドラッグストアで返したはずの塩入りの歯磨き粉がバーコードで読み取られ、カゴに移された。咄嗟に、


「すみません!それ、間違えてカゴに入れてしまって・・返します!」


と伝えると、店員は少々面倒臭そうな顔をしつつも、取り消しのボタンを押したのだが、そこで塩入りの歯磨き粉はスーパーではなくドラッグストアの物だったかどうか分からなくなっている。
慌ててそれを伝えようとしたのだが、何やら戻したその商品のバーコードを何か別の機械で読み取り直しており、そこで私が事実を伝えれば、更に余計な仕事が増えてしまうー、また、私の後ろには何人もの客が並んでおり、そうなるとその客達さえイライラしているように思えてしまい、喉に声が支えて出なくなった。

ーあの、ドラッグストアの塩入り歯磨き粉はどうなったのだろう?一つマイナスになっているはず。そしてスーパーのそれは一つプラスになっており、それぞれ在庫が合わない状態だ。不安が不安を呼び、いてもたってもいられなくなる。そもそもカゴに入れたまま、レジを通さずドラッグストアのゲートを出てしまった。それはうっかりだったけれど、そのまま違う店に戻してしまったことは犯罪だろうか?おぼろげな記憶と私の気弱さが、こうして人様に迷惑を掛けるのだ。
心臓がバクバクし、いてもたってもいられず、スーパーのお客様コーナーに電話を掛けるしかないと思い直すのだが、それすら勇気が出ない。そして、仕事や学校のように、いずればれる恐れがないことが、かえって罪の意識に苛まれるのだ。




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大失敗

今日は天気も良いし、久しぶりに図書館へ行こうー
夫と子を見送った後、鼻歌混じりに洗濯物を干していたところ、大失敗に気が付く。夫の気に入りのシャツに大きなシミー、緑のそれは脇から背中にかけて、ところどころに不規則な模様を作っている。一瞬、何が何だか分からず呆然としてしまったのだが、洗濯カゴの中にある緑の物がちらっと見えたところでがっくり肩を落とす。
それは、この間雨が降った時に濡れてしまったエコバッグで、キャンバス地の物なのだが、ずっと洗おうと思って一旦袋に入れたままだったことを忘れていたので、今朝洗濯槽に放り込んだ物だった。


ーしまった!


そう思った時はもう遅い。せめて、私や子の衣類だったら良かったのに。よりによって夫のー、しかも愛用しているシャツ・・・




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ーどうしよう・・どうしよう・・怒られる、批難される、溜息をつかれる、いや怒鳴られるかもしれない。あらゆるシュチュエーションを想像しては気分はどんどん暗くなって行く。今、洗い物も掃除もやる気が起きず、こうしてネットに繋げてあらゆるシミ抜き方法を調べていたのだが、いてもたってもいられずブログを書いて現実逃避をしている。
何年も前のデザインの物なので、新たに購入することも出来ない。先程までオークションで同じ物がないかどうか探していた。残念なことに、似たような物はあるのだが、微妙に余計なステッチや飾りボタンのような物が付いており、誤魔化せない。
素直に謝るしかない。そう思い、携帯からメールを送信しようとするが、未送信ボックスにいくつも夫宛のメールが溜まるだけ。


「仕事中すみません。あなたの大事なシャツにシミを付けてしまいました。同じデザインの物を探してはいるのですが今のところ見つかりません。一応市販のシミ抜き剤で落ちるかどうか様子を見ています。もし落なかったら、クリーニングに出してもいいですか?」


クリーニング代、余計な出費だ。予防接種の金を無心する時より気が重い。ネットでシミ抜き依頼の相場を調べる。すると以外と数百円~、物によっては千円以上も掛かるが、思ったよりなんとか工面出来そうでほっとする。そしてふと、これを笑い飛ばすような夫だったらーと悲しくなった。ネットで色々検索するうちに、ある奥さんが同じく旦那のズボンにシミを付けてしまったようで、そのシミが急所部分だったこともあり夫婦で大笑いをしたーというエピソードだった。
もしもこれが夫なら・・想像するだけで背筋が凍る思いだ。
どうか、どうか消えてくれますようー、取り敢えずの漬け置きは2時間程度。まるで受験の合格発表を見に行く気持ちでその時を迎えるだろう。今日は図書館などに行かず、洗濯機の前でオロオロするばかりだ。




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医療費の無心

今月は、歯科矯正だけでなくインフルエンザの予防接種も受けなくてはならない。子は2回接種しなくてはならないのと、またワクチン代の値上がりもありそれなりの費用が掛かる。そして私も専業主婦でありながら、もしもに備えて毎年接種するようにしている。なので、生活費をいつもより多目に貰わなくてはならず、それを夫に打診するのに気が重い。
しかし昨夜、勇気を出して夫にお伺いを立てたのだ。


「今月は、インフルエンザの予防接種もしないとならなくて、あと1万円くらい必要なんだけど・・」


「え?1万も掛かるの?3000円もしないんじゃない?」


夫は疑いの目で私を見る。この冷たい目が嫌だ。都内住みで6万そこそこの生活費でやりくりする大変さを分かって欲しい。しかし、夫からしたら、家賃などの引き落としを省いたやりくり費に何故そこまで掛かるのか理解出来ないようだ。単純に、食費と雑費で十分過ぎる程与えていると思っている。雑費には、子の学校用品や習い事費用も入っているし、靴下や下着などの必要最低限の被服、またネットで買えなかった日用品や突発的な交際費だったり自治会費や子供会費だったりも含むのだ。もう少し手元に余裕が欲しいのだが、それは自分のへそくりで今のところ何とか対応している事実がある。
しかし、そのへそくりも子の歯科矯正で底を尽きつつあるのだ。




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「OOは2回打たないとならないし、私の分もあるしー。」


去年も同じことを説明した気がする。夫がいつでも金を出し渋るからだ。
夫はお大袈裟に溜息をつきながら、勿体ぶって財布をのろのろ開ける。そして、


「あ、今ないわ。今度ね。」


そう言って財布を閉じた。ちらっと万札が見えた気がしたが、本人がないと言えばないのだ。そしてまた数日後にお伺いを立てなければならないのかと思うと、非常に気が重かった。嫌なことは一度で終わらせたいのに、夫はそれを許してくれない。


ー予防接種の金くらいすんなり出せよ!!お前のそういうみみっちい行動でこっちはどれだけストレス掛かってると思ってんだよ!!


また、心の声が乱暴に叫ぶ。普段こんな言葉遣いなどしたこともないというのに、どうしてしまったのだろうー。ネットでは、予防接種のワクチンが日に日に少なくなっていると知る。ワクチンが足りなくならないうちに、何が何でも接種しなくては。夫に煙たがられようと、今夜また金の催促をしよう、そう決めた。




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気晴らし

気分が重いこともあり、気晴らしに子とふらっと出掛けた。特に何かを買う予定はないので、たまごっちのダウンロードとアイカツをしに。お金は1000円だけ持って。これは私のへそくりだ。先月のライター内職で得た金が入金されたこともあり、端数はご褒美に使うことにしている。
子に付き合って、おもちゃ屋や本屋へ。それから今度は私の行きたい無印良品に付き合ってもらう。1000円で何を買おうか迷い迷う。季節の限定お菓子もいい。新しいカトラリーやお椀も。あれこれ迷い歩いている時間が楽しい。子もだいぶ成長したので、共に買い物に行けば、色々なアドバイスまでくれる。




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「みて!これママに似合うんじゃない?」


シンプルだが、ラインが綺麗なニット。しかし、私が絶対選ばないだろうその色は、子からしたら案外私のイメージだったりするのかもしれない。いやー、そうじゃない、こうであったらという理想の母親像なのかもしれない。
温かみのあるその色に、宇宙のような包容力さえ感じられた。

結局店内をふらふら歩き回り、気分を変えたい思いから、買い物ではなくカフェでお茶をすることにした。2人で1000円でもお釣りが来るし、ちょっとしたレジャー気分も味わえる。
一度入ってみたかったMUJIカフェは、土曜ということもあり混んでいるだろうと覚悟していたが、丁度ランチでもなくおやつの時間でもない中途半端な時間だったこともあり、待たずに入店出来たのが嬉しかった。

子と2人、雨の週末に外でお茶。何とも贅沢な時間。嫌なことや不安なこと、もやもやする気持ちが一瞬薄れる。それは全て消えはしないけれど、甘いモノが体内に入ると、凝り固まった脳内がなんとなく柔らかくほぐされる気がするのだ。




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晴れのち雨

晴れ女か雨女かでいったら、私は雨女だ。
外出したい時に限って雨が降り、家にこもりたい時に限って爽やかすぎる晴天。
予報が晴れだからと、気分良く自転車で隣街まで買い物に出掛けた時に限って、スーパーに到着した途端、どこから現れたのか黒々とした雨雲ー本当についていないのだ。

最初から雨だと分かっているのならば、心の準備も出来るし、雨具を携帯し濡れないようそれに備えることだって出来る。しかし、ふいうちの雨というやつは本当に胸糞悪いものだ。そして、そんな思いを先日味わうことになった。

子の新たな習い事、スイミングはいたって順調だった。やはりプロが教えるからだろうか?正しいフォームでクロールらしきものが出来るようにもなっている。ものすごい進歩。

危惧していた待ち時間は、素敵ママやFさんGさんの4人で過ごすことが定例になりつつあった。まだ、素敵ママ以外の2人には敬語を使っているが、それでも話し掛けられるばかりではなく、こちらからも学校のことだとか思い付く雑談を持ち掛けることが出来るまでになっていた。
「固定メンバー」というものはなんて居心地が良いのだろう。しばらく忘れていた安心感。引越し前以来といってもいいだろう。それ程に、私はそれまで自分を殺して日々子供関係を過ごして来たのだ。
ランチをしたり、お茶をしたり、一緒に買い物をしたり・・それが本来のママ友と呼べる付き合いなのだろうが、いまや私はそこまで高望みをしてはいない。ただこうして、会えば気軽に話せる関係、それが習い事のついでであっても、毎週1度はそういう時間を持てることが、日々孤独な時間を過ごす自分には大切なことなのだ。1週間のうち、家族以外ときちんとした会話が出来る、それがたったの1時間足らずであっても・・それでもそれが確実に確保されているというのは、心に安定をもたらす。いつどこで出来るか分からない立ち話とは違い、落ち着ける「居場所」なのだ。

Gさんが話すあれこれは、学校が違うこともありそのどれもが新鮮だった。授業から宿題、担任の質まで、私達の学校とはいくらか違うものがあった。これこそ「情報交換」というやつなのかもしれない。Gさんは、見た目スリムで黒髪ストレートが良く似合う色白で目の大きな秋田美人、小ぶりの邪魔にならない程度のダイヤのピアスをいつもしており、コンサバだがどこか垢抜けた雰囲気を持つ。しかし、素敵ママのような派手さがないのと、また顔に似合わずどんな話も面白ろ可笑しく話す為、親しみやすさがそこにあった。
Fさんは、物静かだが顔は広そうだ。スイミングでも素敵ママに負けず色々な人達から声を掛けられている。園時代の敬語ママを思い出させるーそんな雰囲気の人。聞き上手、しかし沈黙になれば率先して話題を提供する、大人の雰囲気を持ち合わせた落ち着いた人だった。子が1年の時、同じクラスだったことに気が付かないくらい、彼女は目立たなかった。いや、単に私が気が付かなかっただけだ。彼女の子供は男の子で、それもあり子と接点もあまりなかったのだから。

いつものように子を更衣室前まで届けると、メンバーが集まる固定席へと向かった。既にFさんとGさんが座っており、素敵ママはまだ来ていないようだった。


「こんにちは。」


「あ、こんにちはー。」


二人共、自然に私の為に席を開けてくれる、そんな些細な仕草さえ嬉しかった。彼女らにとって私がこの場に来ることが当たり前のこととなっている、そして私もーいつしか、スイミングの曜日は子の習い事メインではなく、自分自身プライベートを楽しむ曜日にさえなっていた。彼女らにとっては習い事の「ついで」であるのだろうが、私にとっては子の習い事が「ついで」になっているといっても過言ではない。
素敵ママが来るまで、3人で子供達の泳ぎを観察していた。Gさんは私の子を見つけると、学校も違うし関わりもないというのに色々と褒めてくれた。


「OOちゃん!まだ入ったばかりなのにすごいね。フォームも綺麗だし、すぐにうちの子追い抜かされそう。うちなんて幼稚園からやってるのにまだ赤帽子だよ~」


子の名前を覚えてくれ、そして褒めてくれる。それだけでGさんが大好きになりそうだった。Fさんも、そんなGさんの言葉を聞きながら笑顔で優しく頷いてくれる。
彼女らは、私を空気のように扱わない。きちんと人として接してくれる。それは、素敵ママのお陰であることも否めないけれど、それでもやっと出会いたい人達に出会えたような気がしたし、こんなことは初めてだった。そして、私も彼女らの前だと、苦手な複数であっても自然体でいられるような気がする。それはやはりFさんの存在も大きかった。
輪の中で、自分以外皆が皆お喋りだと、声を発するタイミングを失ってしまう。しかし、私のように物静かな人間が一人交じるだけで、その輪から置いていかれるという焦りは消えるのだ。焦りがなくなれば、口を開く間合いも的確に得ることが出来るし、また妙に空回った馬鹿げた発言をしてしまったり、どもったりということも少なくなる。良い連鎖は良い連鎖を呼び、人並みにコミュニケーションをはかることが出来るのだ。




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会話を楽しんでいると、背後に人の気配がして振り向いた。てっきり素敵ママだと思い、笑顔で振り返ったのだが、その隣にいる人物が目に入り途端に凍りつく。


「こんにちは!」


「久しぶり~!」


FさんもGさんも彼女と彼女の隣にいる人物に向かって笑顔で挨拶をする。その人物とはースネオママだった。スネオママは、一切私に視線を合わせることもなく、私以外と久しぶりの再会を喜んでいるかのようだった。しかし、確実にそれは私の存在を意識した行動だ。私の体は硬直し、それから作り笑いはぎくしゃくし、ただの一言も発することが出来なくなってしまった。スネオママもいつからか息子をこのスクールに通わせていたらしく、ここ数週間K君は風邪をひいたり手足口病にかかったりで泳ぐのは自粛していたのだそうだ。素敵ママとは1年の頃同じクラスだったことと子供同士が仲良しだった為に、自然と親しくなったのだろう。
固めつつあった地盤がみるみる間に崩れていくー、やはり、私に晴天は似合わないのだ。

彼女が来てからの1時間は、非常に長いものになった。ソファーは5人が座ることが出来ず、スネオママは立っていたのだが、見下ろされている感じが威圧感でしかなかった。会話は素敵ママとスネオママとGさんが取り仕切る。Fさんがいて安心していたのだけれど、しかしスネオママはFさんとも知り合いだったようで、下の名前にちゃん付けで彼女にあれこれ話し掛ける。その事実に、Fさんと自分との距離が一気に遠くなった気がした。
彼女が来たことで、私は途端に空気になった。頭の回転も早く、次から次へと話題提供するスネオママについていける者しか、その場の会話に参加することは許されなかった。いやー、そもそも彼女はハナから私に向かって話そうとしない。受け皿がないのだから、彼女の話に相槌を打つことさえためらわれる。

次第に私は彼女らの会話に無理して混じり、ぎくしゃくした笑顔を作り続けることに違和感を持ち始め、子供達が泳ぐプールに視線を落とすことに集中し始めた。あたかも子供の見学に情熱を注いでいるかのように、一番の関心事は子供の泳ぎであるかのようにー

実際は、耳をダンボにして彼女の話を聞いていたのだけれど・・

時間になり、女の子の親は私だけなので更衣室に向かうのも私だけだった。
無理やり笑顔を作り、最後までスネオママの方を見ることなく挨拶をするのが精一杯のプライドだった。彼女のご機嫌など取りたくない。無視されたのなら、こちらだって笑顔の安売りなどしたくない。
大人気ないが、それが自分を保つ必死の手段だった。更衣室へ行くと、子は見覚えのない女の子とふざけ合っていた。三角帽のタオルを頭に巻いて、小人達のようにはしゃぐ子供達を見ていると、妙な勇気が湧いてきた。


なるようになるー


自然に身を任せよう。一瞬、子のスイミングの時間をずらそうとさえ思ったのだが、そんな馬鹿げた考えを頭から振り払う。これは、試練だ。
ここを乗り越えなければ、これから先、社会復帰することだって難しい。世の中にはもっともっと嫌な人間がいるのだから。前向きな気持ちを無理やり持ちつつも、やはり帰りは彼女と会わないかと、バス停にその存在を確認する私がいるのだった。




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余裕ぶる人、出し抜く人

孤高の人は孤高の人だと思っていたのだけれど、久しぶりにばったり会った彼女は以前と印象が変わって見えた。スーパーへ行くまでの道で、一方通行の狭い通りがある。前方に知ってる顔がー、孤高の人だった。
ばっちり目が合い、咄嗟に会釈する。
抱っこひもがすっかり定着したその姿は二児のママそのモノなのだけれど、ニット帽にスウェットサルエルパンツ、彼女らしい個性的な柄のニットベストとそのスタイルの良さが、実際の年齢よりマイナス7歳程に見える。


「あ、久々ー。」


「こんにちは。」


相変わらず堂々とした風貌を前に、ついぎこちない笑顔になってしまう。私と対局にいる彼女、自信満々で人に媚びない、自立した女性。


「買い物?」


彼女が私に問いかける。そしてそのままなんとなく立ち話という流れになった。あまりにも久しぶりだったことで、話し掛けられた嬉しさよりも戸惑いの気持ちが勝つ。しかし、それを悟られないよう必死に笑顔を作り、彼女の問いに答える私がいるのだ。
こちらから何か話題を提供するとすれば、当り障りのない彼女の胸の中にいる赤ん坊のことー。素敵ママの時もそうなのだが、正直それくらいしか会話のネタが思い付かず、興味もないのにさもあるかのように振舞ってしまう。


「毎日忙しくて。時間が足りないんだよね。午前はこの子連れて色々付き合いもあるし、午後はレッスン入ってるし。こないだ取材も入ったんだけど、あまりにも忙しくて断っちゃった。タイミングが悪いのよ~。ベビーのリトミックもしないかって話が出ててね。あれもこれもで頭がパンクしそう!」


困る困るを連発しながらも、顔は充実感一杯に溢れている。多くから求められていること、そして選択出来る立場に自分がいること、スッパリ切り捨てられる余裕があることー、正直私にはただの自慢話にしか聞こえなかった。むしろ周囲にそれを吹聴することで、自分のアイデンティティを確認しているかのようにさえ思えた。
園にいた頃、彼女はもう少し黙々とした雰囲気があったし、確かに忙しさをアピールする癖はあったかもしれないけれど、今よりも大物感が漂っていたような気がする。
言葉にするのが難しいが、あえてするのならば、大型犬から小型犬に変わってしまったようなー、チワワが一生懸命忙しく吠えている、そんな印象を受けたのだ。そして、私が彼女の期待通りのリアクションー、


「うわぁ、大変ですね。忙しそう。」


「孤高さんがいないと成り立ちませんね。」


「皆、孤高さんを必要としているんですね。」


そんな言葉を投げかけると、満足気な顔をする彼女がいるのだ。


「ダンスなんてさ、元々はただの趣味だったんだけどね。今も正直好きなことしてるだけなんだよね。だからガツガツ仕事って感じになっちゃうと家のことも出来なくなるしさ。あまり手を広げたくないんだけどね~なんで声掛けられるんだろう。しかも今子供も手が掛かる時期なのにさ。」




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好きを仕事にー、誰しもが持つ憧れ。しかし、彼女はそれを「取捨選択」出来る自分に誇りを持っている。自分の意思で、好きな時に好きなだけ。今を生き急ぐ人々をどこか小馬鹿にしたようなー、それを証拠に、


「下の子のママ友連中がさ、復帰するのに必死でね。もっとゆっくりすればいいのにね。1年以上空くと仕事が無くなるってそんな会社、こっちから願い下げだよね。もっと自分を大切にすればいいのに。アップアップしてて、傍から見てて疲れちゃうよ。」


相手が私だからなのか?それとも本気でそれをそのまま下の子のママ友連中に言っているのかは分からないが、もしそうだとすれば彼女は大多数から反感を買うに違いない。

私や私の子の近況など全く興味がないのだろう、向こうからこちらに対しての質問は全くなく、一方的に会話を切り上げられる。私というただの通りすがりを通して、現在の自分がどんな人間なのかを確認し、大方満足したようだった。


「じゃあね!また~。」


軽い足取りで去って行く彼女。
彼女がいなくなった後、何故だか小学生の頃、少しだけ仲良くしていたクラスメイトの顔が頭に浮かんだ。
その子はいつも余裕ぶっており、テスト前になると、


「全然勉強してない~。昨日もずっとお兄ちゃんとスーパーマリオしてたんだよね。どうしよう~。」


そう大騒ぎしながらも、返却されるテストは満点だったことを思い出す。
そう言えば、クラスの女子から陰で嫌われていたー、そんな彼女。その言動が「鼻に付く」ことを、彼女は最後まで気が付かず、最終的にハブられていた。
孤高の人がそうだとは言わないが、ちょっとしたさじ加減で誤解を生みやすい、そんな人のように思えたのだ。




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偽看板

母の期待が重すぎて、その重圧に耐え切れず私は嘘を付くしかなかった。やっと解放されたと思っていたのに、また私は嘘を付く。 その始まりは、何てことのない電話だった。
子がいる日中に掛かってきた電話ー、この間、墓参りに行った際に車の中に子がアイカツカードを数枚置き忘れたらしく、その連絡だった。正直、もし私が母の立場なら、忙しいであろう娘に気を遣ってそっと手紙に子のカードを封入して送るだろう。いやー、少し美味しいお菓子や季節の果物なども入れて、どちらがついでだか分からない、そんな小包を送るかもしれない。
母と会うのは多くても月1で十分ー、それもあり、つい軽く出た嘘だった。


「ごめん、その日は面接なんだよね。仕事始めようと思って。」


今思えば、無難に学校行事だということにしておけば良かったのにー、ぼんやり漫画を読みふけっていたことと、早く続きが読みたいが為の嘘だった。


「あら?あんた仕事するの?どこ?どこに面接!?」


「うん・・O×電機ー、普通に事務員だけど。」


「すごいじゃない!いいじゃないの、いいじゃないの!!」


ーしまったーそう思った時は既に遅い。なんとなく付けているTVコマーシャルから耳に入ったその会社名を、ただなんとなく使っただけ。しかし、受話器越しに聞こえる嬉々とした声に段々と憂鬱になって行った。


「受かったら、連絡しなさいよ!」


そう言い残して母は電話を切った。また一つ、くだらない悩み事を増やしてしまったー、しかも自らが蒔いた種。自業自得だ。母は一部上場企業ー、いわゆる一流企業だとかまた早慶上智大学などの学歴ー、そういったモノに弱い。まだ金があった頃、私を私立中学に受験させようと躍起になったのもその為だ。子供が有名校に通い、そして誰しもが知る有名企業に入社するーそしてそれを知人に自慢しまくることー、それが彼女のアイデンティティなのだ。




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昔ー、契約社員の期限が切れて、次の仕事が決まるまでの繋ぎに、某企業の短期バイトをしたことがあった。簡単な事務作業で、ちょっとした情報を入力するだけの作業だったのだが、それを知るやいなや、母はまるで私がそこの社員になったかのような振る舞いを周囲に向かってするようになった。

ある時の親戚との会話では、


「いや~ね、娘がね、O×社に決まってね。そうなのよ、すごい難関!大学は失敗したけどね、でもまだまだ挽回はあるってもんよ、分からないわよね人生。」


パート先からシフト変更願いの電話があれば、


「その日はー、ええとね、娘が○×社で残業あってちょっと大変かもしれないからさ、家でご飯作って待っててあげたいのよ。一応確認してからまた掛け直すわ。」


共に買い物へ行く為にバスに乗れば、


「○×社は最近どう?○×社の仕事はやっぱり大変なんだろうね、来週の休日は休めるの?」


いちいち社名を大きな声で、周囲に聞かせるかの如く響かせるのがたまらなく恥ずかしかった。ただのバイトなのに、しかも短期の・・それなのに、まるでそこで娘がバリキャリであるかのように振舞う、そんな母に嫌悪感が湧いていた。それなのに、それを止めることも出来ず、ただげんなりするしかなかった昔のこと。

まともな企業で社員になることも出来ないまま、成り行きで今の夫と結婚し、そのまま子供を産んだ時ー、母は心底失望したのだろう。一縷の望みももう叶わないー、ただの専業主婦になった娘ー、まだ生まれて間もない子を抱きながら、絶望的な言葉を浴びせかけられた。


「ほんと、あんたは失敗作だわ。結局フツーの’’お母さん’’になったんだもんね。」


普通?普通の何が悪いの?私の幸せは誰が決めるの?お母さん?あなたが決めるの?私はあなたの作品なの?え?そうだったの・・?

「母の期待」という名の衣をすっかり脱ぎ捨てたはずの私だったのに、いまだその欠片に足を引っ張られている。これからどうするのだ?どうしたいのだー自分?
面接には落ちたーそう伝えようと決めるも、失望した母の顔が浮かぶ。母の喜ぶ顔を今まで見たことがあっただろうか?遠い記憶を辿ってみる。
あぁ、そうだー、テストで満点を取った時ー、真っ先に浮かぶのは母の笑顔だった。自分の嬉しい感情より何より、先に来るのは真っ先に母の顔色だった。
そろそろ自分が本当に喜ぶことを探してもいいのではないかと思う。母の人生ではない、自分の人生に自信を持つ為にもー




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地域と繋がる

一体、この地でこの先どれだけの時間を費やすことになるのか。一生賃貸のままなのか、それともいずれ夫の両親と同居するのか、未来はぼんやりと曖昧なまま時だけが過ぎて行く。
もしもー、この地に永住すると腹を決めたのなら、もっともっと積極的に地域住民とのコミュニケーションを図っていただろうか?そんなことを考えながら、だだっ広い校庭の中心で人々を誘導する自治会や子供会の役員連中を眺めていた。彼らは揃いのTシャツを着用し、地域対抗ということもあり地区別にカラーを分けているようだ。気合の入った地区だとスパンコールなどのデコレーションも施され、その密着度が垣間見える。
私の住む団地住民の役員達は、賃貸ということもあり、流動生のある繋がりだ。いつかはここを出て行くー、地元民のように濃厚な付き合いでもないそんなおぼろげな繋がりの中でも、今その時々を楽しもうと前向きに和気あいあいとしている姿が眩しかった。
Eちゃんママも、子供会の役員なので率先してテキパキと動き回っていた。いつもクールな横顔は、年配の自治会役員に対しては、どこか柔らかく物腰の低い姿勢が好感を持たれているようで、冗談を言い合っている姿に自分を重ねる。


ーもし、私があのポジションにいたならばー


不毛な妄想。毒にも薬にもならない、手持ち無沙汰な時間を埋めるだけの一人遊びだ。
AちゃんママやDちゃんママも、役員ではないけれど、子供達の面倒を見ながら、ママ友であるEちゃんママのサポートをする形で、すっかりその場に馴染んでいるようだった。他に知らないメンツも多かったのだが、やはりところどころで群れをなしており、私のように一人で所在無さげに突っ立っている人間は殆どいないように思えた。
子は1年生の集団の中で、どこかお姉さんぶってあれこれ指図しているようだ。それを見てハラハラする。そんな態度ではまた爪弾きにされるのではないか?見ていて危なっかしく、しかしそれも人生経験なのだと思い見て見ないフリをする。

3回目のトイレを済ますー、やることがなく自分の出る種目以外は皆と離れた所でうろうろしていた。まるで我が子がその種目に出ているかのように、カメラを片手に立ち見席の中、人混みに紛れる。
ふと近くのテントで年配の集団が、一人隅っこで落ち着かずにフラフラしている男性に茶々を入れているのが見えた。


「お前さんもさ!ほら、遠慮せずにこっちに来て飲め飲め!!」


「いや、わ・・わ・・私は酒があまり飲めないので・・」


「ちょっと口を付けるくらいでいいからさ!男だろうが!」


男性は、何とも居心地が悪そうにしながらも紙コップに入れられたビールを体に流し込む。無理して飲み込んだせいか、むせて苦しそうに涙ぐむ姿が、人の良さを物語っていた。年配者達は、その姿を満足気に眺める。しかし、コップが空になるまでその場から解放してくれることはなさそうだ。


「ほらほら!もっともっと!」


「え、あー、いや、でも・・えーあー・・」


「え!?何よ?女みたいな奴だなぁ、もっとでっかい声出せよ、男だろう!!ワッハッハ!!」


「えぇ・・す、すみません。ア、アルコールが回って来ました・・」


「え!?いーじゃんかよ!酔っ払った方が早く走れるんじゃないのか?」


「え、ま・・まぁ。」


ほんのり頬を赤らませ、男性はふわふわとしたにやけた表情で更に周囲の笑いを買っていた。年配者は男性をからかいながらも、どこか優しい眼差しを彼に向けていた。


「なんだよ、ニヤニヤしやがって、気持ち悪い奴だなぁ!!」


気の弱そうな男性ー、そしてそれは自分と重なる。年の功は私より少し上、子持ちだろうか?いや、案外独身者かもしれない。しかし挙動不審でビクビクしたような空気を放ちながらも、周囲から何故か優しく受け入れられている彼が羨ましく、そして自分と一体どこがどう違うのか考えてみた。




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ーそうか、彼と私ではっきりと違うところがある。彼は「隠そうとしない」のだ。格好悪い自分をありのままに、恥ずかしがらず謙虚に、そして自然体でいようと必要以上に意気込まない。力が入っているようでどこか抜けているー、それを人は「天然」と呼ぶのだろう。それが彼にはあった。私には無いものー
いじられ易い隙ー、彼は「持っている」のだ。そして、自分が傍からどう見えるのか、どう見せたいのかなどの理想はない。理想がないから気取らない、気取らないから近寄りがたくない。そこに、親しみ易さが生まれる。

縄跳びのエントリー受付の放送が聞こえた。誰も話す人がいない、話し掛けられもしない。一人、沈黙のまま無表情に並ぶ。前に並ぶ女性は同じく前の集団と和気あいあいとしているし、後ろに並ぶ女性も他の誰かと盛り上がっていた。私だけ、真ん中で宙ぶらりん。先程からかわれていた男性が心底羨ましかった。この疎外感をどう処理していこうか。


「ママー!!頑張ってーー!!!」


その時だった、子の声が斜め前方からした。テントの中から私に向かってうちわを振る子の姿が見えた。


「OOちゃんママー!!頑張って~!!」


顔も知らない、1年生の子供達が子に釣られたのか私に向かってうちわを振る。その横にいる素敵ママの子R君も、


「OOママー!頑張れー!」


私に向かって声を上げてくれた。以前、彼が友達同士でエントランスで遊んでいる時、挨拶もせずにそそくさとその場をスルーしてしまった自分を恥じた。


「子供達の応援、一番のプレッシャーですよね。」


前にいた女性が突然振り返り、笑いながら私に話し掛けてくれた。


「ええ、なんだか恥ずかしいけど、頑張るしかないですよね。」


気の利いた答えは返せない、折角のチャンス、そこに笑いを生むことさえも出来ないー、しかしそれが私なのだ。そんな私が安易に地域と密に繋がろうだなんて無理な話だ。地道に、真面目に、ゆっくりゆっくり。頑張れる時は頑張ろう。こうした催しに少しずつでいいから参加すること。皆勤賞じゃなくていい、目立とうとしなくてもー、ただ、「そういえばあの人、運動会の綱引きしていたな。」くらいのニュアンスで関われたらそれでいいのだ。その積み重ねがきっと、いつかの将来に実を結ぶことだってあるかもしれない。
前方の女性は、続く会話の糸口が見つからなかったのだろう、にこやかにしつつ体を前に向き直した。


「入場しまーす!」


威勢の良いアナウンスが聞こえたのと同時に、秋の清々しい風が私の背中を優しく押した。




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Yさん、真摯なアドバイスありがとうございます。折り返し地点ー、そうですよね。まだまだ人生は続きます。それを感謝して、日々自分より先に一歩踏み込む姿勢で。
頑張ります。マイナス思考はなかなか治りませんが、こうした意識を持とうと思える自分には少しですが近づけた気がしています。


seline

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降水確率0%

休日出勤だった夫から、飲んでくるとメールがあった。明日は恐らく二日酔いで潰れるに違いない。

地区運動会は雨で中止ーと言いたいところだが、延期。しかも明日に。天気予報は今のところ晴れマーク。今日は一日中何度も携帯で天気予報のチェックをしていた。一昨日見た時は、日曜も月曜も雨だったはずなのにー、私の勝手な希望的観測だろうか?
イヤダイヤダー、行きたくない。そんな親の心など知らずか、子は運動会を楽しみにしている。明日の為にーと、家の中で腹筋やストレッチなどをして体を温めていた。弁当や飲み物は子供会から出るので、身一つで出掛ける気楽さはある。通常、運動会と言えば、早朝からの弁当作りに場所取りなど、やるべきことは多くあるので疲れは倍増だ。




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折角の三連休だというのに、最終日に嫌な予定が入っていると全てが台無しだ。この二日間、そわそわして落ち着かず、何をしていても一人でどう時間を過ごしたら良いのかをシュミレーションしている。どうせなら、何か面倒でも役割があればと思う。しかし、役員であるEちゃんママにお伺いを立てるハードルは高く、素敵ママが役員だったなら、手伝いを買って出ることも出来たのだけれどー

眠れない、眠れない。こんなことでどうする、自分。一人の人間を育てる親が何をくだらないことでグダグダとー。そう思う一方で、やはり気の小さい私は、母親ノルマに恐れおののくのだ。
子が喜ぶことー、学校関係、地域との繋がり、挨拶やボランティア等のそれらは全部、母親であるなら成し得なければならない「ノルマ」にほかならない。

降水確率は相変わらず0%。もはや絶望的。もう腹をくくるしかないー、頑張ろう、自分。




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まんまるさん、頑張って行ってこようと思います。メッセージ、本当に励みになりました。

seline


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才能・・ナシ

凡人の私は、クリエイティブな才能を持つ人々に憧れる。一心不乱に絵筆をキャンパスに描き殴る芸術家だったり、数多くの流行を世に生み出すデザイナーだったり、まるで天から何かが降ってくるかのように人の心を打つメロディを譜面に出来る作曲家だったりー。
才能ーというものは、しかし自分であるかないかを決められるものではない。実際、それを決めているのは人間で、またニーズを作り出すのは、数多くの私を含めた凡人なのだ。

先日出した投稿写真ー、結果から言うと空振りだった。ドキドキしながらフリーペーパーを捲ると、見慣れたはずの自分の写真などどこにもなく、しかし採用されるのに十分なストーリーを感じさせる写真が数枚、投稿者の名前と共に掲載されていた。 一番大きくコーナー枠を占めていた写真は、おそらく親子だろう、父親と娘が飾り気のない部屋の中、パジャマ姿で寝転んでいる ものだった。本人達は意識していないのだろうが、全く同じ姿勢で眠っているその格好がちょっと珍しく、そしてそれが親子の証拠だと言わんばかりー、見る人々を和ませる、そんな写真だ。
もう一枚の写真は、すすきの写真。夕暮れとのその黄金のコントラストが息を飲む、技術的にも優れているのだろう写真。レンズも特殊な物を使っているらしく、普通のカメラでは表現出来ない奥行がその一枚から感じられた。
その他にも、動物や赤ちゃんの写真などがあり、それらを見ていると次第に自分が応募した写真がいかに詰まらないものなのか認めざるを得なかった。




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ー撮る人間が詰まらないから・・


またマイナス思考が自分を襲う。だからといって子の写真を応募することは出来ない。なんとなく公共の場に掲載されるのをためらってしまうー、そんな不健全な世の中なのだ。

最近手にしていなかったカメラを片手に、部屋の中のコーヒーカップを撮ってみた。次に、子のぬいぐるみを撮る。キッチンを撮り、ダイニングテーブルに置いてある菓子の籠に向けてシャッターを切る。

ふと、これをブログに載せてみようかーと思った。そう思いながらシャッターを切ると、妙に興奮している自分がいることに気が付く。リア充ブログに自分のファッションやインテリアを載せている人々も、もしかするとこんな高揚感に包まれながら、日々シャッターを押しているのかもしれない。

誰かに見せることー、そこにはある種の責任が生ずる。知らない誰かを傷付けているかもしれない、また不快な気持ちにさせていることだってあるだろう。しかし、人々は当り障りのなさなど求めてはいない。生身のー、リアルでドロドロした部分に共感を覚えたり、また興味を示したりするのかもと、もう一方で思う自分もいるのだ。




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鍵っ子のみこちゃん

最近子が仲良くしている友達、先日のシルバーウィークもランチを我が家で食べた子。名は、みこちゃんと言う。
みこちゃんは中学生の兄と二人兄弟。母親が何の仕事をしているのかは知らないが、とにかく土日や連休も急な仕事が入るらしい。
学童は何故か入れられてないとのことで、兄弟がいるからなのか?人の子ながら無用心だと思う。いつでも首に携帯を掛けており、「何かあればすぐママと連絡が取れるから大丈夫。」だとみこちゃんは言う。実際、我が家に遊びに来た時も、みこちゃんは母親と携帯で電話をしていた。今の時代、首から掛けるのは鍵ではなく携帯電話なのだ。

我が家でパスタのランチを出した時に、みこちゃんは大袈裟なくらい喜んだ。私は特段料理が上手なわけでもないし、センスもない。それでも、夫がレトルト嫌いなので、いちいち手作りで作るのだが、それがみこちゃんにとっては凄いことなのだと言う。「ママはいつもご飯を買ってくる。」ことが多いのだそうだ。
子供の言うことなので、どこまでが事実なのかは分からない。仕事で疲れてたまに買う惣菜であっても、それが「毎日」だと過剰に感じているのかもしれない。そうだとしたら、それはきっと寂しさの裏返しだ。


「OOはいいな。いつもママがおやつとか作って家で待っててくれるんでしょう?みこの家はだぁれもいないんだ。」


そう言いながら、ポシェットから封が既に開けられたスナック菓子の残りを私に向かって差し出した。


「おばさん。みこの家、これしかなくて・・どうぞ。」


袋の中は食べかけのスナックが3分の1も残っていなかった。しかし、友達の家にお邪魔するという子供心に精一杯の気遣いなのだろうと思うと、胸が熱くなった。


「ありがとう!でも今度からは何も持って来なくていいからね。」


母親からは、小さなメモに「お願いします。」の一言のみ。普通、昼ご飯をご馳走になるー、しかも面識のない家に対して子供が世話になると聞けば、未開封の菓子くらい持参させるだろうにー。そういう気遣いが出来ないのは仕事が忙しすぎて余裕がないからなのか、それともただの常識はずれな親なのか?
みこちゃんの母親がどんな人物なのかは、先日の参観日に知ることもなかった。そもそも子に聞くと、仕事で来られなかったとのこと。いくら仕事とはいえ、よその家が羨ましいーそう思わせてしまう境遇にいるみこちゃんのことを不憫に思った。



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シルバーウィークが終わってからも、みこちゃんは放課後になると度々我が家の玄関チャイムを鳴らし続けた。飛び飛びだが、何日か家に上げたら、今度は自宅に帰らずランドセルを背負ったまま子と下校して来た。


「どうせ誰もいないし。OOちゃん家で宿題して、遊んでから帰る。」


流石にそれは駄目だろうと諭した。一旦家に帰って、それからおいでと。渋々頷くと、15分も立たないうちにチャイムが鳴った。聞いていたみこちゃんの自宅はO×商店の近くなので、子供の足でも往復ならば30分は掛かるはずー。玄関を開けると、息を切らしてぜえぜえいっているみこちゃんが立っていた。


「走ったの?」


「うん・・たくさん遊びたくて・・」


実際、子と部屋で遊ぶ様子を見ていると、なかなか二人の相性も良いようだった。どちらかが強すぎることも弱すぎることもなく。意見が分かれれば、それぞれがマイペースに一人遊び。親の愛情不足で私にばかり話し掛けてくるかもと身構えたが、案外そうでもなかったことに物足りなさを感じたほどだった。
おやつにーと、ミニアメリカンドッグを作って出した。これには子以上に喜んでくれて、無我夢中で頬張る横顔が嬉しくも切なくもあった。
みこちゃんは、その後も足繁く我が家のチャイムを鳴らした。
晴れの日だけでなく雨の日もー。しかし、運悪く彼女が来たのが子の習い事とバッティングしていた為、ここ何日かは連続して玄関先で断るはめになった。断った時の悲しそうな表情が少し気になり可哀想に思う。しかし、それと矛盾してどこかほっとした気持ちもあったことは否めない。


ー依存されては困るー


子も楽しそうにしているし、小学2年生だと身の回りのこともあらかた出来る。私がすることといえば、おやつの用意とたまの話し相手くらいであって、普段人と接する機会が少ないふやけた脳には良い刺激になっているとさえ思う。それでも段々みこちゃんのちょっとしたことが気になり始めた。
まずは臭いー、何ともいえない臭いがするのだ。それは全くしない時もあるのだけれど、する時は顔をしかめてしまうほど。子が気が付かないのは鼻炎のせいもあるのだが、私は嗅覚がそれなりに鋭くあるので気になりだしたら止まらない。


ー風呂に入ってないのだろうかー


とてもじゃないが、直接聞くことは出来ない。そして、臭いがする日の服は、どこかよれているように感じる。髪の毛も自分で結っているからなのか1本結びはところどころ半端な長さの毛が出ていてボサボサだ。
そんな状態で、押入れに入り切らないで和室に畳んである布団の上にどっかり腰を掛けられた時は、つい嘘をついてしまった。

「ごめんね、その布団に乗るとパパが怒るんだ。」


その場にいない夫のせいにした。それに、その布団を実際使っているのは紛れもなく私だ。子供とさえ波風を立てたくはない私。

女の子なのだし、いくら仕事が忙しいといっても多少は小奇麗にさせるべきではないのか?上がった時の靴下は汚れているうえ、小さな穴が空いていた。しかし決して貧乏ではないはずー。その証拠にOX商店の近くにある、みこちゃんが住んでいるという大型マンションは我が家の賃料の1.5倍はするという。要するに、金がないのではないー目が行き届いてないのだろう。

本心は、子供の向こう側にいる母親の顔が見えないことー、それが面白くない。以前、Dちゃんと関わりがあった時にも感じたモヤモヤ感。我が家を託児所から学童に昇格する気がないのであれば、躊躇半端な同情は、かえって子供の心を傷付ける。




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赤ちゃんのお尻

赤ちゃんのどの部分が一番可愛いかと聞かれれば、迷わず「お尻」だと答えるだろう。あの、おむつでプリッとしたミツバチのようなお尻が愛らしくてたまらない。子がトイレトレーニングに成功し、おむつを外した時は言いようのない寂しさに襲われたのがついこの間のことのように思える。

日中、天気も良かったので、子に頼まれているたまごっちのタッチスポットへ行く為に、外に出ることにした。エントランスには素敵ママと赤ちゃん。もうつかまり立ちするようになったらしく、靴を履いて植え込みの小さな塀に手を突いて横歩きしているのが見えた。


「こんにちは!」


「あ、こんにちは!買い物?」


「うん、あとOOに頼まれてこれしに行くの。」


そう言いながら、たまごっちを見せる。しかし、彼女は女の子の玩具に馴染みがないようで、小さく愛想笑いをしただけだった。人と話すことに飢えている私は、習い事だけでは足りないらしく、彼女がフリーだったこともあり赤ちゃんにも話し掛けてみた。


「あらー、もうあんよ出来るの?すごいねぇ。上手、上手。」


一オクターブ高い声、正直自分の子供に対してなら自然に出せた赤ちゃん言葉も、他人の子供に対してだとぎこちない。しかし、大人に対して発する声と同様に赤ちゃんに話し掛けるのは、自分の声質からいっても無理がある。それ程、私の声は剣があり近寄りがたいものだと認識している。


「今、大変でしょう?目が離せなくて。」


彼女が食いつく話題は、やはり赤ちゃんのことだろうー少しでも会話を弾ませたい思いから、自分とは縁遠い話だが、あたかも興味があるかのように振ってみた。


「そうなのそうなのー。本当、昨日もRのレゴを口に入れてて、危なかったよ~。Rにはちゃんと仕舞いなさい!っていつも注意してるんだけどね、男の子って駄目だね。何度言い聞かせてもすぐ忘れるんだから。」


困ったように笑いながらも、幸せそうだ。一男二女ー、理想的な家族の形。
そんなてんやわんやな毎日を送りながらも、どこか余裕を感じるのが彼女だ。その日のファッションも素敵だった。こなれ感ーというやつだろうか。ラフな格好なのに垢抜けている。デニムシャツを黒地のストライプパンツにインしており、細く茶色いゴールドの留め具が付いたベルトをアクセントにした、何てことのないスタイルなのだが、一目で分かる質の良さなのだ。無造作に一つにまとめただけのヘアスタイルもお洒落で、黒縁メガネと良く似合っていた。赤ちゃんがいてどこにそんな時間があるのか?指先も控えめながらフレンチネイルが施されていた。
一方、私はチェックのネルシャツにジーパンと、まるで浪人生のような格好で、同じパンツスタイルでもこうも違うかという感じ。ヘアスタイルも、ただのおかっぱ頭ー、そろそろセルフカットをしなくては。


「お待たせー。」


感じの良い声が背後から聞こえた。振り返ると、お隣さんが赤ちゃんを抱っこしながらこちらに向かってやって来た。


ーああ、そういうことか。


彼女はお隣さん親子とエントランスで待ち合わせをしていたのだ。これからお散歩して、公園へ行ったりして、お昼にはどちらかの家でランチをするのかも・・これ以上居座るのはお隣さんに迷惑かなと思い、二人に挨拶をしてその場を去った。

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自転車で駅前までー、ショッピングモール内にあるおもちゃ屋には、昼前ということもあり、未就園児とその親達で賑わっている。サンプルの玩具で子供を遊ばせながら、母親同士が立ち話をしている。どこもかしこも目に付くのは複数連ればかりだった。たまごっちのタッチを済ませ、いくつか買い物をしたら何となく喉が乾いたので、バッグに常備している水筒のコーヒーを飲もうと、フードコートへ。
やはり、そこでも多くの親子連れで賑わっており、離乳食や赤ちゃん煎餅を食べさせながら、母親同士ぺちゃくちゃとお喋りを楽しんでいる。向かいの席の赤ちゃんが振り返り、私を見てにっこりと笑った。釣られて私も笑いそうになったが、周囲の目が気になりひきつり笑いになる。赤ちゃんは、そんな私の心を見透かしたようにじっとこちらを見つめる。母親達は話に夢中で、こちらのことなど目に入っていないようだった。
声には出さないが、「いないいないばあ」のポーズを赤ちゃんに向かってした。赤ちゃんは喜び、笑い、私の仕草を真似る。それが可愛くて癒された。しかし、その拍子に持っていた玩具を落として泣いてしまった。泣き声に気が付いた母親が赤ちゃんをあやすが、玩具を落としたことには気が付いていないらしい。
咄嗟にテーブルの下に潜り込み、それを拾った。無理な姿勢をした為に、バランスを崩して頭を打った。また、おもちゃは床にこぼれていたジュースでべったりと汚れており、私の手もベタベタと何かが付いてしまった。


「あの、すみませんがこれ落ちちゃったみたいですよ。」


ニットキャップをかぶった今風の若い母親に玩具を差し出すと、赤ちゃんはすぐに泣き止み、それに手を伸ばした。


「あ、どうもー」


母親はにっこりともせず、口先だけの礼を言った。赤ちゃんは愛想が良いのに、母親はそうでもないらしい。すぐにママ友の方に向き直り会話を始めた。

赤ちゃん、欲しいなー。そう思うと共に、次に授かったとしても一回りも年下の母親達とうまくやっていける自信もない。赤ちゃんは私と「いないいないばあ」をして遊んだことなど忘れたように、再び玩具で遊び始めた。その後ろ姿、お尻に癒されながら、まだ二人目を諦めきれない自分がいることを肌で感じるのだった。




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夫のお節介

子供会から運動会に出席するか否かの回覧板が回って来ていたことを知ったのは、つい最近のこと。玄関ポストに封筒が入っており、その中にはプログラムと勝手に割り振られたのだろうかー、私達が出なければならないと思われる種目にマーカーが。子に聞くと、


「OOが出たいって行ったら、パパが判子押してくれたんだ~」


と呑気な顔で笑う。私はその笑顔に応えることが出来ずにいた。仕事から帰宅した夫に、はやる気持ちを抑えながら冷静に問いただした。


「あぁ、あれ?OOが出たいって言うから判子しただけだよ。回覧版はOOが出しに行ったのかな。」


夫は表情を変えず、疲れているのだからとーそれ以上あれこれ話し掛けられることを拒絶するような表情でネクタイを緩める。


「なんで勝手に・・行けるかどうかなんて分からないのに・・あなた、出られるの!?」


「え!?なんで俺が子供会の行事に出ないとなんないの!?それはあなたの仕事でしょうが。何か用事があるなら電話一本でキャンセルすりゃあいいことだろう。そんな大袈裟なー」


夫と話していても拉致が明かないー。そして、キャンセルなど出来るわけがない。出る種目は決まり、既にエントリーされている。リレーなど走る種目に選ばれなかったことだけが救い。それに何より子が楽しみにしているのだ。




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来週の日曜ー、雨にでもならないかと切に願う。てるてる坊主を逆さに吊るしたい気分。雨で中止なら子も納得するだろう。子供会の母親達ー、AちゃんママやDちゃんママらの顔が浮かぶだけでげんなりする。頼みの綱の素敵ママも、今回は赤ちゃんがいるので欠席なのだろうか?メンバー表に名前がなかった。一人、黙々と大縄の中で飛び跳ねるー考えただけで憂鬱だ。どんな顔で飛べばいいのだろう?それに、運動神経が鈍い私はその大縄さえうまく飛べずに皆の足を引っ張る可能性も大だ。
それから、子供会としてのシートがあり、私はどの位置に座ればいいのだろう?子は子供同士で仲良く座るのだとして、私は一体誰と弁当を食べるのか?私が一人だからといって皆と食べたい子をわざわざ自分の側に座らせるのも間違っている気がする。
子は、Dちゃんらとうまくいっていなかったはずなのに、最近では1年生の子供達と仲良くなったようで、登下校も一緒にしているそうだ。その子達が運動会に出るというから出たい気持ちになったのだろう。なので、その子らと行動を共にするに違いない。取り残された私は、一体どこでどんな風に時間を潰せばよいのだろう・・
学校の運動会のように、子供が主役のものならば、常にカメラやビデオを持ってそこら辺をウロウロしていれば良いのだけれど、自治会と子供会が運営する地域の運動会では、手持ち無沙汰な時間がかなりあることが予想される。それが更に憂鬱さを助長させていた。

どうでもいい細かい心配事が、またもや私の体中にもやもやの煙を溜める。そして、そのストレスの矛先は勝手に出席を決めた夫へと向く。


ーなんでどうでもいいところで首を突っ込むんだろう?いつだって無関心な癖に、こんな時だけ・・


無神経なのか?それとも、もしかしたらわざと!?夫への疑心暗鬼の思いがふつふつと湧く。
イライラしながら洗い物をしていたら、夫の湯呑を割ってしまった。いや、無意識にわざとだったのかもしれない。割れた破片は鋭く、私の指を静かに刺した。




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無料マンガ

月曜日は、学校や会社に居場所を持つ人々が、新たな1週間を迎える日。生活にメリハリのない私にとって、罪悪感を最も感じる曜日ー
そんな憂鬱な月曜、天気が悪いとほっとする。今日のようなすっきりしない雲に覆われた空に、何となく自分のような出来損ないの人間も、その存在を許されているような、そんな気がする。

唯一、日々引きこもっている憂鬱さを忘れさせてくれるのは、最近はまっている「無料マンガ」だ。日中、適当に家事を終えると、ほぼ日課となっているブログを書き、それから馴染みのブログ周りをし終えると、無料お試し読み出来るマンガサイトで面白そうなものをピックアップし、読みふける。運が良いと、3巻まで無料ー勿論期限付きだがーという作品もあり、ホクホクしながらスクロールする。ジャンルは色々ー、しかし大抵がドラマ化されたものであり、そしてそれはハズレがない。「続きは本編で」と丁度盛り上がって来たところで終わってしまうものもあるが、ケチな私は今のところ、そのようなサイトに登録し、金を払うような真似をせずに済んでいる。あくまでも暇つぶし、そして無料にこだわっている。
しかし先日、とうとう続きが気になるマンガに出会ってしまった。そのまま購読手続きをしようかと迷い、しかし1冊370円程。そしておそらく1度読んだら二度と読まないだろうそれにその金額を掛ける気にはなれない。3日経ったら忘れるかと思いしばらくサイトに入らなかったが、しかし続きが気になって気になって仕方がなかった。




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そして思い付いたことー、近所のレンタルショップを覗いたのだった。DVDやCDがずらりと並ぶ奥に、私の見当通り、コミックが数多く並べられていた。そしてレンタルなので1冊数十円~、100円もしない。早速続きが気になっているマンガを探す。作者があいうえお順に並べられていることもあり、すぐに見つかった。嬉々として棚からマンガを取り出そうとして空振り。やはり人気マンガらしく殆どの巻が貸し出し中となっていた。
がっかりしたが、他に以前無料サンプルで読んでいて気になっていた作品はいくつもあり、その中からどれにしようかと選ぶ時間は充実していた。
結局、そのレンタルショップに1時間程滞在し、借りたのは5冊ー計350円で3日間借りられる。そしてなんと一気に当日読み切ってしまった。こんなことなら当日返却にしたらまだまだ安くなったのにと地団駄を踏む。
マンガに没頭している間、リアルに嫌な日常から解き放たれる。ママ友がいないことや、将来の漠然とした不安、そして夫や実母との不協和音ー、子の心配事諸々・・

マンガサイトで無料立ち読み。実際はくつろぎながらコーヒー片手に面白そうな作品を物色する。そして見事はまり、続きが気になるものだけを実店舗でレンタルする。
このスタイルは当分続くだろうし、秋の夜長ならぬ暇な日中、孤独でたまらなかった時間を忘れられる処方薬となるだろう。




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薄っぺらの感じ良さ

毎日毎日、家族以外としか喋らない日々に光明の光が差してきた。新たに始めたスイミングは、私にとっても子にとっても楽しみな時間。決められた場所で、決められた人と会いお喋りするー、親切な彼女らは、こんな私にも公平に優しく接してくれる。
Gさんは素敵ママ同様、テンポ良く喋る。少しおどけたところがあるが、見た目が美人な彼女はそのギャップがかえって魅力にうつる。Fさんは私と同じく地味なのだが、しかし要所要所でする発言はなかなか的を得ており、皆彼女が話し出すと静かに聞き入る。ほんわかした印象を持つ一方で、どこか意志の強さを感じさせる大人の女性だ。
私はというと、相変わらず気の利いたことも言えずにヘラヘラとしている。素敵ママと2人きりの時の会話でもそうなのだが、基本聞き役。そして沈黙が続くといたたまれずに他愛のない質問、勿論聞かれればこちらのことも話すけれど、実際私の私生活についてあれこれ聞きたがる人は殆どいない為、自分をさらけ出す機会もないのだけれど。

いつものように、先に見学ソファーに座っているFさんとGさんの元へ行く。素敵ママはいつも一番最後に私達の元に来る。下の子のおむつを替えたり、また顔の広い彼女は、こちらに来るまでに何人もの知り合いと出会い、立ち話を始めるからだ。
私の為に空いている席ー、これが嬉しい。挨拶をすると、二人共、にっこり笑いながら私の座るスペースを空ける為に詰めてくれる。
一番端っこに座り、それまで話し続けていたFさんとGさんは、私に向かってそれまで何を話していたのかを再度説明してくれる。こんなことは初めてだった。大概、途中で群れやグループに入ると、挨拶はしてくれてもそのまま話のペースは変わらずで、その盛り上がりについて行けず、かといってこちらに話を振られることもなく、ただただ何が何だか分からないまま薄ら笑いを浮かべているしかなかったというのにー

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彼女らの前では、素敵ママと話しているようにー、もう少し頑張って、引越し前のママ友と話すような気持ちで会話しよう。これはチャンスなのだ。自分を変える為のー幼稚園時代のトラウマを引きずるのはもう御免だ。
感じ良く、にこやかに、相手の話は大袈裟過ぎるくらいに相槌を。傍から見たら、痛々しい程のオーバーリアクションかもしれないが、自分がされたら嬉しいだろうーそんな反応を示したかった。低いテンションで相槌、だなんて余程黙っていても周りが寄ってくるだけの自信持ちか、ママ友いすぎてお腹一杯か、もしくは心の底から孤独を愛する一匹狼かだ。
Gさんが面白い冗談を言う度に、思い切り手を叩きながら笑う。会う度に、「この人は、実は楽しい人」なのだと思われたい。第一印象では、多少のぎこちなさが「詰まらない真面目な人」と印象付けてしまったように思うけれど、早い段階でそれを払拭したかった。
そして、敬語からため口を絡めて話すー、これもFさんとGさんだから出来る新たな試みだった。


「毎日宿題に1時間も掛けてるんですよ。それなのに最近は帰ったらすぐに外に遊びに行っちゃって。だから、夕飯時とお風呂の時間が押しちゃうの。朝学習に切り替えた方がいいのかなって。朝学習とかさせてます?」


私のキャラクターでは、少々痛々しい感じがあるものの、頑張って親しみを込めてくだけた話し方をしてみたのだ。既に、Gさんは私に対してため口、というのもそうしようと思ったきっかけだった。それに4人で話していて、素敵ママにだけため口で後の2人には敬語を使い分けるのも、なんだか煩わしく面倒臭かったのだ。

Gさんがトイレに立ち、Fさんと2人きりになった。少しの沈黙が続く。Fさんはにこにこと子供達が泳ぐ様子を見つめている。何か話さなければー、そう思うが何も頭に浮かばない。焦っている私に対して、Fさんはどっしりと落ち着いたものだった。沈黙が怖くない人種なのだろうか?その横顔からは何も読み取れない。


「お子さん、今どれくらい泳げるんですか?」


沈黙に耐え切れず、口火を切ったのは私の方。そしてまた敬語に戻ってしまった。しかし、そんな私の焦りなどお構いなしに、Fさんは自分のペースで口を開く。


「そうですね、一応100mは泳げます。」


「すごい!!どれくらい通って?」


なんとかため口で返せた。Fさんは私が心底驚き、そして賞賛の表情を浮かべたのに満更でもないようだった。その証拠に、とびきりの笑顔で応えてくれた。それからは、彼女は敬語のままだと言うのに私は無理してため口を絡ませながら、彼女との距離を詰めて行こうと必死でいた。
Gさんが戻り、素敵ママもこちらにようやく来てくれた。私もなんとか空気を求める魚のように、口をパクパクさせながらもくだけた雰囲気で会話に参加することが出来た。
その場が楽しかったかどうかは別にして、「楽しい自分」を演出出来たことに満足だった。最初は演技だったとしても、いずれ本当に心から楽しめるかもしれないー
無理に笑顔を作り過ぎて、口の周りに酷く深い溝が出来ていた。ほうれい線は幸せの証だと思いたいが、実際は薄っぺらい愛想笑いで出来たもの、一言で言えば疲労感ー、私の場合それに尽きるのだけれども。




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桜子さん

はじめまして。メッセージ嬉しかったです。
過去にあったご自身の辛い経験など、思い出させてしまいすみません・・優しいお言葉、ありがとうございます。日々精進して行く力を貰えた気がします。
一進一退の私ですが、これからも見守っていただけたら嬉しいです。


seline


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間違い探し

子が泣きながら帰宅した。
理由を問いただしても、首を横に振るだけ。学校で何があったのだろう?携帯を手に、何度か学校の電話番号をプッシュしかけるが、モンペだと思われたくないーそう思うと行動出来ない。
しかし、その日を境にして子の様子がどこかおかしい。朝、登校前に必ずといって良い程腹痛を訴える。これは何かあったに違いないー、そう思い、意を決して電話を掛けた。

女担任は、相変わらず愛想の良い声で受話器越しに対応する。私も、緊張しながらも下手に出過ぎないよう、背筋をしゃんとしながら話を切り出す。


「お忙しところ、すみません。実は、月曜日、娘が泣きながら帰宅したのですが・・学校で何かあったのでしょうか?」


少しの間を置いてー、


「あぁ、泣いてましたか。ちょっと叱ったんですよね。」


こちらの心配をよそに、少しの笑いを含んだ声。正直、カチンとしたが、ぐっとこらえて続く台詞を待つ。

聞くところによると、隣の席の子がはさみを無くしたと言い、クラス中で探したら子の机の中から出て来たと言う。そこで、子が間違えて隣の席の子のはさみをしまったのではないかーそう思い、問いただすと、子は知らないの一点張り。
最後はだんまりー、そしてしくしく泣き出したと言う。


「記憶にないと言えば、それで終わりなんですよね。でも、現にOOさんの机の中から出て来ているのですから、自分に否があるのかもしれないー、まずは自分を疑ってみる、そんな気持ちが必要なのではないかと思うんです。それなのに、絶対間違えたりなんかしないと言うものですから・・」


この話を聞き、担任こそ物事をひとつの方向からしか見れてないのではないか?そう思えた。勿論、子が間違えた可能性はゼロではないにしても、隣の子が間違えて入れたのかもしれないし、落としてしまったはさみを誰かが拾い、子の物だと思い込んで子の机の中に入れた可能性だって十分有り得る。


「そうでしたかー。一度言いだしたら聞かない頑固なところがあるもので・・すみません、ご迷惑お掛けして・・」


物分りの良い母親を演じる。本当なら、


「本当にうちの子が間違えたって確信があるんですか!?実際見たんですか?娘も嘘つき扱いされて可哀想過ぎます!!隣のお友達が間違えたかもしれないじゃないですか。その子にも聞いてみました?他の子供達にも一人一人確認しました?皆の前でそうやって娘が叱られたのでは、まるで娘が泥棒じゃないですか!?」


実際、こんな台詞を吐いたのなら、途端にモンペのブラックリストに名を連ねることになるだろう。そして、子は担任から「モンペの子供」というレッテルを貼られ、見放されるOR当り障りのない距離を置かれるに違いない。子の学校での立場を考えれば言いたいことなど言えるはずもなかった。まだあと5年は続く学校生活、せめて、担任から良い印象を持たれることー、それが、子を守る唯一の手段にその時は思えたのだ。
そして、こちらが下手に出たことで担任も「話しが通じる親」だと認識し、子へのアタリは弱くなるに違いないー、そう思うと、担任が理想とする保護者になるしか道はなかった。




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そして翌日ー、子から聞いたのだ。


「AちゃんがB君のハサミ拾って、OOの机の下にあったからOOのだと思ってOOの机に入れたんだって。」


やっぱりー
そして、もっと早く言ってよ!とAちゃんに対してイライラの感情が湧く。
担任に直ぐさま電話をし、真実を訴えたかった。しかし、Aちゃんも今更そのことを子に言うということは、子が濡れ衣に着せられたことに心を痛めていたのだろう。本当のことを言うきっかけを失い、一人ずっと葛藤していたのかもしれない。



「OO、先生に色々言われて辛かったね。でもママは信じてたよ。いつでもOOのこと信じてるよ。先生もね、人間だもん、間違えることだってあるんだ。OOだってやっぱり間違えることはあるよね。今回はOOの方が正しかったけど、この先色々なことをしていく中で失敗だとか間違えはあるかもしれない。悪いのは、それを隠そうと嘘を付いたりすぐに相手を疑ったりすること。まず最初に人を疑う前に自分を疑って、それでも解決しなかったらちゃんと話し合うことが大事。それに、Aちゃんのことを責めなかったOOは立派だったよ。」


子は、私の言葉を聞きながら涙を浮かべ、そして私の胸の中に飛び込んだ。優しく抱きしめてやりながらも、正直担任に怒りが湧いた。
そして、夫にこのことを伝えると、私以上に大爆発。


「はぁ!?なんだよ、その担任!!ロクに子供見てないんじゃないの?頭からOOのせいにして、濡れ衣着せて。あなた、明日にでも学校行ってクレームもんだな。OOが可哀想過ぎる!担任じゃなくて校長に苦情もんだよ!いや、ラチが明かなけりゃ、教育委員会だ!!こういう教師が多いからニュース沙汰になるんだよ。謝罪させろ!謝罪!!」


まるで彼らに向かって土下座でもさせるかの勢い、怒り心頭ぶりに、少々引きながらもどこかモヤモヤが晴れて行く自分がいたのも事実。実際、校長室まで出向いてクレームを付けるつもりなどないが、それでも夫の勢いに勇気付けられて、連絡帳に真実をやんわりと伝えることでどうにか私の気は治まった。


「いつもお世話になっています。先日の、はさみ紛失の件ですが、娘に確認したところ、Aちゃんが落としてあったはさみをOOの机に入れたとのことです。Aちゃんが娘に昨日の休み時間に告げたようです。Aちゃんは、娘の机の下にはさみが落ちていたので、親切心から入れておいてくれたのでしょう。しかし、先生が娘を叱っている手前、真実を言い出せなくなってしまったものと思われます。そして、娘も、そんなAちゃんをかばうように「先生には言わないで」と言っていました。余程、先生に怒られたことがショックだったのでしょう、これ以上この問題を引き伸ばしたくないように思えました。 私から娘には、人を信じることは、まず自分を疑うこと。絶対ということはないのだからと伝えておきました。娘は先生に信じて貰えなかったことが悲しかったようです。先生ももう少し生徒のことを信じてあげて下さい。ただそこにはさみがあったからーというだけで娘を疑うのは、違うと思います。娘は精神的にショックを受け、数日間、腹痛で学校に行くのをしぶっていました。どうか、信頼関係を築く為にも今後のフォローをお願いいたします。」


勇気を出した。これでモンペと思われてもいい。人間は誰もが失敗する。担任から一言でも謝罪の言葉を子に掛けて貰えれば、それで十分だ。鬼の首を取るつもりなんて毛頭ない。
これは、ある意味私から教師に投げた挑戦状だ。このままスルーするのか、親に対してだけ謝罪するのか、子の目線に立ち、きちんと子に向かって謝ってくれるのかー、彼女の力量がここで試される。
そして、私は担任に一縷の望みを掛けている。
きっと、子に自分の否を認めて謝ってくれるということをー大人だって間違えるということを、その見本をきちんと教育の現場で見せて欲しい、それが保護者である私の願いだ。

翌朝ー、しかし私はいつもの気弱な私に戻っていた。1頁に渡って書いた連絡票を再度取り出し、それを破り、新しく無難な言葉を選び直し書き換えたのだ。
教師に訴える、自分の主観は取り除き、Aちゃんが机に入れたという事実のみ記した。そして、


「お忙しいところご迷惑お掛けしました。」


という、思ってもいない一言でその文章を締めくくったのだ。情けない母ー、それが私なのだ。




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