生涯の宝物
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気分が良かった今日。晴れていたこともあり、なんとなく思い立って一人自転車で隣町の大きな公園まで。
以前、カメラにはまっていた時に通っていた所なのだが、クレームを受けてから足は遠のいていたのだ。流石にだいぶ経つこともあり、向こうも私も互いの顔すら覚えていないだろうと思ったのだ。
子の小腹が空いた時に食べるスティックパンが数本残っていたのでそれと、水筒に暖かいカフェオレを作って入れたものを持って自転車を走らせる。
珍しいことだが、何か月に1回くらい、こんな私でも気分が上昇する日があるのだ。稀なことだが、そういった日は大切に思うまま行動するようにしている。
寒くなければプールに行ったかもしれなかった。
小さなトートバッグの中には、読みかけの漫画。恥ずかしいのでブックカバーをして。家のこたつの中で読むのも至福の時だが、しかしたまには太陽の光を浴びたかった。
自分の中のネガティブを、今日は追い出したかった。
ベンチに座り、コーヒーに口をつけながら漫画を読みふける。すると、足元に小さなボールが転がって来た。続いて、小さな男の子がトコトコとこちらに歩いて来た。後ろには、若い母親だ。
「すみません・・」
恐縮した様子でこちらに向かって頭を下げるその姿勢に、何となく親近感を覚えた。また、彼女達は誰かと来ているわけではない、二人きりなのだと知ると、いつの間にこちらから話し掛けていたのだ。
「こんにちは。何歳?」
男の子に向かって話し掛けると、ピースのサイン。それが「2歳」だということに気付くのに、多少の時間が掛かった。子はもう9歳、2歳という年齢がどれくらいなのか忘れてしまう程、もう遠い過去だ。
「可愛いね。はい、どうぞ。」
そう言いながら、ボールをコロコロと男の子に向けて転がした。それで終わりだと思っていたのだが、男の子はまた私に向かってボールを転がして来た。
「こら、ダメよ。ママに頂戴。」
母親は、困ったように男の子に促すが、その声は彼に届いていないようだった。私は読んでいた漫画をトートバッグに仕舞い、ベンチから立ち上がると本格的に男の子に向かってボールを転がす。
男の子は笑いながら、転がるボールを追い掛ける。
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「すみません・・あの子、私以外の女の人が好きなんです。」
「人懐っこくていいですね。今、一番可愛い時ですね。」
そう言いながら、しかし、彼女の表情に疲れを感じたので、言葉を付けたした。
「でも、一番大変な時ですね。睡眠もあまり取れないですよね。自由な時間も無いし・・」
「そうなんです!本当に自由が無くって。あ、お子さんとかいらっしゃるんですか?」
「ええ、もう小学生ですけどね。」
「うわぁ。いいな!うちの子も早く小学生になって欲しい!」
それからは、私が子育ての先輩だと思ったのか、彼女は育児について様々な悩みを語り始めた。プレ幼稚園はどこが良いのか、魔の二歳をどう乗り越えたら良いのか、お友達とどう関わったら良いのか、おやつにチョコは何歳からかー
大まかなことから小さなことまで、ありとあらゆる質問を私に投げかけて来た。そして、私も彼女よりだいぶ年上だということと、またご近所ではないことから、気楽に分かる範囲でだが答えることが出来た。
「あ、もうこんな時間。」
公園の時計は、1時を回っていた。
彼女と話しながら、男の子の砂場遊びに付き合ったり、また一緒に落ち葉を拾ったり、なんだか懐かしくて楽しい時間を過ごすことが出来た。渦中にいた頃は、それが永遠に続くような気がしてじっくり楽しめなかった。
それが、こうして客観的立場に立つと、ものすごく貴重な時間の中にいたのだと気付く。
もう子との密な時間は戻っては来ないけれど、記憶は薄れてしまったけれど、それでもあの未就園時代の濃密な親子時間は、生涯の宝物だったのだと今なら思える。それに気付かされた出会いだった。
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- category: わたし
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- 2017/01/31