試行錯誤しつつ、なんとか委員長に提出した資料。しかし、あらゆる箇所が間違っていたのか、だいぶ修正されていたものが皆に配布された。
ダメ出しーする時間も無かったのだろう。
お手伝いするつもりが、足手まとい。
委員長からしたら、仕事を依頼する手間ー、チェックする手間ー、そして修正する手間と3つも手間があり、自分ですべてこなした方が良かったに違いない。
今日の集まり。さあ出ようと思った瞬間、猛烈な腹痛に襲われ、大幅に遅刻した。
スネ夫ママの、しらっとした視線を感じながら、空いている席に着席する。会は、私が作成したはずの資料に沿って進められていたのだった。
あれもこれも違うー内容がまったく頭に入って来ず、間違い探しばかりしてしまう。そして、何も言わずに修正した委員長の顔を見ることが出来ない。
すっかり、萎縮していた。
そして、また腹痛が襲って来た。一体、どうしたのだろう?食当たりだろうか?
冷や汗で、皆の声が遠くなる。我慢の限界ー、吐き気まで及ぼして来た。ここで、嘔吐する訳にいかない。
一生分の勇気を出して、手を挙げ、
「すみません、気分が悪いのでちょっと出てもいいですか?」
皆が一斉にぐるりとこちらを向く気がしたが、痛みで羞恥心などどこかへ消えた。
「あぁ、どうぞどうぞ。大丈夫?」
心配そうな表情で声を掛けてくれた委員長に、何故だか安堵する。
ー怒っては、ないのだ。
こんな時でさえ、人の顔色を窺う癖が抜けない自分は、病的だろうか。
トイレへ駆け込み、しばらくうずくまっていた。大丈夫かもーと立ち上がろうとすると、また痛み。座ってしばらくすれば痛みは引く。
そして、また強烈な痛みが私を襲う。まるで、陣痛。腹から、巨大な鐘がゴンゴン大きな音を立てているように、痛みは自分の存在を存分にアピールする。
20分以上経っただろうか?気を紛らわせようと、携帯画面を操作する。天気だとかニュースだとかを見て、痛みを逃す。
ドンドンドンドン!!!
突然、トイレのドアを叩く音に、飛び上がりそうな程驚く。
「OOさん!?大丈夫!?」
委員長の声だった。心配して、来てくれたのだ。
「平気?」
「-・・はい、なんとか・・!!!」
また、痛み。つい、唸り声が出てしまう。
「救急車とか、呼びます?」
ーまさか!学校のトイレから、救急車で母親が運ばれただなんて、子からしたら大迷惑な話だ。
「いえ・・うっ!!ご、ごめんなさい、しばらくすれば治まると思うので、気にせず打ち合わせしていて下さい。」
「あ、もう解散しました。本当に、大丈夫ですか!?」
痛みで意識が薄くなる。彼女の親切が、段々と有難迷惑になって行く。思う存分、苦しめないではないか。
ドンドンドン!!
また、ドアを叩く音。
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「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。お気にせずにお帰り下さい・・」
「でも、放って置けないですよ。大丈夫じゃなさそうだし。どうしようかな~。」
まるで健康で、痛みとは無縁そうな呑気な声にイラッとする。いや、実際は呑気な声ではなかっただろうに、そう聞こえてしまう。辛さを前に、人の親切を素直に受け取ることが出来なかった。
そして、またドアを叩く音。その音に、痛みが連動する気がして目の前がクラクラする。
「本当に、大丈夫ですってば!!」
半ば、切れ気味に叫んでしまった。しまったーと思ったが、痛みに勝てなかったのだ。まるで、子を分娩した時のような、どうにでもなれという程の痛み。
少しの沈黙の後、
「・・そうですか、すみません、心配だったもんで。じゃあ、お気を付けて・・」
ようやく、委員長は去って行った。
その後、最大級の痛みの山が来て、一人きりになったこともあり、思う存分苦しみながら用を足すことが出来た。正直、音も凄かったので、委員長が去ってくれて良かったと胸を撫で下ろす。汗で、着ていたシャツはぐっしょり。
フラフラになり、トイレを出て鏡の中の自分を見てぎょっとする。
マスカラも落ちて、目の周りに黒い縁取り。クマらしきものもがっつり出来ており、髪はボサボサ。
最悪なコンディションに、最悪な対応、そして最悪な容姿で表に出る。
会議がもう終了したことが、救いだった。こんな状態を皆の前にさらすことなど、出来るはずもない。
フラフラになりながら、昇降口へ行くと、最悪は続くものでスネ夫ママと数人の群れが立ち止まり雑談していた。
同じ委員会仲間なので、黙って通り過ぎるのもおかしい。ぎくしゃくした笑顔で挨拶だけする。
「お疲れ様でしたー。」
伊達メガネママが、こちらを興味深そうに見る。スネ夫ママが突然、
「大丈夫ですかぁ~?」
半笑いで初めて私に向かって声を掛けた。
今の今まで、私に話し掛けることなんて無かったのに。間違いなく、意地悪な笑顔。なんとか堪えて大人対応をする。
「ええ。なんとか治まりました。ご迷惑お掛けしてすみません。」
群れに向かって頭を下げるが、悔しい気持ちで一杯だった。
今、私が一番頭を下げたい人は、大嫌いなスネ夫ママではない、委員長ただ一人なのに。
帰宅し、落ち着いてから、謝罪のラインをした。今度会った時も、また謝ろうと思う。誠意ある対応をしなくては。本当に、悪いことをした。
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