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ドキリ!

突然の緊急地震速報。
丁度、夫も仕事の日で家には私一人きり。家事もだらだらソファーに寝そべり、完全に気が緩んでいたところだった。

ガラケーからもテレビからも、そして外からは区の警報も。
実際、揺れらしい揺れは感じなかったけれど、コロナの感染数が日々増加し、全国1000人越え。
テレビでは、日本地図の広範囲が赤色に染まっており、恐怖心で身が固まった。このコロナ禍に、大規模地震が起きたらと思うと、まさに日本沈没だ。
警報が鳴るということは、マグニチュード5以上の揺れが観測されたということ。決して誤報ではない。表に出ない分のエネルギーが蓄積されていそうで怖い。そう思ったのだけれど、結局は気象庁は誤報だと謝罪した。
珍しく家電が鳴り、まさか夫?と思うが、実母だった。最近、ちょくちょく電話が来る。これまでの空白期間を埋めるかのように。


「あぁ、あんたいたの?」


電話しておいて、この出だしの台詞。突っ込みどころ満載だ。


「まったく、嫌になっちゃうわよ。あの音、心臓に悪いわ。結局、全然揺れなかったじゃないのよ。いちいち鳴らさないで欲しいのよね、寝てたのに!もう私達年寄りはいつどうなったって構やしないわ。」


気象庁に対しての愚痴をわざわざ娘に電話で伝える母だが、実際のところビビったのだろう。
だが、それは前置き。暇つぶしに電話をしてきたのだ。父の愚痴から始まり、親戚の噂話ー誰それが離婚しそうだとか諸々。コロナで籠っているストレスをぶちまけるかのように、お喋りが止まらない。
一人で清々する!と強気な割りに、やはり人恋しいのだ。

電話を適当に切り上げ、防災グッズを見直すと、賞味期限切れのものがちらほら。カップ麺や菓子など。チョコレートは常温なので溶けかかっていた。ナプキンなども、備蓄分を回していたのでまた買わないとならない。
大事には至らなかったが、防災見直しのきっかけにはなる警報だった。




NGワード

子の部活は、思ったよりもハード。 今は、コロナ対策で朝練などはないけれど、平日に加えて土日も練習がある。学校の授業についていくのも大変で、委員会活動などもある日々に、最近では疲れ切った表情を多く見せる子。
毎日、夕方に帰宅。家に帰れば、中毒のようにスマホ。だが、それが息抜きになるならと、見て見ないふりで許容しているこの頃。
ラケット代も、ここまでするとは思わなかった。全て合わせて、3万弱。ラケットやガット、シューズや部活用シャツ、その他登録料などなど。
夫にその代金を請求すると、これまで娘に掛かる金については緩かった夫が、


「ピアノ、辞めさせるか?」


と言い出した。確かに、練習をまったくしなくなった上、講師からはコロナのこともありオンラインレッスン継続。
そうなると、ますますやる気が出ないようだ。
対面であれば、まだレッスン直前に焦ってでも練習していたのだけれど、動画送信からのアドバイスだったりラインでのやり取りだと、緊張感がまずない。
講師からのアドバイスも、何か所かのポイントを箇条書きという感じで、正直、対価に見合ったレッスン料とは言えない。
夫も在宅が多くなり、何度かオンラインレッスンを見たことで続けさせる意味を考えたのだろう。
部活や勉強との両立も、むしろピアノが息抜きになる程好きな子なら可能だろうけれど、今では義務ーそして、成果もあまり感じられないそれに掛ける金も時間も勿体ないと感じるようになって来たのは私も同様。


「ピアノ、辞めてもいいんだぞ。」


夫が、子にそう言うと、


「え?何で?」


子は、拒絶感を示した。夫のことを最近毛嫌いするようになった子は、とにかく夫の指示通りに動かない。


「パパは、辞めさせたいの?」


「だって、全然練習してないじゃないか。金が勿体ない!いつもスマホばっかり見て!普通はもっと勉強だって部活だってなんだって両立させて皆やるんだ。あいちゃんなんて、まだ5年生なのにマーチングも塾もピアノも全部頑張ってるんだぞ!」


子育てにおいて、NGワード連発の夫にげんなりする。よりによって、優秀な姪っ子との比較・・そして、子はやはり反発。太陽と北風なら、夫は北風。
落ち着いたらもう一度、今度は私の方から話を持ち掛けようと思う。




悪い芽

日課となっている子のスマホチェック。すればする程、気が滅入って来た。
中でも、私が知る子どもーDちゃん含む、近所でのライングループは、子ども会で一緒だった流れからかDちゃんの幼なじみ面子に子が入れてもらっているようだ。
子は、Dちゃんとも個別ラインをしており、その中でDちゃんの愚痴が止まらない。最初のほうこそ子は聞き役だったけれど、最近では彼女に同調している。
だが、グループラインになるとDちゃんは誰にでもいい顔なのだ。愚痴というか、既に悪口になっているEちゃんに対しても。


ーマジ、Eうざいんですけど。あの上から目線、幼稚園の頃からなんだよね。


ーそうなんだ。大変だね。


ーえ!ちょっとOOちゃん、他人事!


ーごめんごめん、分かるわぁ。


ーほんと、親の顔が見て見たい!っていうか昔から知ってるけどね。Eママもうざいってママが言ってたけど親子似るよね~


ーえ~?そうなの!?だって、休校中、一緒にいたじゃん!ママ同士も仲良しでしょう?


ーあぁ、大人も色々あるんじゃない?うちのママ、家では結構愚痴ってるよ。あの人はプライドが高いとか。うちらだってそうじゃん。面倒だけど、上辺の付き合いっていうか。そんな感じだよ。私、昔っからEのこと大嫌い!ほんと、Eってどんな育て方したらあぁなるんだろ。いつもいつも自己中だし、人の話聞かないし、言い訳多いし、自分見てアピールうざいし。


ー確かに、Eちゃんの「わたし出来ます」アピールうざいね。笑


まるで、大人同士のラインメッセージを読んでいるような感覚に襲われる。そして、分かってはいるけど、子どもにだって「裏の顔」はあるのだ。
それにしても、DちゃんママがEちゃんママのことを良く思っていないことに驚く。そして、それを娘の前で言うことも。このご時世、家の中でもいつだって丸裸にされるリスクはあるというのに。まさか、Dちゃんママも、仲良くしているママ友に対しての黒い感情が、子どもから関係のない私にまで拡散されているだなんて、思ってもいないだろう。
子どもにスマホを持たせたら、ある程度の管理は必要だ。プライバシーがどうのこうの言う親は、ただ子どものトラブルに正面から対峙する面倒から逃げている。
だから、私は子のスマホを憂鬱ながらにチェックする。妙な裏サイトに入り浸ったり、ラインいじめの加害者だったりその逆だったり、むやみやたらに写真を拡散していたりとー、取返しがつかなくなる前に、悪い芽は摘み取るのだ。




節約リバウンド

野菜が高い。
人参が、驚く程高い。2本で400円・・
例の激安スーパーでさえ、キャベツが300円。一緒に買い物に行った夫だが、昼に焼きそばを食べたいというのでキャベツを買おうとしたら止められた。
88円の焼きそば麺に、もやしと少しの豚小間肉で作る焼きそばは、見た目も悪ければ味もいまいち。
これまで、野菜をたっぷりと取りたい際に作っていた焼きそばなのに、ただ腹を満たすだけのメニューになってしまったことが悲しい。


「あー、母さんの飯、うまかったな。」


それはそうだ。予算なんて考えず、高級スーパーで買い揃えた食材。勿論、国産。夫もそれまでは国産に拘っていたけれど、このコロナ騒ぎと脱サラ?疑惑により、節約に目が覚めたのだが、育ちの舌はどうしたって変えられない。恋しくなるのだ、贅沢が。
自分が買って来た食材を思い出して欲しい。
珍しく、土用の丑の日だってスルーだ。これまでは、職場で自分だけ楽しんでいた夫だけれど、再び感染数が増加している最近では、周囲も外食に難色を示すのかもしれない。
また、夫も、勤務日であっても羽を伸ばして飲んでくるようなことは無くなった。ただその分、どうしたってストレスは溜まるようで、更に酒量が増えた。
今月は既に2万は使っている。その2万を食費に回したら、高いと思う野菜だって使えるのに・・


「なんか、最近のご飯、地味だね。」


とうとう、子からも指摘され、夫も私も気まずい表情でもくもくと箸を動かす。食卓には、八宝菜もどきー(実際、もやしとキャベツで二宝菜)と厚揚げのチーズ焼き、それにきのことベーコンの塩バターソテーにわかめと豆腐の味噌汁。


「ばあばのご飯、美味しかった。」


子にまでそう言われ、カチンと来る。義母だって、この食材しかなければどう料理するのか?いくら料理上手であっても、限界はある。
一体、いつまで続くのかと思えた夫の節約魂だが、義実家訪問でリバウンド。1万円札を差し出し、


「やっぱり、あなたが買い物行って。コロッケが食べたい。」


そうリクエストする夫に、少しだけほっとしつつも、げんなりする。じゃがいもだって、3~4個しか入っていないのに400円近く。それにひき肉や玉ねぎ、卵を使って衣を付けたらコストが掛かる。
300円のキャベツに玉ねぎに・・安いと思っていたひき肉は高かったので、自宅にある、安い時に勝っておいた豚小間を叩いて使った。それでも、その日の夕飯の材料に1500円は掛かっただろう。

総菜だったり冷凍のコロッケがどれだけコスト減なのか・・それが分からないから、コロッケ作ってだなんて言葉が出るのだ。
少し前の、ポテサラ論争を思い出す。結局、実際買い物をして料理をするまでの経験が無いから分からないのだ。

苛々しつつも、結局リクエストに応える。面倒臭いコロッケ。だが、久し振りにもやし以外の野菜を使って調理していることが嬉しく、たっぷりの千切りキャベツにコロッケだけの夕飯がとてつもなく豪華に思えた。
そして、揚げたてはやはり美味しい。


「うまいな。」


そして、いつ以来だろう?夫から自然に出た声に、心の中で小躍りした。




有料レジ袋、高いと思うか安いと思うか

夫と共に、ドラッグストアーへ。
感染数が増加傾向にあることで、私一人での買い物はなるべく避けている。
車なので、なるべく重たい物を選ぶ。調味料や米や洗剤、シャンプーやボディーソープ。
それだけで、買い物かごは2つ分、自転車では無理な量。
レジに並ぶ最中、エコバッグを忘れて来たことを思い出す。1枚は、普段から買い物バッグに入れているのだけれど、それでは到底足りないと思い、玄関に2枚程追加で置いておいたのに、そのまま忘れて来てしまった。
レジで会計。


「袋はどうされます?」


「えっと・・大きいの一枚下さい。」


5円の損だ。だが、仕方が無い。すると夫が、


「要りません!」


急に横から口を出して来て、店員も困惑した表情。


「それだけで足りるよ。」


夫のケチに磨きが掛かって来た最近。だが、ケチの使いどころを間違えている気がする。例えば、野菜や肉の値段をケチるが、コンビニでスイーツをつい買ってしまうような・・そんな矛盾。
買い物かごには、勿論、夫の嗜好品も盛りだくさん。つまみになりそうな高級スモークだとか、ワインも、ワンコインから売っているのにわざわざ小さなワンカップワインを何個も購入。
ワンカップでワンコイン上回るその値段・・夫いわく、わざわざグラスに注ぐのが面倒な時に丁度いいのだと言う。また、ちょっとだけ飲みたい時に残ってしまいがちのワイン。
酸化したワインを無理して飲む方が、余程無駄だという持論。
確かに、高いワインはコルクを開けたら最後、勿体無いからと一本飲み切り泥酔するか、余らせて酸化、こっそり私もいただく時があるけれど、後日夫はまずいまずいと言いながら飲んでいたのだ。


レジかご対応エコバッグなので、大きさもマチもあるにはあるけれど、調味料など入れたらすぐに一杯。
やはり、5円損しても袋を買おうと夫に言えば、


「入るって!ほらほら!!」


ぎゅうぎゅうに商品を押し込む。バッグがはち切れんばかりに。これを持つのは私だ。肩がその重さに耐えきれるだろうか・・
それでも持ちきれなかった分は、夫が両手に抱えた。米やお徳用の詰め替え洗剤、それにキッチンペーパーなどだ。


「いくぞ!」


よろめきながら、駐車場へ。
肩に紐が食い込んで痛い。我が家の車が見えたその瞬間、


ービリリッ


何かが破れる音がしたすぐ後に、ゴロゴロと転がる音。転がる調味料たち。最悪なことに、エコバッグが破れて中身が飛び出て落ちたのだ。しかも、駐車場のど真ん中で。 夫は振り向いて、


「あー、何やってんだよ。」


と言いつつも、両手が塞がっているのでどうすることも出来ず、そのまま自家用車へ向かう。私は慌てふためきながらも、落ちてしまった商品を掻き集める。
取り敢えず、道の脇に破れたエコバッグにまだ入っている商品を置いて、転がった物を拾い集める。


「大丈夫ですか・・?」


同情の籠った目で、落ちたナプキンを持って来てくれた同世代の女性。隣にはその夫らしき男性。よりによってナプキンとか・・穴があったら入りたいとはこういう時に使うのだろう。


「あ、はい。すみません、ありがとうございます。」


そそくさと受け取り、頭を下げた。後ろ髪を引かれるように女性はその場を去る。夫は、まだ来ない。仕方が無いので、持てる分だけ持って、一旦車へ行く。

夫は既に運転席に乗っており、エンジンを掛けていた。信じられない。私をチラリと見ると、さすがにバツが悪かったのか、


「おい、大丈夫かよ?」


と声を掛けて来たが、スマホ片手にそう言われても有難くもなんともない。3往復し、ようやく全ての荷物を車内に詰め込むことが出来た。車に乗り込むと、汗がびっしょり。Tシャツに染みが出来ていた。

5円を高いと思うか安いと思うか。この時ばかりは、例え袋代が100円だったとしても買えば良かったと後悔した。




コロナに対する温度差

この感染者の多さ。とうとう300人台の大台。
4連休は、都内でも自粛要請が出ているというのにー。義実家訪問をする我が家は、まるで空気の読めない非国民。
流石に、夫も今回は飲酒を諦め、車を出すことにしたのだけれど、そうなると愚痴は止まらない。


「あー、こういう時、あなたが免許持ってないの不便だわ。普通、ペーパーでも持ってるっしょ。コロナになったら車移動の有難み、半端ねぇ~」


義実家に到着すると、早速、義姉達からの嫌味。


「えー、車で来たの?飲めないじゃん!!OOさんも、免許くらい持ってたらカズが飲めたのに!アルコールフリー、あったかな。」


舌打ちしながら、三女が冷蔵庫に向かう。彼女らは、思ったことをすぐにポンポン口に出す。それが腹立だしいこともあるけれど、羨ましく思うこともある。
散々、来るようにとうるさかった長女はいない。ドタキャンだ。彼女の夫も仕事柄、今回の訪問はパスしたかったのだろう。

長女家族が欠席でも、次女家族がいれば密になる。4人と3人と3人で9人。リビングにそれだけ集まれば、十分「密」だ。
テーブルには、寿司やら揚げ物やら煮物やら焼き物やら。義母も最近は仕事を休んでいるらしく、久し振りのおもてなし料理に精を出す。
70過ぎても、センスがいいのだろう。洒落たテーブルクロスの上に並ぶ、素敵な皿や椀の中には、小料理屋のようなつまみが盛沢山。
夫も、


「やっぱり、うまいわ。これ、食いたかったんだよね。」


マザコンのような発言。私の料理からは、こんな表情は引き出せない。そして悔しいけれど、義母は料理が私よりもずっと上手だ。


「にしても、コロナいつになったら落ち着くんだろうね。」


次女が、シャンパングラスを揺らしながら切り出す。三女も、ビール片手に、


「そろそろ在宅、飽きて来た~」


と訴える。三女の職場は、銀行系システム会社。なので、リモートワークへの順応性は高く、これまで通りの仕事量を自宅でこなしているらしい。 前方に座る三女の口から、飛沫が飛ぶ。同じく、義兄も何がおかしいのかゲラゲラ笑う。料理の中に、どれだけの飛沫が飛ぶのか想像するだけ怖い。 家族であっても、こうして一つの食卓を囲み、飲食をするリスク。彼らには、危機感なんてない。


「でも、あんたはいいよね。家事は全部ママがやってくれるんだから。上げ膳据え膳で、仕事だけしてたらいいんだもん。うちなんて、あー!ストレスMAX!!」


「ほら、そんなこと言わないの。」


次女が、うざったそうに義兄に向かって叫ぶと、義母が窘める。私からすれば、あんただって何かあればすぐに義母に助けを呼んで、実家に避難。三女と同等。
ストレスストレスって、一体、何がストレスなのだろうか?
夫は、酒が飲めずなので、義父と義兄の中に入らず、女性陣の会話に参入して来る。


「俺も、在宅でストレスだよ。この人なんて呑気で羨ましいよ。在宅ついでに買い物とかさせられるし。」


ーえ?買い物は、あなたが自分ですると言い出したことでしょう?


夫の自分都合の脚色に、うんざりする。恐らく、職場でもこうなのだろう。物分かりの良い夫ー、家事育児に協力的な。


「え~、OOさん、いいな!のんびり出来て。私も、これからって時にコロナに邪魔されてさあ!」


「子ども達なら預かるわよ、あなたも、2階空けてあるんだから、勉強はそこでしたら?」


「うーん、なんか落ち着かないんだよね。カフェで出来たらいいんだけど。」


以前、小耳に挟んだ開業の件ー、それに向かっての話なのだろう。だが、実際のところ、コロナ打撃をモロに受けている飲食経営に足を踏み入れようとしている次女に、世間知らずな甘さを感じた。
ワインボトルが3本ほど空いたところで、卓上の料理も次々と平らげられていった。夫は酒が入らないせいもあるのか、いつもより早く帰りたがった。


「じゃあ、そろそろ行くか。」


「えー。もう帰るの?」


「もう少しすると、道も混むから。」


「だから、この辺に家買いなって前から言ってるじゃん!!」


三女の言葉に、ぞっとする。しかも、家購入?何の話?義実家のこの家は、やはり夫ではなく三女が継ぐのだろうか?


「そんな金、ねえよ。」


その返しにも、驚く。一瞬、義父が口を挟む。


「頭金くらいなら、あるだろう?」


「・・・行くぞ。」


義父の声がまるで耳に届かなかったかのように、そそくさと玄関に向かう夫の背中に、不安感が押し寄せる。
将来への不安が、また一段と色濃くなった。




苺と小鹿

洗濯ネットに、再び見慣れないマスク。引っ越し前のママ友のからではない、また吉田さんからのプレゼント。


「今度は、冷感素材の生地で作ったんだってよ。凄いよなあ!しかも、ほらこれ、OOにって。」


可愛らしい苺柄や小鹿柄のマスク。いやいやいや、こんなラブリーな柄、どこに付けてくっていうのだろう。
そして、私の分はないことにカチンと来る。実際、私の分もあったとして、それを進んで付けるかといったら否。引っ越し前のママ友のような関係性で貰うマスクとそうではないマスク。
同じ物であっても、感じ方が違う。


「これ、ちょっと学校には付けづらいんじゃない?OO、こういう柄、嫌いだったと思うけど。」


つい、チクリと告げてしまう。嫉妬ではない、彼女に対する嫌悪だ。


「え?頂き物にケチつけるなんて、あなた、性格悪いね。」


「・・・」


妻よりも職場の女性の肩を持つ夫。ネットに入ったマスクに触れることすら嫌で、指先で摘まんで干した。


「この苺、ダッサ!」


子の代わりに、そう呟いた。




  • category:

  • 2020/07/24

高額な授業料

4連休に入る前にー、雨も降っていなかったので久しぶりに駅前のショッピングモールへ。
引越し前のママ友へー手紙とともに何か送りたいと思い、雑貨屋へふらりと立ち寄った。
すると、気に入りのその店が閉店セール。人が群がっており、3密なんて言葉はどこへやら。
しかし、私も誘惑に勝てず、ワゴンを覗き込む。ワゴンに張り付いたポップには、100円!!や200円!!などと大きな文字。しかも、色々な種類のエコバッグが。
おばさん達が、取り合いをしている。だが、100円なだけあって、派手すぎる柄だったり小さく折りたためないものだったりと、やや難ありだ。
その他、ハンドタオルや折り畳み傘やポーチなども、ワゴンにわんさか敷き詰められており、コーナーによって300円だったり500円だったり。


ーえ。嘘、これも100円!?これは買いでしょう!


100円とポップがついているワゴン。ぐるりと回って裏手に行けば、某有名ブランドのタオルハンカチがずらり。恐らく、百貨店で購入すれば1000円前後はするだろう代物。
引越し前のママ友や、ちょっとした何かのお返し用や自分用に、5枚買い込んだ。これだけ買ってもワンコイン。実際の価格に直せば5000円。お買い得だし、いざとなったらメルカリで売るのも手だとほくそ笑む。
レジに並ぶと、私がいた場所にどっと人が流れ込み、商品を物色していた。10枚以上買っている女性もいた。


「3500円になります。」


耳を疑う。トレイには、既に500円玉が置かれており、店員は私を訝し気に見つめる。
私が戸惑っていると、


「あと、3000円ですけど。」


若いバイトの女の子が、もたつく私に苛ついた表情を飲み込んだような笑顔。私の後ろにはずらっと行列。


ーあの、これって1枚100円じゃないんですか?


と、喉元まで出るのを押し込み、代わりに財布を開けて札を取り出す。食費分の金だったのに、馬鹿をやってしまった。


「袋代は10円ですが、どうされます?」


「いいえ、要りません。」


無造作にそのままハンドタオルを渡された。袋代10円をケチったところで、意味が無い。
確認して、おかしかったらもう一度レジへ行こうーそう思い、先程のワゴンへ。


ー詐欺でしょ・・


大きく100円!!と描かれたポップには、よくよく見ると、小さく「~1000円」とあり、私はそれを見落としたのだ。
100円~1000円と同様の文字の大きさで描かれていれば、気付いただろう。それを、あんなに小さく・・これは、クレームをする人だっているのでは?と思う。
だが、気が弱いうえに見栄張りな私は、今更、レジで返品なんて出来なかった。というよりも、既にそのタイミングを逃してしまった。


「あ~ら、すみません!気付かなかったわ。だって、100円だと思ってた!どこに描いてあるの?あ~、あれね。小さくて分からなかったわ。年寄りだから目も悪くって!」


レジから、太ったおばさんの声。


「じゃあ、いらないわ。ごめんなさいね。」


店員は、苦笑い。だが、そんな様子をまるで気にすることなく颯爽と店を出てしまった。その後に並ぶ客らも、彼女等のやり取りで気付いたのか、ぞろぞろハンカチをワゴンに返しに行く。
私もーと思ったけれど、一旦会計をし終えたそれを返すのは、レジ係がうんざりするだろうと思うと足が動かない。
諦めて、渋々店を出た。

注意力散漫な私の、高い授業料だ。




温もりある交流

ポストから飛び出たレターBOX。宛先を見ると、私の名。誰からだろう?と弾む胸を押さえながら差出元を見れば、引っ越し前のママ友からだった。
久し振りのやり取り。

買い物帰りだったので、はやる気持ちを抑えて手洗いうがいの消毒を済ます。
喉が乾いてカラカラだったが、冷蔵庫を開けるより早く、封筒の開封が先だった。

OPP袋に入っていたのは、手作りのマスクだ。可愛いガーゼ生地のマスクが全部で5枚。リバティ柄やチェックやドットなどの女性向きのもの。
また、一回り小さめサイズの、だが、学校でも使えるように気を遣ってくれたのだろう、シンプルだがワンポイントあったり薄いボーダーやデニム生地風のマスクも3枚入っていた。
手紙も入っていた。


ーこんにちは!ラインでもしようかと思ったんだけど、マスクを送りたくて手紙にしました。元気かなぁ?やっと始まったと思った学校も夏休みだね。
OOちゃんは、部活何にしたの?我が家の1号は、まさかのバスケ部!身長、伸ばしたいんだって。世の中がこんなことになって・・・


手紙には、近況がつらつら綴られていた。コロナになり、ご主人が在宅になり欝々としていること。夫婦仲は相変わらずうまくいってないこと。ハンドメイドはコロナで引きこもり中に再開したこと。
マスク作りに追われて、夜も寝る時間無く働いているけれど、それなりの稼ぎを得られていること。英語の勉強も頑張っているらしく、相変わらず精力的な彼女が眩しい。
こんな私といまだ交流を持ってくれる彼女に応えたく、すぐに手持ちの便箋に礼状を書くことにした。

ラインでスタンプを押せば済むことなのかもしれないのだけれど、こんな時だからこそ、手間を掛ける。
大切な人の為に、心と体を動かすことは、気持ちがいい。 引越し前のママ友も、こんな気持ちでマスクを作ってくれたのだろうか。 手作りの温かみは、受け取り手の喜ぶ顔を想いながら作るから。有難く頂戴し、早速、丁寧に洗面台で手洗いする。 太陽を隠すグレーの雲を背に、色とりどりのマスクがはためく。




不躾な質問

一旦、気を許せば、それまでのことが無かったかのように振る舞う実母にうんざりしながらも相手をしてしまうのは、娘である宿命。
朝10時に電話。一旦、家事に区切りをつけて、淹れたての珈琲を手にソファーへ移動したところに着信音が鳴った。


「あんた、寝てたの?」


第一声がこれだ。自分の生活軸でしか考えられない母は、私が夫もいて子どももいる女だということを忘れてしまうらしい。
だが、頻繁に朝寝や昼寝をしている事実を見事言い当てられたバツの悪さもある。


「まさか、寝てる訳ないじゃない。今、洗濯が終わったところ。」


ー何か、用?


と出そうになる言葉をぐっと堪える。まるで、要件が無ければ電話をするなという心の声を母に察知されるからだ。


「そうそう、そろそろ新しいところに住もうかなと思ってね。」


ーは!?


何を突然言い出すのかと思ったら、とうとうボケてしまったのか?そんな金がどこにあるのか?それとも宝くじでも当たったのか?
よくよく聞くと、下の階の住人ととトラブルがあったらしい。弟がバイトで夜遅く帰宅するのだが、その際のドアの開け閉めについてクレームがあったとのことだ。また、シャワー音や足音でも再三注意を受けて来たらしい。
弟は、切れるとよく大きな物音を出す。それは、幼い頃からだ。騒音に近い泣き声だったり、怒りに任せて壁を叩いたり。これまでも苦情はあったが、穏便に済ませて来た。
だが、去年越して来た下の住人は、一際、生活音に敏感らしい。
この件については、これまで母から何度も話は出ていたことなのだけれど、なかなか重い腰を上げることが出来ず、父の入院だったりで話は進まず、だが、とうとうそうも言っていられなくなったらしい。


「あんたのとこって、年収いくら?」


突然の質問にたじろぐ。我が家をアテにしているのか?何と答えていいか分からず、ちょっとの間が空く。母が私の心を見透かしたように、


「別にあんたのとこから引越し資金を援助して貰おうだなんて思ってないわよ。で、いくら?」


話を反らそうとしても引かない母。夫の年収どころか給与も貯金も何もかも、私が無知だと知ったらどう思うだろう。そんなこと、言える訳もない。


「銀行さんなんだから、一本は貰ってるわよね。そうじゃなくっちゃこのご時世、呑気に専業やってられないでしょ」


「まぁ・・ね。」


曖昧に応えるーが、母は許してくれない。


「で?答えなさいよ、いくら!?」


ここ数年ぶりだろうか、ぐっと以前のように距離を詰めて来た母ー、そして、逃げられない私。以前の苦い記憶が蘇る。また、引きずり込まれてしまう。


「1000万いかないくらい・・かな。」


私だって、夫の年収については気になって来た。夫の勤めている銀行系ー(銀行というか、系列なのだ)の年収は、ネットで調査済だ。夫の勤続年数や役職も絡めて、平均年収は大体この辺り。
だが、好き勝手に金を遣って来た夫なので、貯金は思うよりも少ないだろう。それに加えて、最近の脱サラ疑惑。
母は、私の模範解答に満足げな声。やはり、アテにしているのではないだろうか?引越しに幾ら掛かるのだろう?私の虎の子で間に合うはずもない。期待感を露わにされるとげんなりする。
先延ばしにし、考えないようにしていた案件。そういったものが、年々色濃くなっていく。




覚醒

「ママ、働かないの?」


学校生活や部活で疲れているのは分かるけれど、ご飯が出来てもスマホを手にソファーでぐったり、風呂に入れと声を掛けてもスマホ。
スマホばかりで動きが鈍い子にしびれを切らし、つい小言。それに対して、子が私に返した言葉がこれだ。
夫が仕事で良かった。在宅で家にいる時にこんな話になったら、何て言われるか・・


「皆のママ、働いてるよ。ママって、一体一日何してんの?」


意地悪い笑みを浮かべる子。
確かに、子どもが中学生ともなれば殆どの母親は働いている。稀に、専業もいるけれど、それは余程の金持ちかお受験ママ、または持病持ちか介護など、何かしらの理由がある。
強いて言えば、私は持病持ちだ。だが、働けない理由にはならない。病気があっても働かなければ食っていけない人々は多い。ただの言い訳だ。ぬるま湯に浸かり続ける為の。
反抗期は、親がどんな言葉に不快感を示すか、言い返せないかが分かるのだ。だが、黙ってはいられない。


「いいわよ、じゃあ働きに出たらあなたは自分のことは自分でやりなさいよね。洗濯も食事も全部。」


「はぁ?」


この言い方。最近の子の流行りなのか?人を小馬鹿にしたような耳障りなイントネーション。
子は、それ以上言い返すのを諦めたのか、大人しく風呂場へ向かった。皿を洗いながら、だがモヤモヤしていた。あんなに張り切って購入したMOSの参考書も、最近開いていない。
気付けば、携帯漫画をだらだら横になり眺めている。腹にどっぷりついた肉。まるでトドのようだ。これではまずいーそう思い、子が就寝した後、遅く帰宅する夫を待つ傍らテキストを開く。
今やらなくていつやる?自分を奮い立たせた。




食費3万円の幻想

夫が買って来た食材で煮物を作った。
しかし、安いだけで小さすぎる人参やじゃがいもは切り辛く、皮や芽を取ったら食べられる分なんて限られている。袋の底にあったものはいくつか腐ってもいた。
料理の労力だけ掛かり、ゴミは増え、結局コスト減に繋がらない。

今月の食費は多く見積もって3万円になるだろうと阿呆なことを言う夫。激安スーパーでの買い物を経験し、違った方向に目覚めたようだ。
しかも、ネットで炎上もしている2万円で家計を回しているスーパー主婦の記事を目にした夫は、我が家は女の子一人っ子なのだから、やれるに決まっていると、鼻息荒く妙な対抗心を燃やした。
今週、私が買い物を任されたのは1日だけ。雨続きだったので、激安スーパーへ行くことが出来ず、近所の傘を差して行ける店で牛乳と卵を買った。
レシートを見た夫は、


「牛乳200円って、あの店なら100円ちょっとで買えるだろう、勿体無い!」


と、ケチケチ主婦のような発言。在宅で暇な時間が出来た分、冷蔵庫の中身チェックも頻繁にされる。


「このプリンいくら?え?あの店だったら3つ入って78円だぞ。」


うざい、心底うざい。
そして、そうした嗜好品を食べるのは、私ではなく夫と子なのだ。以前、その78円プリンを出したら、「まずい」といって一口食べて捨てたことを忘れたようだ。


「俺が買い物したら、2万以下におさまるかも。」


そう思うなら、やって欲しい。そして、そうするなら、食卓に並ぶ料理のバリエーションや見栄えや味などにも文句を言わないで欲しい。
2万で豪華に見えて量も満足にーなんて幻想だ。
実家から米や調味料の支援があったり、またご近所からのお裾分け、それか家族全員もやしのような体型の少食体質か・・ボリュームもあって品数も豊富、そしてバランスも取れていて果物も出す、そんな家庭で3万円台なんて幻想なのだ。
現に、夫が買い物して来る食品は、もやしと納豆や豆腐、それに外国産の肉。最近値段が高騰している野菜や果物、それに魚はご無沙汰だ。なので、食卓に上げられるメニューも限られる。
とんぺい焼きに麻婆豆腐、木綿豆腐でかさましした酢豚もどきやもやしのあんかけ、もやしチャンプルーにニラもやし餃子。もやしもやしもやしでノイローゼになりそうだ。

だが、メリットもある。夫も流石にメニューについての文句が減った。自分が予算内におさめて買って来た食材で作った料理なのだ。どう頑張ってもこれしか作れないーそれに気付き始めている。
いつまで続くか分からないけれど、私としては、「ストレスの移動」だ。そしてそのストレスは、ようやく夫も少しは共感してくれるものなのだという期待感もあるのだ。




ダレノマスク

ご丁寧に、洗濯ネットに包まれた見慣れないマスクを発見したのは昨日の朝のこと。既製品のような手作りのような・・一体、誰のマスクなのだろうと疑問を持ちつつ過ごした日中。
学校から帰宅した子に聞いても、知らないと首を振る。夫が帰宅し尋ねると、職場の人に貰ったのだと言う。
手作りマスクだ。それは、グレーだが、近くで見るとヘンリーボーン柄のリネン生地。立体的に作られており、手作りといっても売り物でも良さそうな出来栄え。


ー職場って、誰?


聞きたいのをぐっと堪える。夫婦であっても越えられない壁。すると、私の心を読んだかのように、子が夫に聞いた。


「誰から貰ったの?」


「あぁ、吉田さん。前にうちにも遊びに来てくれたことがあったろう。」


悪びれる様子も無く、答える。きっと、嘘ではないのだろう。だが、焦ることもなくこう堂々とされると、妻としては具合が悪い。それに、心なしか夫は嬉しそうだ。
それを証拠に、早速、今朝はそれを付けて職場へ行ったのだ。

普通、妻子ある男性に手作りマスクを渡すだろうか。最近、彼女の影はすっかり潜めていたのに、再び存在を誇示して来る。忘れないでよと言わんばかりに。
そして、それを洗濯する妻がどんな気持ちになるのか、彼女は分かっていない。-いや、分かっているのだ。分かってやっているのでタチが悪い。
彼女は、よそ様の家でマーキングをする非常識な女なのだ。
黒マスクを付けていた頃の夫は、どこかいきがっているいるというか、正直ダサかったしガラも悪く見えたのだけれど。吉田さんの手作りマスクを付けた夫は、センスの良いお父さんという感じ。
いや、奥さんのセンスが良いのねといった感じなのだ。
それが癪に障るポイントだ。
数年前、子のひな祭りに桃の花を貰った時のような苛立ちが芽生える。夫に対しての嫉妬というよりも、女としてマウンティングされているような苛立ち。
以前目にした婦人雑誌。そこで目にしたアンケートの項目を思い出す。 それは、「夫がホワイトデーに貰って来たらカチンと来るもの」だ。そして、その第一位に挙げられたのは、「肌に身に付けるもの」だった。




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  • 2020/07/18

規約違反

お隣さんからも空封筒の住民からも、ようやく金を回収出来た。
だが、会計担当者に嫌味を言われた。〆切を過ぎていたのは、うちの棟だけだったからだ。


「他の棟の担当さんは、3日前には回収済でしたよ。これからは、期限厳守でお願いしますね!」


「はい、遅くなりまして申し訳ありませんでした。」


深々と頭を下げる。まるで、上司に叱られている部下のようだ。すると突然、


ーワン!!


会計担当者の背後か、ら動物の鳴き声。玄関にまで出て来て、私に向かって吠える。シーズー犬だ。
歯を剝きだして、私に向かって飛びかかろうとしながらも、後ずさり。何度もそれを繰り返している。
私が唖然としていると、おばさんはバツが悪そうにその犬を抱き上げて、


「じゃあ、よろしくお願いしますよ!」


バタンと私の鼻先でドアを閉めた。


犬がいた。というか、ペットの飼育は禁止では?団地の規約では、犬や猫は禁止のはず。そもそも、団地住民が散歩をしているのも見たことはない。
期限厳守!とキツイ表情で私に吠えた彼女。いやいや、規約を破ってペットを飼っているあなたはどうなんですか?ー、そう言い返せたらどんなにスカっとするだろう。
実際、私ではないもっと強い立場の人が知れば、どう思うだろう。直接彼女にクレームだろうか。
自宅に戻り、苛々が募って来た。いつもそうだ。その場では、気の利いたことが言えないし勇気も無い。なのに、こうして時間が経って自分のホームに戻ってくれば、怒りの感情がわっと湧く。


ー悔しい、悔しい、悔しい!!


匿名で、訴えてやろうか。だが、このタイミングでは私が訴えたと彼女にバレてしまうだろう。彼女は、例の年輩女性の仲間だったような気がする。だから強いのだろうか?
顔が広かったり気が強いだけで、規約を破って良い訳もない。駄目なものは駄目なのだ。




勘違い

集金が、あと2件ー、空封筒の住人とお隣さんだ。お隣さんは、バルコニーから聞こえる声に在宅だとピンポンしても、一向に出て来ない。
空封筒の住人は、日中は働いているのだろうからと夜に伺うも、やはり出て来ない。なので、手紙をポストに入れた。
お隣さんにも手紙は入れたけれど、恐らく気付かないのだろう。何度もチャイムを押すのは憚れたので、朝、待ち伏せすることにした。
上の子の幼稚園送迎時間を狙うのだ。

まずは、朝のゴミ出し。相変わらず、暇なママ連中が子どもを送迎後もぺちゃぺちゃとエントランスの真ん中でお喋りに興じていた。
その中にお隣さんの姿を認めたが、5人程の群れの盛り上がりをぶった切って、金の回収など出来るはずもない。軽く会釈だけしてその場を通り過ぎ、後は自宅に戻り、お隣さんが帰宅するのを待つ。
玄関で、外から物音が聞こえたら、ドアを開けて偶然を装うつもりだ。だが、一向に戻って来る気配はない。
1時間経ち、流石に暇な私でも時間が勿体ないと思い始めた。この時間、掃除が出来る。子の学校の勉強の下調べだって。すると、幼い子の声。お隣さんの下の子だ。
意を決して、ドアを開ける。
突然開いたドアに、驚きの表情を見せたお隣さんだったが、すぐに平静を保ち、涼やかな微笑を湛えた視線で会釈してくれた。


「あの、おはようございます!えっと・・あの、子ども会の集金の件で、回収がまだなんですけど。」


「え?うち、入会してませんけど。」


「え!?」


しばし無言。きっぱりそう言われると、何も言い返せない。分かりましたとドアを閉める。入会していない?どういうことだろう・・
自治会名簿を探す。どこへ行ったっけ・・きちんと整理整頓出来ていないから、なかなか見付からない。あちこちの棚や引き出しをひっくり返す。ようやく見付かったそれにはちゃんとご主人の名前が記載されていた。
どういうことだ?そもそも、私を役員に推薦したのだから、自治会に入会しているということではないか!
そうして、はっと気付く、先程の自分の言葉。
ー子ども会ーそう言った気がする。子ども会なら、まだ上の子は年長なのだから入会しているはずもない。勘違いしたのだ。お隣さんではない私の方が。
慌てて再度チャイムを鳴らす。また、出て来ない。取り敢えず、今度は迎えのタイミングを待つ。何をやってるんだか。自分の空回りっぷりにどっと疲れた。




取り立て

早速、自治会の雑務。回覧板と募金回収。
締切日当日、集まったのは三分の二世帯。これは、各号棟で取り仕切る。
お隣さんの分も、まだ回収出来ていない。

日中、各戸を回る。取り立てのようで気が重い。2件分は回収出来た。どちらも老人宅で、すっかり忘れていたとのことで申し訳なさそうに財布から直接金を渡された。
コロナの時期なので、手渡しは微妙ーそう思い、事前にジップロックを用意していたので、直接そこに放り込んで貰った。

お隣さんは、明らかに室内にいるはずなのに、チャイムを鳴らしても出て来ない。チャイムが壊れているのだろうか?
自宅の窓を開ければ、バルコニーから下の子の泣き声が聞こえるのだ。

また、回収済の中に、空封筒も一件。これは、中身を入れ忘れたパターンだ。こちらも再回収。だが、気まずい。本人は、まさか中身が空っぽだとは思っていないだろう。
渡したと思い込んでいる人に、そうではないと伝えることー、その場で確認していない手前、なんだか萎縮してしまう。こちらが疑われるかもしれないという不安感もあるのだ。
電話が鳴る。


「お世話様です~募金の〆切、今日なんですけど・・どうされました?」


会計担当の役員からだ。電話越しでも苛ついているのがよく分かる。私が悪いわけでもないのに、平謝り。


「じゃあ、明日までにお願いしますね~」


ノルマのような雑務。果たして、明日までに間に合うか。まだまだ序の口の雑務なのに、早くも役員を引き受けたことを後悔している。




部活決定

子の部活が決定した。驚くことに、話にまったく出ていなかったテニス部だ。
文化系に流れそうになった子に、夫がカツを入れたのだ。


「文化系なんてやめとけ!そんなの帰宅部と変わらんぞ。ゆるい部活に入れば内申点だって悪くなる。」


子は、何か言いたげな表情を見せたが、鼻息荒く訴える父親に何を言っても無駄だと悟り、静かに頷いた。
文化系だって、吹奏楽などは大変そうだし、美術部だって、過去に多くのコンクールで金賞を取っている先輩らも多い。演劇部だって面白そう。文化系がNGだと言う偏見に、帰宅部だった私はもやもやする。夫だって、体育会系だったとえばる癖に、嫌になって途中で退部したのだと義母から聞いたことがある。体育会系であっても、最後までやり遂げられなければ、それこそ内申点が下がりそうなものだけれど。
夫の意見を取り入れたのかどうかは定かではないが、取り敢えず入るところが決定したのでほっとした。そして、よくよく話を聞いてみると、クラスの子に誘われたのだと言う。
聞いたこともない名前の子。新しい友達が出来たのだと知り、更に安堵した。
そして、その子は元々神奈川の小学校に通っており、中学入学のタイミングでこちらに越して来たのだという。恐らく、知り合いがいなかったのだろう。群れる女子らの中で、互いに同じ空気を感じて惹かれ合ったのかもしれない。


「M尾さん、小学校からテニス習ってるんだって。」


「へえ、それであなたはついていけそう?」


「んー、分からない。でもパパには体育会系にしろって言われたし。」


「そっか。でも、友達がいれば安心だね。全部で、女子は何人?」


「7人、かな。」


その数を聞いて、どんよりする。女子の奇数はえげつない。仲間外れだとかのトラブルが無ければいいけれど。


「はい、これ。」


子から渡された、部活動説明会のプリント。テニス部に入部したからには、道具も揃えなければならないし、どうやら保護者の雑務もあるらしく、中学になってもこういうことがまだまだ続くのだと気が重い。
だが、子が充実した学校生活を送ることが出来るのならば、母として頑張るしかない。




自治会

自治会の会合当日。
始まるまで落ち着かず、家の中を無意味に歩き回る。夫も、そんな私の様子をおかしく思ったのか声を掛ける。


「落ち着かないな、どうしたんだよ。」


ーあなたが代わりに出て下さい。


その一言が言えたら・・夫の前で真昼間から酒を飲めない代わりに、お守りとして持っている、だいぶ昔に処方された安定剤を飲んだ。
普段、余程のことがなければ飲まないようにしているのだけれど、何故か今回の緊張は自分でも発作に繋がるのではないかという不安があったのだ。
薬は眠気も及ぼす。だが、脳の敏感で神経の集まっている部分が徐々にぼんやりして来て、それまでピリピリしていたものがすーっと凪のように落ち着いて来るのだ。
時間になり、集会所に向かう。久しぶりの集会所。コロナ前に子ども会の打合せで使って以来だ。


「こんばんは・・」


室内に入り、軽く挨拶。席は三分の二程埋まっており、入り口付近に置かれたレジュメを手にして空いているところに腰を降ろした。
隣の人に挨拶したが、聞こえてないのか完全スルー。
そして、気付けば女性はがっつり固まっている。私と同世代ー恐らく子持ち主婦世代は、7~8人。楽し気に会話に花を咲かせており、その中央には名前は知らないけれど、エントランスでお隣さんや素敵ママらと一緒だったママがいた。
その隣の輪に、年配女性の固まりがあり、この団地を仕切っている例の年配女性が中心にいる。年配女性は、子持ち主婦らにも進んで話し掛け、場を盛り上げているようだった。
席を間違えたと気付くも、既に後の祭り。私の周囲は、男性やずっと年上、つまり老人の域に入る人々。
会長が入室し、ざわざわしていた場が静まる。少しの挨拶の後で、私を勧誘した副会長に促され、私の方に視線をうつす。


「今回、5号棟の委員さんが急な転勤が決まったとのことで、代わりにOOさんが引き受けてくれました。あ、じゃあ一言お願いします。あ、住んでる号室言ってもらうくらいでいいですよ。」


あんなに準備していた自己紹介も、名前と号室で終わり。なんだか力が抜けた。
そして、副会長が言っていた夏祭りの中止の後、秋に代わりのちょっとしたイベントをするという企画案。そんな話は聞いてないので面食らう。そして、薬の副作用もあり眠くなる。
頭がぼーっとしてしまい、会長の声が遠のく。レジュメがあるので、帰宅してから目を通すことにした。
会が終わり、そそくさと帰宅する男性に交じり、私も集会所を後にする。年配女性や子持ち主婦らは、既に密になり盛り上がっていた。彼女らは、顔合わせで既に仲良くなっているようだった。
お隣さんも、ママ友が役員の中にいるのなら引きうけてくれたら良かったのに、なぜ私を推薦したのだろう。考えても仕方のないことだけれど、心の中のしこりは残る。




乱れる

日曜の義実家訪問は延期になった。夫の仕事が入ったからだ。
感染者が日々増加している中、彼らに危機感はないのだろうか?集まって、酒を飲んで食べて喋るだなんて恐ろしい。
中止ではなく、延期。是が非でも決行したいのだろう。七面倒臭い集まり。
卒業式と入学式のデータもいまだ見付かっていない。そのことを思い出し、気も堕ちる。
延期になったことで、夫も含めてデータのことは一旦忘れて欲しいと願うけれど、そううまくいくわけがない。

そうして、MOSのテキストもまったく進んでいないことを思い出す。あれもこれもと気ばかり急いて、結局何も出来ないまま一日が終わる。
私は駄目な人間だと自己嫌悪に陥る。

データを探し回り、ぐちゃぐちゃになった部屋を目にしてげんなりする。ちょっと気を抜くとすぐに家の中は荒れる。
水回りも窓も床も引き出しも全部。
部屋の乱れは心の乱れ。まさにその通り。私の心の中は今、かなり乱れている。




第六感

明日は、自治会会合。こんな風に、気の重い予定については頻繁にカウントダウンしてしまう。
ポストに入っていた、会員名簿。知らない名前ばかりだけれど、何となく顔見知りの年配女性もいる。この団地で幅を利かせている人物で、素敵ママとはよくエントランスで雑談しているのを目にした。
今思えば、素敵ママはすごい。同世代問わず、すんなり人の懐に入るのがうまいのだ。
その女性と役員が一緒ということで、気持ちは更に落ち込む。きっと、彼女は私のようなタイプの人間を毛嫌いするだろうと思ったからだ。
以前、素敵ママと彼女が草むしりをしている際、私も近寄ってみたけれど、素敵ママは気さくにいつも通り話し掛けてくれたのに、その人はチラッとこちらを一瞥すると、まるで私がいることなど眼中にない風に会話の続きを素敵ママと始めたのだ。こんなに細かい出来事を思い出したのは、私の中で大きく引っ掛かっていたからだろう。普段、滅多に会わない人なのに、嫌な印象として記憶に残っているのだ。
私は、嫌われている。これは、私の勝手な第六感だ。そして、ネガティブな勘こそ大当たりしてしまう。

レジュメを見れば、ざっと2時間程度。だが、延長の可能性もある。夫と子には夕飯を用意し、私は簡単に済ませて行こう。
初めての場所に出向く時の緊張感は、半端ない。だが、二度目ましても同じく。回数を重ねていくうちに慣れて行くのが普通の人なのだろうけれど、私は、周囲が親密になっていく過程を焦りながらも指を加えて見ているだけ。
勝手に疎外感。
だが、生きている限り、こうした嫌な雑務もこなしていかなければならない。仕事ではない分、そこまで緊張しなくてもいいんだーそう言い聞かせる。




見切り品に魅せられて

夫が先月の家計簿をチェック。食費が掛かり過ぎると駄目出し。
私の買い方があたかも悪いような物言い。実際、夫在宅の日が多くなったことで無駄に金が掛かっているというのに。


「品数減ったんだから、もっと抑えられるだろう?」


試しにと、夫と足を運ぶこともなかった激安スーパーへ。いつもは自転車を走らせるが、車なのであっという間。それに、最近降り続く雨に足が遠のいていたのだ。
やはり、運転は出来るに越したことは無い。確かに、雨降りが続けば割高の近所にあるスーパーで買い物を済ませてしまうことも多々あるのだ。
これまでは、共にスーパーへ行けば、国産肉や刺身、菓子やビールなども値段を見ずにぽいぽい買い物かごに放り込んでいた夫だが、意識が変わったのだろうか?
夫は、店内を一周まずぐるりと回ると、今度は激安商品を大量に手にしてこちらに向かって来る。
30円の納豆を3パック、10円のそばを6袋、5円のもやしを6袋。そんなにもやしばかり買って、一体何を作れというのだ?
夫の中で、もやし=安いの公式は、既にあるのだろう。
更に、じゃがいもや人参、玉ねぎなども値段だけチェックしてかごに入れる。
明らかに、価格が安いのも頷ける商品。なぜならその殆どが「見切り品」だから。
もやしは既に、消費期限が本日までで、袋には水が溜まっている。
野菜も、どれもこれも小さくて、特にじゃがいもなどは芽が出ており、新じゃがでもないから皮を剝かないとならないのだけれど、それに芽を取ればどれだけ実が残るのだろうか。
私もこの激安スーパーで食品を買う時は、勿論、広告の品や見切り品に目は行くけれど。それでも、なるべく調理がしやすいものを選ぶ。数日分のメニューを何となく頭に入れながら、無駄にならないような食材を選ぶのだ。
だが、ドヤ顔夫の手前、かごに入れられた商品を元に戻すことなど出来ない。
レジへ行き、夫は私の隣にぴったりと張り付く。家の中でここまで至近距離にいることなどないのに。外で「密」になろうとする夫に苛ついた。そして、会計チェックの為にへばりついているのだと気付き、げんなりする。


「これだけ買っても、二千円いかなかったな。あなたより俺の方が買い物上手なんじゃない?」


エコバックに商品を詰めるのは私。夫は手をぶらぶらさせながら、私を手伝う訳でもなくいい買い物をしたと自己満足に浸っている。
もやし、そば、じゃがいもに人参、それに玉ねぎと納豆、肉はカナダ産の豚バラ1パックとブラジル産の鶏肉1パック。それから98円の卵や牛乳などの必需品も買った。あんなに国産に拘っていた夫が、外国産の肉を手にしたのは驚いた。
そして、やはりここまで節約に目覚めた夫に、転職の匂いを感じずにはいられないのだ。




ラインチェック

子のラインをチェックして、ずどんと落ち込んだ。
メンバーがいませんがいくつかと、何個かのグループでは、メンバーが子一人きりになっていた。
中身を除くと、最初は5~10人だったグループが、次々と退出。最後に取り残されているのは我が子。
どんな流れでそうなるのか?子は、グループ内で発言をあまりしていない。気が向けば、スタンプを返すくらい。私と同様、友達の前では自己主張出来ないのだろうか?
そうして、最初は仲良くなろうとしてくれた子達も、子の薄いリアクションで何を考えているのか分からない子ーとなり、次第に離れていくのか。
子は、どんな気持ちなのだろう。
クラスメイトなのか何なのか?部活についてあれこれ話しているグループもあり、子も頑張って会話に参加している感。


ーわたしは断然バスケかな~みんなもやろうよ!


ーいいねいいね!でも、バレーと迷ってるんだよね。


ーわたしは運動苦手だからなぁ、吹奏かな。


ーえ!マジ?わたしも吹奏にしようかと思ってた!フルート吹くのが夢なんだよぉ~


子を除くメンバーが、楽し気に会話しているのだ。なんで、子はこの会話に入らないのだろう?
つい、子になりきってトークしたい気持ちに駆られる。


ーねえ、一緒の部活にしようよ。わたしはバドミがいいんだけど。


子は、今のところバドミ第一候補っぽかった。文字を打ち終え、バッグスペースを押そうとした瞬間、突然玄関チャイムが鳴ったことに驚き、間違えて送信ボタンを押してしまった。
まずい、子に内緒でスマホを盗み見していたことがバレたら・・それ以上に、子になりきってラインしていたことがバレたらただでは済まない。
焦って、メッセージの削除ボタンを押した。どっと沸いた汗。子も友達も学校にいる時間帯だから、スマホは自宅に置いているだろうし見てないだろう。見られる前に削除出来て一安心。
親心で子のスマホを覗き見するのも、生きた心地がしないものだ。




イケナイこと

自治会の会合が、今週末にある。
すごく、憂鬱だ。
既に、顔合わせは済んでいるのだから、新参者は好奇の入り交じった視線を浴びるに違いない。
そして、名前だけでは済まされない自己紹介。学生の頃も、社会人になり妻となり母となっても、延々とその機会は与えられる。私にとって、人生の苦行の一つだ。


ーO号棟のOOです。今回、急遽転勤される方の代わりとしてお役を務めさせていただきます。役員経験は2度目ですが、まだまだ分からないことだらけですので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。


硬いだろうか?ユーモアのカケラもない、詰まらない挨拶。印象に残らない、自己紹介。
まだ、逆手にとって、名前だけの自己紹介の方がシンプルで人々の心に残るかもしれない。
つくづく自分の性格が分からない。目立ちたくない癖に、恰好付けようとする。「それなり」に見せようと、つい恰好付ける。ちゃんちゃらおかしい。
そもそも、夫が出てくれたらいいのに。会合の日は、夫在宅。夫が出られない日は私が出るーそうしてくれたらどんなにか助かるだろうか。
実際、ご主人が出てる家庭が多いのに。単身赴任だったり土日仕事確定の家は仕方が無いけれど、我が家は土日のどちらかは趣味のツーリングだ。コロナでどうせ今年は出られないのだから、家のことに少しは協力してくれたらいいのに。
と、内心思いつつ、夫にだって自分の思いを伝えることが出来ない。

そして、義実家へ行くのも憂鬱だ。この週末は、休みであって休みではない。憂さ晴らしに、スーパーで買ったロールケーキにそのままがぶりとかぶりつく。恵方巻以来の太巻きかぶりつきだ。フォークも使わずに行儀悪くむしゃむしゃと食らう。 こんな姿、我が子には絶対見せられない。夫にも誰にも。いけないことをしている感じで、それがストレス発散になるのだと最近知った。
食べている時、飲んでいる時だけは、嫌なことから解放される。




心と体の繋がり

「ん!!ん!あっ!!」


まただ。子のチック症状が再び出だした。分散登校が終わり、本格的に学校が始まり、重たい教科書に慣れない通学路。
休校を取り戻すかのようなハイペースの授業に加えて仮入部も始まったのだ。
あれこれといっぺんに環境が変わったことで、切り替えがうまく出来ない子には、相当な負荷が掛かっているのだろう。


「仮入部、どんな感じだ?もうどこに入るか決まった?」


夫の問いに、今度は目をぎゅっと瞑る。そして、


「まだ。どこもよく分かんない。ただ走ったり筋トレしたりで。」


既に、文化系なら、科学部と吹奏楽に演劇部。体育会系は、テニスとバドミントンを回ったらしい子。後は、体操と弓道を回る予定らしく、毎日が目まぐるしい。


「疲れた、お風呂入る。」


そう言い残し、風呂場へ向かう最中も、大きな声でチック音。


さすがに、夫も子の異変に気付いた。これまでは、チック症状に関しても他人ごとだったのに。


「あの唸ったりするやつ何?病院、行った方がいいんじゃないか?」


勿論、子がいない時に。私ばかりが一人で子の心配をしているのだろうと思っていたところ、夫にもその思いがあったことに安堵しつつ、だがそれはそれで異常事態なのだと落ち込む。
夫からしても、子の様子は「普通ではない」のだ。
だが、夫もよくやっている。トイレや風呂場で雄叫びを上げたりするのだ。自分の癖には気付かないのだろうか?親子揃ってそういうことをしていることに気付いていないことも問題だ。


「色々、女子はあるみたい。」


「まさか友達、いないのか!?」


夫が心底驚いた表情で聞き返す。こんなリアクションは、とてもじゃないが子に見せられない。友達がいるーそれが大前提なのだと親が思ってしまったら、子は自分のありのままをひた隠すしかないのだ。
以前、子が荒れていた時。私にもママ友がいないといった時に心を開いてくれたのだ。人間は、共感を求める。共感は、自分が味わっている苦汁の味を知る者にしか得られない。


「OOのことは私が何とかするから。女子にはよくあることだから大丈夫。あなたは見守っていてくれたらいいから。」


夫も、難しい年頃の我が子の局面にどう接したら良いのか、戸惑いもあるのだろう。私の言葉をすんなり受け取ってくれた。


「明日、面倒臭いな・・」


寝る前、子がぽつりと呟いた。「行きたくない」だとか「辛い」という弱音ではない。上から目線の斜に構える余裕を無理に作る。
それが痛々しく、子の本音が分かるだけに辛い。
中学生になっても、泣いたり弱音を吐いてもいいんだよーと声を掛ける代わりに、掛け布団を優しく掛けることぐらいしか出来なかった。




モーニングルーティーン

最近、モーニングルーティーンという動画を観てから家事をするのが日課となっている。
それも、素敵なお洒落主婦のルーティーンだ。
彼女らの朝は、まるでドラマのワンシーンのよう。まず、モデルルームのような家にインテリア。
家族がまだ寝ている時間、彼女らは静かにベッドから起き出す。カーテンを開け、太陽の光を取り込む。
そして、白湯を飲む。ゆっくり時間を掛けて、体内に清らかな水分を取り込み、新しい一日を迎える。
これまたお洒落で掃除の行き届いた洗面台で、身支度。ふわっふわのタオルをお湯で温めて、スチーム洗顔。

ようやく、家事スイッチが入り、キッチンへ向かう。
広く、無駄なものは一切置かれていないキッチン。朝ごはんの準備だ。平行し、弁当も作る。朝から土鍋で米を炊き、味噌汁はだしから取る。常備菜数品と甘い卵焼き。ウインナーにサラダ。
炊きあがった米でお握りを作る。そうして食卓に並べられたそれらは、まるでスタイルブックの一ページだ。
我が家との違いーそれは、そもそも家の作りもそうだけれど、料理を乗っけている皿が違う。恐らく、彼女等の食器棚に百均のものが存在するのだろうか? 品数は、同じようなもんだ。むしろ、我が屋の方が、焼き魚と納豆の分、品数は多い。
なのに、美味しそうじゃない。言い換えれば、貧相なのだ。センスの問題か?そもそも、作る人間がお洒落じゃない。

人気ルーティーンの中の主婦達の動きは、ゆったりだ。せかせかしていない。優しく子どもらを起こし、一緒に朝食をとる。朝の柔らかな光に包まれたダイニングで、穏やかに談笑しながら。
我が家では、絶対にかなわない暮らし。だが、なぜかそれを妄想することで億劫な家事が捗るのだ。

「見せる家事」は、憧れている人、馬鹿にしている人、真似したい人、真似出来ない人、もうひとつの暮らしを妄想する人らに需要がある。
私は、妄想する人だ。全然違うからこそ、浸ることが出来るのだ。全然違うからこそ、妬みもない。あるのは興味と少しの羨望、そして有り得ない世界への現実逃避なのだ。




再熱

都内の感染者数が、再び増加。
一時は、一桁台にまで下がったのに、この有様。
今月から、子は部活が本格的に始まるだろうし、その他、親が参加しなくてはならない保護者会だとか面談だとかの予定も盛りだくさん。


「また、休校になるのかな?」


子の声色が、どこか弾んでいる。学校生活に馴染めてないのだろう。あんまり根掘り葉掘り聞くと、すぐに殻に閉じこもってしまう。
ちょっとした情報から、子の心の状態が分かることもあるので、色々聞きたい気持ちをぐっと堪える。


ー部活は、決まりそう?

ー誰か、話せる子出来た?

ー休み時間は何してるの?

ー勉強は、ついていけてる?


今日は、目がかすむ日なので、眼鏡を掛けている私。この眼鏡で子の心の中が見れたらいいのに。
授業は、相変わらずのハイペース。持ち帰った宿題等は、私も一緒に見るようにしているが、ネットを駆使しつついっぱいいっぱい。
夫は、在宅で気が向いた時は見てくれることもあるが、ほぼ私に丸投げ。働いてないのだから、老化防止になるだろうと。
カレンダーに目をやると、来週は私も気の重い自治会の打ち合わせがある。お初なのは、私だけ。皆、既に最初の顔合わせには出席しているのだ。
緊急事態宣言が出れば、しばらく延期になるだろう。嫌なことを先延ばしにしたい癖は、私達親子揃っての性分なのか。
この土日でどうなるか?感染者数が200を越えたら?しかし、あの緊急事態宣言が発令される前の100人越えの時のような危機感は、国民全体的に薄れているような気がする。
私自身もそうだ。

そして、夜の街ー夫は保菌者ではないかという疑い。自粛明け、都内の夜の街で何度も飲んでいた。嫌な予感がする。抗体検査を受けられる病院も増えた。
夫にそれとなく伝えてみたが、金が勿体ないと聞く耳を持たない。1万円近くする検査代。職場が出してくれるのなら喜んで受けるというが、自費で受けるつもりは毛頭ないそうだ。
あの、コロナ菌に対しての病的な除菌癖も、いつの間にやらなくなった。私もだけれど夫はそれ以上に、コロナに関しての危機感が薄れている。




挑戦

MOSの問題集を買い、ようやくCD-ROMのインストール。夫が在宅で家にいたり、そうでなくても雑務でバタバタしてなかなか取り掛かることが出来なかったのだ。
夫が脱サラしてもしなくても、このままでいい訳がない。持病で立ち仕事NGの私が稼げる仕事は、限られているのだ。

まず、CD-ROMのインストール。これに時間が掛かった。説明通りに行うのだが、何度か失敗。ここで躓くとは・・
ようやく問題へ。
だが、ここでもまた??インストールされたはずの問題のありかが分からず、探し出すのに手間取った。
インストールしたソフト内のExcelを開くのか、自分のExcelを開くのかに混乱したりと思うように進まない。
ただの入力ならお手の物だけれど、それ以外の機能についての知識の無さを痛感する。
役員仕事で培ったスキルは、そもそもひな形があり、書き換える程度のもの。また、以前の短期パートでもPC操作に苦労したのだけれど、あれからもう何年も経っている。
あの時、相当しんどい思いをして得た知識だって、今となっては水の泡。あの頃働いていたのが夢のようだ。

テキストファイルのインポート?テキストファイルって?インポートって?CSV?タブ?なんだそれ?
ダイアログボックス?どこにあるの?

まず、用語が分からない。まるで、宇宙後。ずっと昔、情報処理系の職場に面接へ行ったことがあったが、英語が得意が聞かれた。
語学が出来る出来ないも、ITにおいて重要なのは、こういうことなのか。未知の言葉に躊躇なく接し、またすんなり柔軟していくこと。


結局、Excel用語が分かっていること前提で学習は進むので、いちいちネットでググって理解する必要がある。
この余計なステップを、一つの単元の中で何度も踏む必要があるので、すっかり疲れ果ててしまった。
はっと気が付くと、一時間過ぎている。なのに、ページは進んでいない。頭が疲れて甘い物を欲する。そうして板チョコをむさぼる。
はやくも挫けそうな気持ちを奮い立たせる。我が子も、慣れない環境で頑張っているのだ。母である私も、やはり挑戦しなくてはと思い直し、再びPCに向かう。




仮入部

子の様子がおかしい。仕切りにため息を付き、スマホを見ている。
仮入期間に入ってからだ。


ー誰と回ってるの?


そんなデリケートなことは聞けない。だが、デリカシーのない夫はずけずけと聞いた。子の、一瞬戸惑った表情を見逃さなかった。


「クラスの子と。」


「ふうん。で、どこ回ってるんだ?」


「色々。」


続かない会話。夫も、子が明らかに壁を作っていることに気付き、さり気無く話題を反らした。
後日、やはり気になり、子に根掘り葉掘り尋ねる。最初のほうこそ口を割らなかった子だけれど、あんまり私がしつこかったものだから、ぽろりと愚痴をこぼした。


「皆、グループになってて、入れない。DちゃんはEちゃん達と体操部やバレー部回ったみたいだし、クラスが違うとみんなそれぞれ新しく仲良くなった子と一緒なんだよね。」


「そうなんだ・・」


6年の終わりに仲良くなった友達とも、入学前は一緒の部活に入ろうね!なんて約束をしていたらしいが、実際、中学に上がりクラスが離れれば、そんな話など無かったかのように声は掛からないと言う。
だからといって、子からアクションを起こしている風でもなさそうだ。ただただ受け身。


「明日、めんどいな・・」


不安気な顔。次々とグループが出来、取り残され焦る気持ちを子も味わっているのだろうか?閉鎖的な教室の中、どんなに心細いだろうか。
どうにか助けてやりたいが、そもそも私が人間関係の構築に不得手なものだから、役に立つアドバイスすら浮かばない。


「そっか。でも、何か部活に入れば、同じように一人の子もいるかもしれないし・・たまたまクラスのみんなが仲良しに見えるだけで、実際はそうでもないかもよ。」


女子の付き合いは、流動的。まだ、学校生活は始まったばかり。チャンスはあるはず。どうにか親の私がポジティブにならなければ。だが、同時に逃げ道も用意する。


「嫌になれば辞めちゃえばいいんだよ。気楽に!」


「だって、辞めたら内申・・」


「内申よりも何よりも、健康!心も身体も健康が前提だから。その上での学校生活だし。」


子の表情が少しだけ和らぐ。深刻になり過ぎていたようだ。勿論、私が子と同じ立場なら同じように深刻だろうし、実際、大人になっても小さなことでくよくよ悩んだり気を揉んだりしているのだ。


ー先輩でも同級生でも、部活の中でもクラスメイトでも・・一人でいいから話せる友達が出来たら・・


思い立ち、七夕飾りを作る。子に内緒で、そんな願いを短冊に綴った。




データ紛失

義両親から、久しぶりに電話。今度の休みに遊びに来ないかの誘い。
夫が仕事かどうかまだ分からないので保留にしたけれど、だいぶご無沙汰しているので腰も重い。
会わずとも、お祝いを貰ったり、父の日や母の日のプレゼントを送ったり、夫はZOOMなどで会話をしているのでそれで十分ではないかと思う私は冷たい人間なのか。


「そうそう、OOの卒業式や入学式のビデオもその時持って来て。皆で観ましょう。」


入学式のお祝いは既に頂いており、礼状と写真は送ったのだけれど、それだけでは足りないらしい。
電話を切り、ビデオカメラに差し込んであるSDカードを外そうと手に取るが、カードが見当たらない。これまでの成長記録として保管しているSDカードが入っている箱の中を探すが、そこにもない。
あのカードには、卒業式のデータは勿論のこと、入学式のデータも入っている。
入学式の日、夫に観せた後にどこへやったのか?どうしても思い出せない。
心当たりを探し回るけれど、どこにもない。
夫帰宅後、夕食中に聞いてみた。


「入学式の日、OOのビデオ観たじゃない?SDカード知らない?」


「え?知らんけど。」


「そう・・」


「え、まさか無いの!?」


「いや、ちょっと見当たらなくて。」


「マジかよ!ちゃんと探した!?あれ、親にもまだ観せてないんだから、無くされたら困るんだけど!!」


慌てて謝り、家の中のどこかにあるはずだからと言い聞かせた。取り敢えず、夫のことは落ち着かせたが、私自身が落ち着かない。
何となく、観終えた後にSDカードを抜いて、その後、夫か子に何か言われて用事をした覚えがある。でもー、そこからの記憶がまったくない。
新聞や広告が置かれているテーブルに、ポンと置いた。そんな気がする。
そのまま、新聞の上に置かれていたら、データごと廃品回収行きだ。心臓がバクバクして来た。そして、一度そう思うと、もうそうでしかないとすら思える。
一生に一度の、しかも、コロナ中だった故の貴重な卒業式&入学式の記録・・写真はあるけれど、やはり動画は貴重だ。
子が、6年間学びを共にした学校と友達と恩師との集大成・・
だらしがないからこうなるのだ。昔から、整理整頓が苦手だった私。主婦になり母親になり、少しはましになったかと思ったけれど、こういう時に素が出てしまうのだ。




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