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雨の休日

雨の休日。
部活だと嘘を言っていた子だけれど、注意する前に子の方から、

「部活、無くなった。」

と言ってきたので、様子見することにした。夫も休みで、珍しく在宅仕事も勉強もせず、リビングでうだうだと過ごす。
久しぶりの、家族水入らずの時間。
こうして3人、のんびりと同じ時間を共有するのはあとどれくらいなのか?
仕事のことをいつ聞かれるかーとドギマギし、模範回答も用意していたのだけれど、それについては特に聞かれることもなく表面的には穏やかな時間が過ぎて行った。
子も夫も、再放送のテレビを流し見しながら、ソファーにもたれてスマホを眺める。私は、そんな風にリラックスしている彼らを横目に、自分のペースで家事を進める。
ふと、夫の表情が穏やかなのを見て、今がチャンスとばかりに義母の件について話を持ち掛けてみた。

「お義母さん、いつまで入院とか聞いてる?ちょっとお義父さんに電話でもしてみたら。今日は家にいるだろうし・・」

祝日なので、病院に行っていることもないだろうという思いからだったのだが、夫は途端に不機嫌になった。

「気になるなら、自分で掛ければいいだろう?何かあれば向こうから掛かって来るだろうよ。」

あんなにも、義実家に依存していた夫。相当こじれてしまった。母親が一命はとりとめたものの、入院しているというのに。
それとも、三女が電話に出て来るかもしれないことに恐れをなしているのか?義姉達には頭が上がらない夫。
もし義父に掛けて三女が電話口に出たら、どう振舞ったらよいのか分からないのかもしれない。
本当のところ、夫は気が小さく弱虫な末っ子なのだ。義姉にも言われた、「長男の嫁らしく」という言葉が、頭の中をぐるぐる回って離れない。



現実に引き戻される

子の部活保護者会の知らせが来た。
クラス懇談会で、なんとか今年はPTA役員から逃れられほっとしていた矢先の出来事だ。
詳細に、2年生の親の中から役員を決めるので出来るだけ出席して欲しいと記載されていた。
てっきり、現在の3年生が引退後、部長や副部長の親がそういった役を任されるとばかり思っていたので、動揺している。
一気に気が重くなる。
仕事もまだ決まっていない。
最近では、コロナ禍だからまだタイミングではないとか、持病の発作が出そうだとか、連休が明けたら考えようとか、なんだかんだの言い訳をし引き延ばしている。
一応、ネットの応募だけは一日一社を目標にしているのだが、返信が来なかったり不採用だと、内心ほっとしていたりもする。
働かない生活に、すっかり身も心も慣れ切ってしまったのだ。
ここ何日かは、針金さんと出会えたことで、生活に張りが出ていることに満足すらしている。
こんな話、働く親が聞いたら憤るだろうけれど。なので、今回の通知で目が覚めた。一気に、現実に引き戻される。
保護者会・・気が重い。

ばれる嘘

子の笑顔が少し増えた。どうやら、クラスに話せる女友達が出来たようだ。
それは、ラインチェックで明らかになった。あの男子とのやり取りで分かったことだった。
食欲は増えたし、ため息は減った。情緒も安定している。ずっと気掛かりだった問題が晴れて、母としてほっとしている。
だが、一つの悩みが減れば、また別の悩みが顔を出す。
あの男子の親にけん制されてからというもの、二人はどういう関係なのか気になって仕方がない。
ただの話し相手なのか、友情なのか、それとも恋人同士なのか。

毎週2回、2科目。塾に通い始めて、子との時間はぐっと減った。コロナ禍ということで、部活のない曜日に塾を入れており、それまで部活の無い日は、ゆっくり夕飯を取りながらそれなりに団欒を過ごしていたのだ。夫在宅の時は、口数は少ないけれど、それでも子と共に食卓を囲むことは、温かく優しい時間だった。

塾の時は、軽い夕飯を家を出る直前に取る。21時前後に帰宅をし、風呂に入り終え、小腹が空いていれば小さなおにぎりやカップラーメンなどの軽食を出す。
クラスが替わり、軽い鬱状態だった子。痩せてしまって心配したのは束の間、週2は夜食をがっつり食べることで、今では+増だと思われる。でも、中学生なのだ。多少ふっくらしている方が溌剌としていて可愛らしい。

「GW、部活だから。」


鵜呑みにしたが、子の机の上に置いてある部活用カレンダーには、GWは休みとなっている。緊急事態宣言が出ているのに部活がある訳もない。こういう分かりやすい嘘を付くところは、まだまだ子どもなのだ。








無敵アイテム

週明け、爽やかな空の元、例の公園へ。

一番乗りの私。仕事探しは相変わらず停滞気味だが、こんなにも晴れた天気の中、ただ一人ぽつんと薄暗い家の中で過ごすのは勿体ない気がする。なので、仔猫や針金さんと会うべく、こうして公園へ向かうルーティーンは、精神面でも健康でいられる分、有難かった。
針金さんが合流し、少しすると仔猫も登場。ほぼ日課になりつつある仔猫の世話。仔猫も腹時計なのか、私達が来る時間帯が分かっているようだ。

仔猫は現金なもので、水と餌を食べ終えると、さっさとどこかへ消えてしまった。

「さて。」

針金さんが立ち上がり、帰る準備をする。しかし、何となく気まずい。お互い、家が隣同士なので、自宅まで一緒なのだ。
てくてくと、敷地内を歩く。

「今日は、これからどこかへ?」

針金さんに聞かれ、特に用事がある訳でもないのに、咄嗟に嘘をつく。

「あ、これから買い物に行きます。」


財布も持っていないのに、馬鹿な嘘をついたせいで、駐輪場の方へ向かう。すると、針金さんも、


「私、もう少し散歩しようかな。」


そう言いながら、私に付いて来た。自転車の鍵も無いので、困ったことになったぞーそう思っている矢先、

「こんにちは。」


駐輪場の自転車を引っ張り出そうとしている酒井さんと目が合う。酒井さんは、引っ越すと言って、今度の役員を逃れておいてまだここにいる。


「こんにちは。」

挨拶されたので、返す。酒井さんは、おやというような表情で私の隣に佇んでいる針金さんをちらっと見る。針金さんは、物怖じせずに愛想の良い感じで会釈をする。その雰囲気が、とても素敵で軽やかだった。


酒井さんと会話は無いものの、私の見る目が少しは変わったような空気を感じ、なんだか誇らしかった。彼女からも、恐らく、友達いない認定されていた私だけれど、そうした偏見から逃れられたような、それ以上になったような、兎にも角にも自分の世界がぱーっと広がったような清々しい感覚。
あれは確か、十何年前に、引っ越し前のママ友と友達になれたあの瞬間に味わったような気持ちだ。


「じゃあ。」


酒井さんと私を残して、針金さんはスタスタと駐輪場を離れた。すると、待ってましたと言わんばかりに酒井さんが、


「あの人、ここの人?」

「ええ。お隣に越してこられたんです。今年度の自治会役員も、越して来て間もないのに快く引き受けて下さって。とっても良い方なんですよ。」


ーあんたと違ってね。

心の中で呟く。少しだけバツの悪そうな表情をした後、そそくさと酒井さんは、

「じゃあ、また~」

逃げるように自転車を漕ぎ、駐輪場を去って行った。
なんだか強気な私。まるで、魔法のアイテムを手に入れたような、ゲームの世界の勇者のようだ。
今の私に、怖いものは何もないーそんな錯覚さえおぼえた。


隣のよしみ

日曜日。
休みだというのに、自宅チャイムが鳴る。夫の宅配だろうと思い玄関を出ると、針金さん。

「これね、実家からたくさん送られて来たの。良かったら皆さんで。」

そう言って差し出されたそれは、美味しそうな讃岐うどん。針金さんは、愛媛出身なのだ。

「息子に送ろうと思ったんだけど、要らないって言われちゃって。実家の母が色々送ってくれるんだけどね、今は夫婦二人暮らしだからなかなか食べきれなくて。貰ってくれたら助かるわ。」

「こんなにたくさん!ありがとうございます。」


我が家は3人家族だが、それでも一人当たり何食分もある。うどんをいただいたことも嬉しいが、それ以上に、隣のよしみ的な、彼女からの好意が伝わってきて嬉しくなる。


「あ、こんにちは。お休みのところ、すみません。」

いつの間に背後に立っていた夫に気付いた針金さんが、会釈する。

「あぁ、どうも。」

だらしないスウェット姿で、しかも不愛想な挨拶。自分に得になりそうな人間に対しては媚びへつらう夫は、どうでもいいと判断した人間には冷たい。

「こんなにたくさん、いただいたの。」

うどんが大量に入っている紙袋を夫に見せる。そうすれば、少しは愛想も良くなるのでは?と思ったのだが、やはり夫は夫だということを思い知る。


「はぁ、どうも。」


まるで、中高生男子のような受け答えに苛々した。私のメンツも丸潰れだ。

「じゃあ、また。」


そんな夫の失礼を気にする様子もなく、針金さんは真向いのドアへと吸い込まれて行った。


リビングに戻ると、夫はスマホをしながらソファーにくつろぎ、

「そばだったら良かったのにな。俺、うどんよりそば派だから。」


人の好意を無にする夫に、うんざりした。





客ではない

義父の声が暗かったので、身構えた。義母の身に何かあったのか?と。
だが、適切な処理により大ごとにはならなかったらしい。ほっと胸を撫でおろす。そして義父は、弱々しい声で私に訴えた。
とにかく、コロナが落ち着いたらこちらに来るように夫に伝えて欲しいと。兄弟、仲違いのままだと、いずれ義父や義母の身に何かあった時にどうしようもないのだと。
長男である夫に、こういう時は力になって欲しいのだと。そして、それを叶えるのには、嫁である私の力が必要なのだと。
電話の終わり際、在宅だった三女も代わり、

「長男らしく行動しろって伝えておいて!それと、OOさんは、長男の嫁って立場、分かってるよね?」



受話器を置いた後、今までにないプレッシャーに圧し潰されそうになった。
夫に言われたことを伝えると、鼻をふふんと鳴らしながら、面倒臭そうに呟いた。

「そうなった時は、そうなった時だろう。俺は、長男だからな。権利は主張するけど。」

恐ろしい言葉に、これを義両親や義姉らが聞いたらどう思うだろうと頭がくらくらした。そして、夫がこうなったのは、嫁である私のせいだという空気が、義家族中に充満している。直接的ではなくても、それが伝わる。
嫁なのだと思い知る。今までが、お客様過ぎたのだ。







板挟み

義母が倒れ、夫は密かに義兄らと連絡を取っていたようだ。
やはり、兄弟。互いに折れるということを知らない。なので、血縁もない私や義兄らが振り回される実態。

「母さん、軽い脳梗塞だったらしい。一週間も入院すれば良くなるって。」

「お見舞いとか行かなくて大丈夫?」

「コロナだし行く必要ないでしょ。あの人達が身の回りの世話はするだろうし。」

ーあの人達・・

そう聞いて、義姉らのことを言っているのだと思い、げんなりする。まるで、子ども同士の喧嘩だ。今回の件で、修復のきっかけが出来たと思ったのに、まだまだしこりは消えていない。

義姉が苛ついていたことは伝えていない。恐らく、頭の切れる義兄も、妻と義弟とのいざこざに巻き込まれたくなく、当たり障りのないことを伝えているに違いない。

「お義姉さんと、話した?」

夫はそれに答えず、不機嫌に風呂場へ行ってしまった。
本当に、子どもだ。だが、義姉も姉なら姉らしく、弟の我儘をのんで、何事もなかったかのように冷静に今度の件について電話をすればいいのに。
似たもの兄弟の板挟みになる私や義兄を慮る気持ちが無いことに、うんざりする。

仕方なく、義父に電話を掛けた。正直、電話は苦手だ。実母に電話を掛けるのでさえ躊躇うのに、その何十倍も気が重い。
3コールで義父が出た。その声は、深く海の底のように沈んでいた。





義実家案件

コロナだから仕事が無い。
なるべくなら、派遣よりもパートがいい。期間限定で働くのは、メンタルが弱い自分には無理。
新しい環境に飛び込むエネルギーやバイタリティは、無い。そういったストレスは、なるべくなら少ない方がいい。


今日は、針金さんに会えなかった。いい求人も無かった。夫は出勤なので、自宅でダラダラしていたら、義姉から電話が掛かって来た。

「お義母さん、入院したから。薄情息子にも伝えといて!」

現在、夫と一番険悪な長女からの電話。コロナ禍ということもあり、どんどん義実家と疎遠になっている夫。つまり、私達家族。
だが、長男という立場なので、形だけの疎遠で、結局何か問題があればこうして家族問題に巻き込まれることになるのだ。

夫にショートメールをするが、返信は無い。今は、次の仕事に向けての資格勉強と、だがまだ辞意を伝えていない職場の繁忙期で忙しい。
二足ーいや、三足のわらじ状態だ。だからこそ、のんびり求職活動している風に見える私に腹が立つのだろう。
きっと、このまま私の仕事が決まらなければ、義母のこと含め、義実家案件は私に丸投げになるのだと思うと、やはり早急に採用されなければならない。

メロディ

洗濯ものを干していると、お隣からピアノの音が聴こえた。
針金さんだろうか?ピアノを弾けるのだろうか?素敵な音色。一体、何の曲だろう?聴いたことはあるけれど分からない。確かに、有名な曲。
流れるメロディに乗せて、夫のパンツを干すのが勿体無いと思えるくらいに心地良いひととき。
彼女ともっと近付きたい。仔猫を介してではなく、隣人として、友人として。
随分と触っていなかったピアノに触れる。鍵盤に指を乗せる。
人生の趣味になるかもーと、一時、子がピアノを習い始めた時に練習した曲を弾く。喜びの歌だ。勿論、レベルが低過ぎるので、ボリュームは落とす。
しかし、出だしのちょっとで躓く。すっかり弾けなくなっている。慌てて楽譜を取り出し、譜読みをしようとするが、頭に入らない。ゆっくりゆっくりー、だが、素っ頓狂な音が出たりで指がもつれる。次第に苛々が募り、鍵盤の蓋を閉じた。

そんな私の情緒を鎮めるように、針金さんの軽やかなピアノ演奏は続く。
優しく、穏やかな春の陽だまり。薄暗いリビングにいても、それは、私の心を慰めてくれた。


お姉さん

今日も、公園へ。
昨日と同じ時間帯。日中はまるで夏日のように暑く、紫外線が怖いので日傘を持って行く。
到着すると、既に先客。針金さんだ。日傘をさし、リネンのワンピースを着てる彼女は、まるで初夏の女神のように全身から優しい光を放っていた。

「こんにちは。」

「あぁ、お疲れさま。」

針金さんの隣にしゃがみ込む。仔猫が気持ちよさそうにうたた寝しているところだ。そして、彼女は手にブラシを持っていた。


「ノミ取り、してあげようかなって。ちょっとしてたら寝ちゃった。」


「気持ち良かったのかも。」


「座りましょうか。」

「はい。」


二人、並んで古いベンチに腰掛ける。日差しは強く、気温はどんどん上昇している。
遠くから、学校のチャイムの音が聞こえた。のどかな時間ー、ゆっくりと、時が流れている。

「もう、ここ長いんですか?お子さんは?」

こちらからは何となく聞けなかった、プライベートな質問。彼女の方から投げて来たので素直に答える。こちらも質問しようか迷っていると、

「うちはね、息子が一人暮らし。」

「え!お子さん、大きいんですね!」

その驚きは、本当は子どもがいたという点なのだけれど。てっきり子どもがいない夫婦だと思っていたので、そうではない事実にただただ驚いた。
そこからは、不思議だ。何となく、お姉さんが出来たような気になり、自分の身の上をペラペラ聞かれてもいないのに話し始めた。
主に、我が子の悩み相談。
同世代ではない、子どもの世代も違うーその距離感が、丁度良いのかもしれない。
話しやすい人。こんな私にそう思わせる針金さんは、天才だ。








仔猫カフェ

今日も、例の公園へ。買い物の帰りにふらりと寄り、ベンチに腰掛ける。

にゃ~

仔猫の鳴き声?と思えば、空耳。何となく残念な気持ちになって、空を見上げる。コロナ禍の空でも、清々しい程のブルー。
底抜けに、明るい。

「こんにちは。」


ふいに、背後から声がし、振り返ると針金さんがそこにいた。嬉しくなって、まるでご主人様を待っていた犬のように、尻尾があれば恥ずかしいくらいに振り回しているだろう感情を押し殺す。

「猫ちゃん、います?」

「さっきまでいたんです。逃げちゃって。」


咄嗟に嘘をついた。そう言えば、仔猫が出て来るまでここに彼女がいてくれると思ったから。幼稚な嘘を疑うわけでもなく、彼女は私の隣に腰を下ろす。先日と同じく、トートバッグにペットボトルと餌を入れているのか、中身をごそごそしていたかと思うと、

「はい。どうぞ。」

小さなチョコレートを差し出した。有難く頂戴する。チョコレートは、口に含むと滑らかに私の固くなった心まで溶かすようで、幸福に満たされる。
そこから、30分程の世間話。彼女の身の上までは分からないけれど、仔猫の話で盛り上がる。彼女の中で私は、すっかり猫好き人間で、それはMさんの大泉洋の時と同様、少々後ろめたい気持ちもあったのだけれど、それでも彼女と近付きたい一心がそうさせた。

にゃ~

また空耳か?と思えば、本当に仔猫が草むらから出て来て、針金さんは嬉しそうに仔猫に寄って水を遣る。
私も彼女の隣にしゃがみ込み、だが、猫アレルギーなので触ることは出来ず、ただ可愛いを繰り返す。これは、本音だ。
猫は苦手だが、仔猫は可愛い。

仔猫が水と餌に満足しその場を去れば、私達も解散。それでも、まるで友人と共にお茶をしたかのような充足感に包まれる。
約束はないけれどあるような、くすぐったい気持ち。

明日も、天気だといい。



散歩

書類選考にまた落ちた。
覚悟はしていたけれど、こう何度もだと自信喪失。更に、夫からのプレッシャーも日に日に強まってくる。
そんな中、子が塾通いを始めた。せめて、塾代くらいは稼がなければ、この家に居づらく気が重い。
夫が在宅ワーク中だと気が引けるので、外へ散歩がてら例の公園へ。もしかしたら、針金さんに会えるかも。
そんな下心と共に、仔猫に会いに行く。
晴れた日の公園は、気持ち良い。こじんまりとしたところも気に入った。長らく、こんな素敵なスポットがあることに気付かなかった。
灯台下暗し、近過ぎるからこそ、顔見知りに会うことも無さそうだ。

針金さんの真似をして、水だけ持ってきた。猫は飼ったことがないので、どんな種類の餌を食べさせたら良いのか分からない。
しかし、わざわざ買いに行くまでの情熱は持ち合わせておらず、取り敢えずの水。どうせ、針金さんが持って来てくれるだろうから。

ベンチに腰掛け仔猫を待つ間、週末に入っていた求人広告を眺める。また、いちから仕切り直しだ。
携帯で、求人サイトもチェックする。
取り敢えず、派遣サイトに登録し、単発でもいいから仕事をしようと決めた。四の五の言っている場合ではない。

いくつか登録し、返事を待つ。1時間程経っても、猫は来ない。待ち人も来ない。
結局、その場を後にした。少し、虚しかった。








秘密基地

針金さんは、ちょっと待ってと言い残し、自宅へと戻って行った。
少しすると、ミニトートバッグを手にこちらに向かってくる。
再び、仔猫目線でしゃがみ込み、トートバッグの中から何かを取り出す。細長い包みを開けると、ゼリー?のようなものがピュッと出て来た。

「ほら、おやつだよ~」

仔猫が、好奇心を持った表情で、針金さんの持つ餌に近付く。鼻孔をぴょこぴょこと動かすと、小さく愛らしい舌をチロチロとさせながらそれを舐め始めた。

「おいしいね~。」


猫の扱いに慣れているとみた針金さんは、水の入ったペットボトルを出し、小さな陶器の小皿に中身を少し出して、再び仔猫の足元に置く。
すると、喉が渇いていたのか、今度は物凄い勢いで、その小皿の水を平らげた。


餌を完食した頃にはすっかり、仔猫は針金さんになついたのか、まったく警戒心のない様子で、トートバッグの中身を気にする仕草までし始めた。


「さて、どうしましょうかね。」


針金さんは、ようやく私に向き直り、相談?なのか、こちらに意見を求めて来た。
嬉しくなって、自分が自治会の生活課だったことなど忘れ、仔猫を隠せそうな場所を案内する。敷地内の公園が2つ程あるのだが、その一つー、小さい方の公園脇の茂みは、棟の端っこということもあり人通りも少ない。遊具もないので、子どもも滅多に遊びに来ない。


針金さんと私の秘密基地が、出来た。嬉しくなって、仔猫を公園にうつした後、あまりにも扱いに慣れていたので、過去に飼っていたことがあるのか聞いてみた。


針金さんは、ここに越す前に黒猫を飼っていたのだそうだ。数年前に亡くなったのだけれど、溺愛し過ぎていたことで、再び猫を飼う気になれないと言う。

「こうしてね、野良ちゃんに時々遊んで貰えたら、それでいいんです。」


仔猫は、しばらくすると茂みの向こうに消えて行った。それを追うでもなく、彼女はトートバッグに荷物を入れると、立ち上がる。

「それでは~」

何を期待していたのか、あっさり彼女がそこを立ち去ってしまったことに軽く失望した。
てっきり、あの仔猫の世話を二人でしていくのだと思っていた。

彼女が去った後、すぐにその後を追う気になれず、公園内にある唯一のベンチに座り込む。ベンチは木で出来ており、年季を感じた。
明日も、ここに来てみよう。同じ時間に・・ライン交換もしたのだし、また会うチャンスはあるのだ。



共感と共有

針金さんは、デニムシャツにデニムパンツという非常に難易度の高い服装を、柄のストールを首元にぐるぐる巻くことで素敵に着こなしていた。
耳元のゴールドのピアスのデザインも凝っており、そういう系の仕事をしているのか?とも思わせる。

「猫ちゃんが、ほら。あそこの下に。」


彼女がしゃがんでいる目先に、まだ小さな子猫がこちらの様子を伺っているのが見えた。エントランス横にあるごみ捨て場と粗大ごみ置き場の隙間に、子猫は自ら入り込んで安全を守っているようだった。


「可愛いですよね。お母さん猫は、いるのかしら?」


ふんわりと、優しい母親のような視線を子猫に向ける彼女に、私までが身を委ねたくなる。彼女は自然体だ。なのに、私はどうしてもぎこちなくなってしまう。まだ、学校内での緊張感から解放されていないのだ。
それでも、頑張って、脳内をフル回転させて言葉を紡ぐ。猫にはまったく興味がないが、ある風に装う。コミュニケーションは、「共感」から生まれる。以前、何かの自己啓発本で読んだ言葉。


「自治会の生活委員に見つかると、ちょっと面倒なことになるんですよ。場所、移動した方がいいかもしれません。」

そして、更に段階を踏む。もっと深い関係になりたい相手とは、「共有」するということ。
私の言葉に、針金さんが、ちょっといたずらっぽい目線で微笑を返した。










孤独

役員のクジに当たらなかったことで、どっと緊張が解かれたのも束の間。
お決まりの自己紹介は、やはり苦手だけれども、それでも自宅で何度も練習して来たし空で暗記して来たので、覚悟を決めて挑むつもりだった。トップバッターから始まり、流暢に話す彼女らの台詞なんて何一つ入って来ない。その時間は、自分の番が来た時の為に準備する時間。
だが、想定外のことは起こるものだ。私の目の前に座る彼女が、自己紹介で「息子は剣道部ー」と言い出した時から、頭は空っぽ、予め決めていた台詞はすべてぶっ飛び、ただ茫然と彼女の履いているパンツの柄を眺めていた。その柄からしても、彼女の主張の強さが垣間見えた。
クラス内に、子のライン相手がいるとは覚悟していたけれど、やはり心の準備は万全ではなかったのだ。故に、見られているという緊張感で、頭の上から足のつま先まで真っ赤になっているような、痺れる感覚に倒れそうになる。
それは、相手が私のことを値踏みしていると感じたからだ。

会が終わると、ライン相手の母親は親しいママ友らがいるようで、すぐに群れになり話し出した。その話声の様子から、彼女は相当仲間内でも気が強く、中心人物なのだと分かる。
何となく、その集団がこちらを見ながら噂話をしているように見えてしまい、そそくさと教室を出る。なぜ、逃げなくてはならないのだろう?
廊下には、違うクラスだけれど、見知った母親らがやはり群れを成しており、ボスママやスネ夫ママ、素敵ママや孤高の人らが目に付く。皆、話に花が咲いているようで、コロナ禍なんて無関係というように井戸端会議に夢中だ。

ー寂しい、寂しいー・・

突如、猛烈な孤独感に襲われる。いつも一人で自宅にいる時には感じない、集団の中にいる時により一層感じる孤独感。
それにいったんのまれると、無気力になり消えたくなる。そうなれば、普通の状態に立て直すのに労力が要る。

とぼとぼと自宅に戻り、エントランスを横切ろうとすると、

「こんにちは。」

針金さんが、しゃがんだ格好でこちらに笑顔を向けていた。










けん制

我が子のライン相手の母親ー
気の強そうな、女性。席を立つなり、振り返り、皆を見渡せるよう体の向きを変えた。一通りの挨拶を終えて座るのかと思いきや、突如、私達に向かって質問を投げ掛けた。

「皆さん、お子さんはどれくらいスマホしてます?うちの子、家にいる間ずっとスマホばっかりで依存気味で困ってるんです。」

一瞬、私と視線が合った。なぜだか後ろめたい気持ちになり、すっと目を反らす。

「こそこそと部屋でずっとスマホをしているんです。勉強もせずに!なので、塾へ行かせたりしてなんとか依存から抜けさせようと苦戦してまして。先日なんて、トイレやお風呂場にまで持って行くものだから取り上げたんですよね!皆さん、時間制限とかされてます?」

おしゃべり好きの母親ー、一番初めに自己紹介した彼女が、合いの手を入れた。

「してますしてます!うちは、一日3時間に制限してますよ~」

「うちは女子なので、位置情報も密かにチェックしています。ばれたら嫌がられそうですけど、防犯面で色々と心配なものですから。」

「同じく!うちもです。」

場が一気に茶話会のような雰囲気になる。私の自己紹介を前に、一部の保護者達が盛り上がり始めた。その間も、剣道部男子の母親からの視線を感じる。彼女は息子のスマホをチェックしているのだろうか?だとしたら、子の存在も分かっているのだろうか?
もしかしたら、けん制されている?
頭の中が真っ白どころではなく、その場にいたたまれず逃げ出したくなる。しかし、担任が空気を変えた。

「スマホの件では、今度、学校から生徒に向けて、HRで指導をしようと思っています。また、PTA校外委員の方々からも、そういった困りごとなどの情報交換会を予定していますので・・では、OOさん、一言よろしいですか?」


急な変化球に、座っているのによろめきそうになる。動揺し、真っ白な頭で席を立ち、つっかえつっかえ挨拶した。
正直、思い出すのも眩暈がする程、最悪な時間だった。皆の呆気にとられた表情だけが思い出される。何をどう伝えたのか、とにかくどもりまくり、それを胡麻化そうとすればする程、緊張も手伝って、一体何を喋っているのか分からなくなった。
前方のショートボブの彼女を意識すればする程、顔も真っ赤になり狼狽えてしまったのだった。








クジ引き

子の懇談会。
行く前に一杯やれたらいいのだけれど、夫が在宅の為そのまま自宅を出た。
学校に近付くにつれ、保護者の群れが目に入り、体も顔もこわばる。伏し目がちに門を潜り抜け、子の教室へと向かう。
時間ギリギリに到着することで、手持無沙汰の時間を無くす。既に、殆どの保護者が教室内に入っており、逆に目立ってしまったことを後悔した。
担任から、今年度の教育方針や新学期に入ってからの子ども達の様子、教材などの引き落とし関連、連絡事項などなど。
そして、まだ決定していない役員決め。一気に、教室内が重たい空気に包まれた。
担任に代わり、PTA本部の母親が前に出て仕切る。

「今年度も、コロナの為、行事は削減されています。引き受けるのなら、今年がおすすめですよ~」


甘い言葉。だが、執行役員にボスママやスネ夫ママがいる限り、何が何でも彼女らと関わりたくない私は目を反らす。


「どなたか~、お願い出来ませんかぁ?」


しんーと静まりかえった部屋。誰も手を挙げない。

「いらっしゃらなければ・・出来るだけ避けたかったのですが、クジ引きをさせていただきます~」

やたらと語尾を伸ばす役員ママ。見た目は今風の可愛い人で、だが、その間延びした話し方とは違い、テキパキとクジの入った袋を取り出し、教室内を回り始めた。
ひとり、またひとりとクジを引く。紙を開き、安堵の表情を浮かべる彼女らを見る度、私の心臓は早鐘のように打つ。
名前順での座席。こういう時、私の順番は不利だ。自己紹介などもそうだけれど、なんだかんだ一番に終わらせてしまう方が得策に思える。

そして、私の番ー

手に汗を握り、ガサゴソと袋の中の紙をあさる。これだーと思った紙をつかみ、だが胸騒ぎがして別の紙を探る。

「あの、もういいですか?」

はっと気付けば、役員が私の目前で苦笑いしていた。

「あぁ、ごめんなさい!」

結局、咄嗟に触れた紙を引く。恐る恐る開いた。









そういうとこってどういうこと?

炊飯器が壊れた。しかも、夕飯時。
買いに行くにも時間がない。なので、麺類に変更したのだけれど、やはり家族からはクレーム。
麻婆豆腐がメインの中華な食卓だったので、ご飯の代わりにラーメンにしたのだ。

「味が濃いのばっか。」

「麻婆にラーメンって・・胃もたれするな。」

それでも、無理に食べた後で、

「おい、震災のストックに米があったんじゃないの?」

夫に言われ、倉庫に行くとその通り。夫は既に満腹になった腹を抱えて、


「そういうとこだよ、決まらないの。」


ーえ?


耳を疑う。もしかして、仕事が決まらないことを言ってる?だけれども、聞き返す勇気が無かった。


機転が利かないー、そんなこと、言われなくても分かっている。だがこうして自分以外の人間から、それが身内であっても言われることは、案外、堪えた。


炊飯器は、結局ネット購入。また出費・・・レンジや掃除機の調子も悪い。使っている人間にガタが来ると、物にもそれなりの影響を与えているのかとネガティブな気持ちになる。



通塾体験

通塾するにあたり、何件か説明と体験をした我が子。
どれもこれも、一長一短はあり、結局どこへ行ったら良いのか混乱してしまう。
ネットの口コミが信頼出来ない、自分の目で見たいー、そんな風に言っていたのにいざ体験すると、

「どこがいいか分からなくなった。だって、体験の時に教えてくれた先生とは限らないんでしょう?」

その通り。結局、人と人との相性なのだ。勿論、塾の学習方針だとかカラーはあるけれど、個別系塾を選択するとなると、対人間という部分が多く、なので「相性」が一番。

「女の先生がいいな。」


そう言いながら、結局子が選んだのは、口コミが一番良かった個別。そして、口コミがいいだけあって、かなり高額。
親の本音としては、安い集団でとも思うのだけれど、子の将来が掛かっているので背に腹は代えられない。

「女の先生になるとは限らないよ。」


「でも、パンフレットは女の先生じゃん。」

体験でも女の先生だったことで、子はそう思い込んでいる節があった。


「科目によって違うでしょう?」

「あぁ、そうか。」


中学になっても、子は、まるで小学生のような受け答えをすることがある。当たり前のことに気付かないことも多い。言葉を換えれば、非常識な部分が多い。

「でも、ここにする。」


ようやく終わりを迎えそうな塾選び。夫は、子が選ぶところならどこでもいいと丸投げで、今はもうすぐ試験を迎える自分の勉強に忙しい。

夫に子の塾が決まったと伝えると同時に、聞かれそうな私の就活状況。
気が重い。





的を絞る

子の様子がおかしいと、やはりどうしてもラインチェックの衝動が抑えきれない。
時間制限もしていないので、家にいる時はほぼほぼスマホを触っている我が子。
いつもの男子とのやり取り。それ以外、子は部活のメンバーと表面的には仲良さげなトークを繰り広げている。
表面ーというのは、その男子には本音を書いているからだ。

ーマジ、女子うざい。部活も辞めたい。

ーOOのテニス、俺、見てみたい。だから辞めないで。


ー分かった。じゃあ辞めない。

ーUも、剣道辞めないでね。

ここで、剣道部の男子とやり取りをしているのだと判明した。しかも、

ー休み時間、俺、図書館行こうか?


ーいいって。Uと付き合ってることみんなにばれたら、迷惑でしょう?Uはクラスで折角陽キャなんだし。陰キャと付き合ってるなんて皆に知れたらまずいっしょ。


ー別に、いいよ。クラスの奴ら、そんな悪くないよ。Uも、もっと気軽に皆に話し掛けてみたら?


子とその男子ーU君は、同じクラスなのか?そして、剣道部。野球部やサッカー部なら、人数も多く的を絞ることが難しいけれど、剣道部なら少数。もしかしたら、今度の参観と懇談会で身元が分かるかもしれない。
懇談会に行くのは気が重いけれどー、参観はしたい。子の学校生活を垣間見たい気持ちが、むくむくと湧き上がる。
今度のクラスに、スネ夫ママやボスママの子がいないことも大きい。余計な事に気を取られず、集中した我が子の姿を見られるのだ。


しかし、休み時間に図書館で過ごしている我が子を想像すると、きついものがある。女子の中で浮いているのだろうか?
今日は、部活の子。夕方には帰宅するが、やはり元気のない様子に胸が痛む。



信頼スタンプ

今年度、うちの棟の委員になる人を決めて依頼も済んでいたというのに、突然の家庭の事情ということで引っ越されてしまった。
H田さんから電話があり、

「取り敢えず、他の候補探す間はあなた、悪いけどそのまま続けて。」

押し切られ、今も尚、自治会のメンバーだ。もうすぐ、新メンバーとの引き継ぎがあるというのに、いまだ決まっていない。どこもかしもも、仕事だのなんだので断られる。なので、H田さんに相談してみた。

「あの、まだ引っ越して来たばかりの針金さんは、自治会に入会されたのでしょうか?」

「それが、一応チラシは入れておいたんだけどね、特に入会希望の連絡はなくて。あなた、勧誘してそのまま委員になって貰えばいいんじゃない?」


薄々私の方でも考えていたことを、こうしてはっきり声に出してH田さんが言ってくれると、すんなりそのように進んでくれるような気がする。
勢いもあり、針金さん宅のチャイムを押した。すぐにインターフォン越しから、穏やかな大人女性の声。品の良いドアの開け方。ドアの開け方なんて、気にしたことがなかったのに、針金さんの雰囲気ー、所作を含め何もかもに惹きつけられてしまうのだ。

詳細を説明すると、こちらが呆気にとられるくらいにすんなりと入会も委員までも引き受けて下さった。

「越して来て、こちらのこと良く分からないので、何かあれば教えて下さい。」

そう頭を下げられ、柄にもなくライン交換を申し出てしまった。瞬間、自分の距離感のなさに早まったーと焦ったけれど、

「いいんですか?ちょっと待って下さいね。」

嬉しそうに奥の部屋へスマホを取りに行ってくれ、そして、ライン交換が済んだ。こんなことってあるのだろうか?
私はこうして、針金さんと「ともだち」になった。ラインの友達登録をしただけなのに、彼女から初めてのスタンプが押されて送られてきた時、胸がときめいた。
そのスタンプは、ラインの初期設定の段階で予め入っているスタンプ。誰もが持っているスタンプで、買ったものでもどこかの企業の友達登録をしてダウンロードして得たスタンプでもない。それがかえって感じ良く、素敵だった。

たった10分程度の立ち話、それだけで彼女は信頼のおける人だと確信した。









場合じゃない

懇談会の通知が来た。
それと共に、まだ決まっていない委員をその際に話し合って決めるという。
今年はうまく逃れられたー、そう思っていたのに、そうは問屋が卸さない。そして、決まらず残った委員は、当たり前だけれど誰もが嫌がるような委員ということ。はずれ委員だ。
学校内だけではなく、地域との懇親会だったり研修会なども頻繁にあるという。詳細の用紙にはそのようなことが記載されていた。
後出しジャンケンというやつだ。


春だ。私は、仕事を見付けなければならない。実際、自分がやりたいー、なんとかこれならと思うところに応募しても、書類選考で落とされる。
落とされる度、自信を失っていく。社会から必要とされていない自分。

広告のチラシに入っている求人ー、清掃パート。ふと、これなら受かるかも・・と目を留める。
資格がない、経験もない。だけれど、主婦としてのスキルを武器にする。その他、家政婦とか・・
それでも、履歴書を送付する気が起きないのはなぜなのか?その答えは、一番自分が分かっているのだけれど。
とにかく、自分のことに精一杯で、PTA活動なんてものに気を取られている場合ではないのだ。







背中に願う

子が、昨夜はよく寝付けなかったようで、何度も布団から出てトイレへ行く音がした。
そういう私も同じく、やはり母親だからか子と自分の情緒は連動しているのだろう、我が子が不安定だと同じようになってしまう。
子ども部屋はあるのだけれど、いまだ、寝室は私と同じ。夫だけが別室の我が家。なので、就寝時は子と並んで眠りにつく。
深夜ー恐らく午前3時頃だろう。深い溜息が聞こえる。
新しいクラスに馴染めていないのだろう。
息を殺して様子を伺っていると、鼻を啜る音が聞こえて来た。

ー泣いてる?

子が、泣いていた。こういう場合、どうしたらいいのか?幼児ならば、起きて抱き締めて優しい言葉を掛けて安心させるだけだ。
だが、思春期真っ盛りの子。ただそっと見守るしかない。

結局、子から寝息が聞こえてきた時に時計を見ると、明け方5時近く。私もまんじりともせず朝を迎えることになった。


せめてーと、子の好きな朝ごはんを用意する。いつもは夫に合わせて和食だけれど、そんなの無視。ホット―ケーキを焼き、バナナといちごを付け、コンポタにサラダにゆで卵。


「なんだよ、これ。朝っぱらから力が出ねー。」


やはり夫からは苦情が出たが、ただひたすら謝る。

「ごめんさない、お昼はちゃんと作るから、ね。」

在宅ワークで昼もしっかり用意しているのだから、それくらいは大目に見て欲しい。なんだかんだで夫はホットケーキを3枚も平らげた。

「行ってらっしゃい!」

「行ってきます・・」


張りのない声。うまくやれますようにー、親としてはただこうして我が子の背中に願うしかない。






子の本音

子の机にノートが置いてあり、なんとなく胸騒ぎがして開いてみると、私の悪口が書かれていた。
うざいーという言葉に、胸が刺さる。
昨夜、クラス替えについてあれこれ詮索した件についてだ。
色々と心配しているからこその声掛けなのに、そういうすべてが今の我が子には「うざったい」のだろう。
つい、ラインチェックしてしまう。やはり、例の男子には、あれこれ相談しているらしい。

ー新クラス、最悪。嫌いな人ばっか。

やはり、ひとりぼっちなのだろうか?
中二病真っ盛り、デリケートな部分には立ち入らず、敢えての距離感を持って、向こうが頼ってきたら受け入れる。
頭では分かっているのに、なかなか子離れ出来ない。

クラス替え

子のクラス発表。
絵にかいたような、最悪な結果だったようで、子は帰宅後かなり荒れていた。
新しいクラス表を見せてもらうと、見事、同じ部活の子とは離れてしまっている。
7人のうち、4人・2人、そして子の一人というばらけ具合。クジ運の悪ささえ、私の遺伝子を引き継ぐ子に哀れみを感じる。

「前のクラスで仲良かった子は、いないの?」

何気なく聞いてみたら、さも、何でもない風に答える。

「え?別にどうでもいいし。顔見知り、いるから大丈夫。」


まったく大丈夫ではなさそうなのは、14年近く子の母親をやっているので分かってしまう。ラインチェックをするまでもなく、子の表情や仕草だけで、分かってしまうのだ。


今日は、初日。大丈夫だろうか?クラス替え直後の独特の雰囲気。皆、必死になって自分の所属出来そうなグループを見付け、入り込めた途端、そうでないクラスメイトを下に見る。そうでもないのに、さもずっと昔から親しかった風を装う。
ママ友の世界と一緒。
あぶれた人間は、カーストの餌食になるのだ。

どうか、一人でもいいから、話せる友達に出会って欲しい。
初日が肝心。勇気を出して、受け身になり過ぎずに。せめて、話し掛けられやすい雰囲気を作って。
私と同じような辛さを、子にだけは味わって欲しくない。
















弛む

持病の検査へ。検査代、7000円弱。
私自身、嗜好品を我慢する日々。洋服だって、底値バーゲンで手に入れるのが精一杯。
年頃の我が子には、流行りの服を買ってやりたいので、自分のものはやはり我慢だ。
それでも、医療費だけは削れない。そして、この医療費がなければどんなに楽になるか。今月だけで、1万越えなのだ。
パートが決まれば、こうした費用も自分持ち。勿論、携帯代やその他もろもろ自分持ち。そして、子の塾代を出せば、恐らく貯金なんて夢のまた夢だろう。
求人も、条件の良いものが並ぶ時もあれば、坊主の時もある。ここ数日は、そんな感じ。
4月に入り、恐らく、求人の波が引いたのだろう。そして、3末までに決まらなかった者は、社会に続くシャッターをぴしゃりと閉められた気分だ。
うまく波に乗れなかった者は、次の機会を逃さないよう、目を皿のようにして情報へのアンテナを張らなければならない。
だが、少々張りつめていた糸が弛んでいる。







家政婦になりきる親心

始業式が近づき、子の様子がおかしい。ソワソワ落ち着きないかと思えば、苛々当たり散らしたり。
子が部活の時、久しぶりにラインをチェックした。
相変わらず、例の人物とはやり取りが頻繁にされており、だが、そこでは子の本音が吐かれていた。

ーマジ、クラス替えが憂鬱。

ー大丈夫だよ、すぐ友達なんて出来るって。


ー無理無理、私、人見知り激しいし。

ー俺とだって、うまくやれてるじゃん?

ーラインだとね。実際会えばどうなるかなんて分からないよ。


実際?会ったことない?不安がよぎる。


ー部活の子、誰かとはなれるって。

ーならいいけど。最悪、私だけ別クラスだったりとかありそう。

ーネガティブすぎだろ。中一のクラスメイトとはどうなん?

ーうーん、微妙、表向きは仲良くしてたけど、心開けない感じ。テンションが違い過ぎて。

ーまあ、あんま深く考えんなよ。なるようになるって。

ーえー、他人事!今日も、クラス替えでぼっちになってる夢見たし。正夢になりそうで怖・・

ー笑

リアルの会話を覗き見しているようで、つい入り込んでしまう。母親にいつからか心を打ち明けなくなった我が子。彼女にとって、クラスメイトも両親も同じくらいの距離感なのか?
そして、この男性ー話し言葉で男性だと断言してしまうけれど、彼とはいったいどういう繋がりなのか・・・

夜、大きくため息をつく子に、

「どうした?何か、悩みごと?クラス替え、友達となれるといいよね。でも、OOならすぐ友達出来るって。」

「え?何、急に?別に悩みなんてないし。」

子は、不信感をあらわにした表情で私を一瞥すると、自室へと引きこもってしまった。
この年頃は、親に心配されるとただただ煙ったいだけなのだろう。黙々と、身の回りの世話ー、家政婦のように口は出さずとも料理や洗濯、掃除などをすることだけ。母親の役割なんて、思春期の子からしたらそんなものなのだと、洗濯した子のパンツをクローゼットに仕舞いながら割り切るのが、この時期限定の親心なのかもしれない。




おしどり夫婦

お隣さんとバッタリ会った。
夫が在宅で息が詰まっていたところ、桜が散らないうちに、一人花見をしに隣町まで出掛けたのだ。
子は、部活がない日は友達と過ごしているので、おひとり様花見。お花見スポットの公園には、友達親子のグループや家族などで賑わっており、少々孤独感をおぼえる。
だが、そろそろ子離れしなくてはならない時期なのだと言い聞かせた。

ここずっと使っていない一眼レフカメラを首に下げ、昼下がりの公園をぶらぶら歩く。
夫には、昼食はチンして食べられるようにオムライスとサラダとスープを作ってダイニングテーブルに置いておいた。
私は外で食べる気だったので、オムライスを丸めたおにぎりー油分のせいでうまくまとまり辛かったけれどー、マグ二つ。
一つは冷たい麦茶、もう一つはホットコーヒーを淹れて来た。おやつとして、ファミリーパックのチョコクッキーを3個程。

何十枚もカメラで写真を撮り続けていると、写真はいいなとふと思う。一時期、生涯の趣味にしようと意気込んだこともあったけれど、力み過ぎて挫折した。
趣味なのだ。
こんな風に、撮りたいと思った時にふらっと撮るー細く長く続けたっていいじゃないか。

ベンチで一休みし、ちびちびと珈琲を飲んでいたところ、針金のような長身の女性ーまさに隣人である針金さんとそのご主人。
針金さんは、春らしいサーモンピンクの薄手のニットに、ジーンズのタイトスカート。私よりも幾分年上であろう彼女だけれど、その服装はシンプルながらに洗練されており、素敵だった。
ご主人は、相変わらずのずんぐりむっくりだけれど、伊達メガネがお洒落な感じで、真っ白なシャツとデニムというこれまたシンプルな装いの中でも、何故だか垢ぬけてみえた。
針金さんがご主人の腕に手を絡ませ、仲睦まじい様子で穏やかな微笑をたたえて桜を愛でている。その様子はまるで、皇室のように品があり、温かな空気がそこに流れていた。
彼らは私にまったく気付くことなく、曲がり角を曲がり見えなくなった。


ふと、彼らを撮りたい衝動に駆られて、後をつけた。
桜並木の中、遠ざかる二つの背中に向かってシャッターを切る。これは、盗撮だろうか?
勿論、誰かに見せたりネットにあげたりなんて野暮なことはしない。ただただ、衝動を抑えることが出来なかったのだ。

彼らの背中が点となり、見えなくなったところで、近くにあったベンチに再び腰を下ろした。
カメラのプレビュー画面で、先程撮った写真を確認する。
寄り添い合う二つの背中は、春の温かさに負けないくらいに優しく、そして美しかった。


















2万浮いたら・・・

家事の合間、最近ではアイスカフェラテを愛飲している。
スタバやドトールなんて、もう何年も行ってない。コロナ関係なく、そんな贅沢なことに金を使えない。
夫、在宅時。書斎から聞こえる声に相変わらずストレスを感じながらも、生活費の為なのだと割り切る。

―ピンポン

宅配のチャイム。ドアを開けると、小包。宛先は夫だ。
また、何か買い物をしたのだろうか?節約節約とうるさい癖に、自分のことには甘いのだ。
リビングに小包を置くのと同時に、夫が書斎から出て箱を手に取る。開封すると、出て来たのは筋トレグッズ。

「家にいると、体が鈍ってどんどん筋力が落ちるからな。ちゃんと鍛えないと。」

そう言って、いそいそとその器具を自室に持ち込んだ。明細が段ボールに残されたままだったので見てみると、なんとその額、2万越え。子の塾代に頭を悩ませているところに、この金額。夫の稼いだ金だと言われれば何も言えないけれど、そういうところの節約が家計をもっと楽にするのに。
この時期、子が好きないちごさえもなかなか買えず、見切り品を狙って買うも、数粒は腐っていたりする。500円出せば、大きく形の整ったものが買えるけれど、そうすると、一人当たり3つが限界。勿論、私は一つ食べられれば良しとしているけれど・・・
質より量につい走りがちだが、食べ盛りの中学生は、いくら与えても底なし沼のように平らげる。

美味しい国産牛や、フルーツ、新鮮な魚。そういったものを値段を考えずに買えるのならば、家族3人で一か月あたり6万円は使うだろう。いや、酒代や米代を入れたら、8万くらいいくかもしれない。
どうせ長続きしないだろう2万円を我が子の将来の為にでも貯金してくれたのならいいのに。
いや、私が月に何万でも稼げばいいのだろう。頭では分かっているが、なかなか仕事が決まらない。








オンラインランチ

Mさんとのオンラインランチ。
子は、部活の友達と映画を観に行ったし、夫は仕事。
なので、何の支障もなかったのだけれど、必要以上に緊張してしまった。
気心知れるかおりとのオンラインとは違い、ママ友(と呼んでよいのか?果たして・・)しかも、私は一切心開いていない彼女とのオンラインは、まったくリラックス出来なかった。

「やっほー!」

お洒落な自宅なので、背景も変えずにそのままにMさんは画面越しに現れる。私は、この家の中で一番整っている場所からのオンライン。
つまりは、夫の書斎だ。
夫は、在宅になったことで、あれこれオフィス仕様に部屋を改造した。金を掛けただけ、それなりに体裁は整っている。

「OOさんち、おっしゃれ~なんか、今時だね!後ろの壁紙も素敵!」

PC画面上、恐らく細かい部分は写っていないのだろう。よくよく見れば、お洒落でもなんでもないし、正直、貧乏臭い。
ホームセンターで買った、夫いわく、レンガ風の壁紙は、四隅が剥がれて丸まっているのだ。

「今日は、家族はいないしね。デパ地下テイクアウトにしちゃった。」

そういって、皿に綺麗に盛り付けられた、色とりどりの凝った惣菜を見せられる。なので、私も見せるしかない。
この為に、朝から仕込んだランチは、夜も食べられるようにとタンシチューだ。

「すっごい!美味しそう!どこのビーフシチュー?」

なぜか、自分が作ったと言えず、テイクアウトした風を装ってしまった。なんでこんなところに見栄を張ったのか、自分でもよく分からない。
朝からせっせと作った努力を知られるのも、なんだか恰好悪さを露呈しているようで嫌だったのだ。


お互い、ランチをしながらーというか、殆どMさんが話題を仕切る。私は、それに頷く。
時々、合いの手を入れる。

特に、実のある話はない。大泉洋の話も、興味がないけれど新作映画を観た彼女の感想を興味深げに聞く。


「ねえ!私、もう一回観たいの。今度、行かない?」


困ったことになってしまった。






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