盆明け早々、実家へ子と行って来た。
よりによって雨・・一瞬、延期の電話をしたくなったが、首を長くして待ち構えているだろう実母を思うと、逆に面倒なことになりそうなので、えいや!と気合を入れた。
それに、子が緊急事態で部活なしのうえまだ夏休み中というところも大きい。また学校生活が始まれば、当分、顔を見せることも出来なくなるのだ。
先日は、夫と義実家宅へ久々遊びに行った子は、義母に戸惑いつつもその他義父や伯母、従姉妹らと会えて楽しかったようだ。どこにも行かない夏休みだけれど、祖父母の家に行くというのも子にとってはある意味気分転換に繋がるのだろう。
私も、子と2人のお出掛けは久しぶりだったので、案外心が躍った。
実家へ到着すると、チャイムを鳴らすよりも早く母が出て来た。なぜかバッチリ化粧で服装もお出掛け用。ジュエリーまでつけているので、
「え?これからどっか行くの?」
と聞くと、
「え?どこも行かないわよ、今日は。昨日は病院で、明日も病院で忙しいけど。それにしてもあんた、何その恰好?婆臭いわね。化粧してるの?顔色悪いしまるで病人みたい。」
玄関を開けてものの数秒でダメ出し。そして相変わらずの多忙アピール。だが病院と買い物以外に予定はないのだ。
「OO、大きくなったねえ!今、中二だっけ?」
あんまり長いこと会っていない為、孫の学年もうろ覚え。家の中は、とにかくごちゃごちゃだった。父は、その日はデイサービスの為留守だった。母は、なぜか父が留守を狙って私達を招いたのだと知る。
席に着く間もなく、一体どれだけの言葉をその体に詰め込んでいるのだろうと思う程に、とめどなくお喋りが止まらない。私は愛想笑いをしつつ、子は、最初こそばあばから尋ねられる近況に応えてはいたものの、とうとうスマホ画面の向こうに逃避した。
「ここ、ここに引っ越すわよ。」
やはり、今の家賃よりも低い。そして部屋数も少ない。これで家族3人はキツイのでは?と思うが、ところどころに積み上げられた段ボールを目に、既に腹は決まって揺らぐことはないのだろう。
「もうね、お父さんも何年生きるか微妙でしょ?二人暮らしってことでこれくらいの規模が丁度いいのよ。」
いずれは弟一人になる。その弟がバイトで食っていけるだけの家賃。確かにそれを踏まえれば、今の場所では不安が募る。両親の年金でどうにか賄っているのだ。
しかも、また弟はバイトを辞めたらしい。今は求職中だというが、その日はスロットに出掛けていた。それを聞いて、げんなりする。また、病気にならなければいいけれど・・・
「あんたにも迷惑掛けたくないしね!むしろ、あんたの為に引っ越すことにしたんだから。本当は、私とお父さんだけならこのままでいいんだけどね。この年で引越しだなんて大変だわよ。あんたが玉の輿に乗ってくれて二世帯でも建ててくれたらこんな苦労なんてしなかったんだけどさ。」
「私の為?そんなこと言われても困るんだけど。」
弟の為とは決して言わない母に苛立ちが募る。なぜ、嫁に行った私の為という思考回路になるのか?
「あはは、冗談よ冗談。そんな怖い顔しなさんな。でも、結局あんたの為なのよ。あんたに将来迷惑かける訳にいかないでしょう?」
弟が一人になった時、バイトでなんとか自分の食い扶持分くらいは稼いでけるのか分からない。現に、このコロナ禍で2回もバイトを変わっており、現在無職。金の無心ーではないが、けがや病気などで働けなくなった時、最低限の貯金はあるにしても少しでも固定費を削減しておかなくてはならない。その代表的支出が家賃なのだ。
だが、そう言われてもまったくモヤモヤは晴れなかった。そもそも賃貸というのが心細い。持ち家だったのなら、修繕費の心配はあるもののまだ安心出来る。そしてその選択をして来なかった両親が考え無しにすら思える。
一人前になれない弟も弟だが、そんなに心配で溺愛しているのなら、小さくても古くても家の一つくらい残してやれよと思ってしまう。これまで、車や旅行、宝飾品などなど、計画性なく贅沢に使って来たことを省みる心はないのだろうか?
「「ばあば、これ美味しい。」
子が、出されたクッキーを頬張る。出された菓子はすべて、デパ地下仕様だ。
「そう?あなた、家でロクなお菓子食べさせてもらってないでしょう?まさかスーパーのやっすいお菓子なんて食べてないわよね?」
「いつも、ファミリーパックだよ。たくさん入ってるやつ。」
「え?嘘でしょう?あんなまずいの、ばあば一口食べたら残しちゃう。ちょっと、あんたたち、鰻食べた?OOに中国産なんて食べさせてないでしょうね!?」
「鰻、食べてないよ。食べたことないかも。」
子が、言わなくてもいいことを言う。母は、白目をむくんじゃないかというくらい驚いた顔で、
「ちょっと!!駄目よ駄目!鰻食べないの?そういうの大事よ。子どもに食育、四季の行事を感じさせるのは母親の役目よ!あんたどうしたの一体?私はそんな育て方してないわよ。おー!いやだいやだ、貧乏くさいったら!」
「鰻嫌いになったんだよね。骨が喉に刺さって。」
苦し紛れの嘘をつくが、母は解放してくれない。
「それは安い中国産の鰻を食べたからじゃないの?とにかくOOが可哀想よ。今度うちに来たら鰻食べさせてあげるからね!」
鰻の前に、することはあるだろうとムッとする。そして、再び弟の話になる。
「いざとなったら生活保護すればいいんだから。あんたは気にしなくていいわよ。」
生活保護?
それが認められるのは、条件次第だ。実姉がー経済的に困っていない親族がいれば、役所は簡単に承認などするはずもない。
また、父がこのままホーム入居になる場合のことはどう考えているのか?その資金くらいは用意しているのだろうか?
聞きたいけれど、それ以上は聞けずに終わった。
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