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信仰と選挙

選挙日前日、見慣れない番号の着信。

「もしもし!元気ー?」

選挙の時だけ連絡をしてくる友人だ。
例のごとく、近況を聞いてきたので素直に答える。仕事がなかなか決まらないこととか子どもの反抗期。
加えて、夫が仕事を辞めるだろうことも伝えると、彼女のテンションはぶち上げだ。

「うちの党は、子ども一人当たり10万円を約束するよ!!」

目先の甘い餌をばらまけば、誰もが口を開けると思っているのだろうか?10万は、確かに大きい。だが、我が子の塾代や矯正代ですぐにぶっとぶ額でもある。
長い目で見たら、その10万円をもっと他のところに使い、国の経済の底上げをした方がいいのではないか?というようなことを伝えた。それに、18歳以下の子供がいる我が家にとっては嬉しい話だけれど、それ以上の世代である子どもや独り身でも大変な思いをしている人はいる。仕事を失い、ホームレス然の人々もいるのだ。そういった層に対しての支援はないのだろうか?どこかのコメンテーターの受け売りでもあるが、私も同感の意見だったので彼女に伝えた。

すると、不穏な空気が受話器越しに流れた。思うことを伝えたのに、いつもはなんだかんだで1票を貰う立場だと思って低姿勢なのか聞く耳を持ってくれるのに、嫌な沈黙だ。

「まあ、そういう見方もあるけどね。バラマキってそういう意見。でも、OOは暮らしに余裕があるからそんなこと言えるんだね。私みたいに独身で、将来の不安を抱えてて、孤独な人間には分からない世界だよ。恵まれていて、しかも10万円貰えるかもしれないのに。私には分からないや。」

彼女の言っている意味が、こちらにも分からない。10万円を貰えるのは子育て世帯。要するに、独身の彼女は対象外だ。それもあって彼女を思って18歳以下限定という部分に賛成出来ないと言ったのに、やはり自分の信じている政党こそが彼女の支えであり、それは暮らし云々以上に大切な人生の柱なのだろう。子どもや夫がいない彼女にとっては、それ同等の存在なのだ。

気まずい沈黙が流れ、ついに根負けした。

「分かった、明日ね。」

「ありがとう!!」


声色は突然弾む。1票、私が本当に入れるかどうかも分からないのになぜそこまで必死になるのだろう。ノルマでもあるのか?ノルマがあったとしてもその達成率は明確ではないし、彼女は何をもって達成感を得るのだろうか・・・

恐らく、今期も与党が政権を握ることになるのだろう。彼女の希望通り。見えている現実だけれど、その一端を担ったという満足感が彼女を幸福に導くのだろう。

私には、分からない世界である。










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昨日の出来事

今週の疲れがどっと出て、起きたそばから眠い。
夫は土曜出勤。しかも早朝なので既に出た後。子は部活があるので、朝食を食べさせ見送った。
ドタバタと忙しなく動いた後、一人取り残される家の中は、しんと静まり返り別の家かのようででもこっちが本当の家のような気もして落ち着く。

ふと、先日応募した会社から返信はあるかと思い、受信箱をクリックする。返信のない当たり前に慣れ切っていた今日この頃なのだが、見慣れない会社名を件名に見付けて慌てて開くと残念ながら・・の文字が3D画面のように浮かび、あぁやっぱりなと落胆した。

甘いのだ、きっと。それを会ったことも話したこともない担当者に見透かされているのだろう。応募フォームの時点で、やる気が見られないのかもしれない。

昨日、義実家で義母の付き添いをした。義母は、だいぶん良くなっており、杖があれば歩行出来るまでになった。ゆっくりゆっくり彼女を介助しながら、本当は娘に付き添って貰いたかったのかなと何となく感じた。会話を投げるもなかなか続かないので、沈黙が多く、待合室では二人並んでぼーっと行き交う人を見つめて居た。
医師から現在の経過を聞き、これからのことや投薬についての説明を受けた。
タクシーで戻ると夕方も過ぎていたので三女がおり、義父と三女に医師に告げられたことをそのまま伝え義実家を後にした。

「行ったり来たり、ちょっと遠すぎるよね。」

玄関で、三女から言われた台詞。なんだか引っ掛かる。思い出すと色々と考えてしまうので、子が帰宅するまで少しの間仮眠しよう。











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バタバタ

今日は、義実家。
今週は、本当に息を付く暇がない。普段が暇を持て余しているのだから、予定は分散させたいのが本音のところ。
そして、夫も普通に出勤になった。

いつものように、作り置きは昨夜作った。
おでんにルーを使用して手抜きのシチュー、大根と手羽元の煮物にポテトサラダ。
付き添いという予定がなければ、また買い出しに行ってキッチンで調理をして来ようと思っていたのだが。
結局、昨日も作り置きを作るという仕事で、義実家の世話をしたのだからそれもカウントに入れて貰いたい気分だ。
義父に対してではない、三女に対してそのような黒い感情がわく。

やっぱり好きになれない、いったいいつまで実家にパラサイトしているつもりなのだろうか・・



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二人目連発・・

従姉妹の丸い腹を見れば、もっと落ち込むのかと思っていたのに案外そうでもなかった。
久しぶりに会う彼女は、肌荒れをしておりふっくらした体に反して顔はマスク越しにもこけて見えたし肌荒れも酷かった。


「はー、久しぶりの息抜き。やっぱりこういう時間は大事だわ。」

お互い、ノンアルコールで乾杯してメニューを選ぶ。

「性別分かった?」

「うーん、聞いてないの。というか、聞かないことにしたんだ。出て来るまでのお楽しみ。」

疲労感を漂わせつつ、やはり嬉しさは隠せないようで、それからはずっと二人目は・・のオンパレード。

「二人目でもつわりはあるね。」

「二人目だから、色々手抜き。まだ肌着の用意もしてないよ。」

「二人目だから、あっという間にお腹も出たみたい。」

「二人目って、肝座るね。」

私には分からない世界を延々と聞かされ、少しうんざりした。いや、せめて我が子の近況くらい聞いてくれたらそんなネガティブな感情もわかなかったのだろう。
自分のお腹の子どもと上の娘の話ばかりで、あんなにうちの子を姉代わりに親子共々慕っていたのが嘘かのような変り身についていけなかったのかもしれない。

しびれを切らし、私は自分から子の近況を語った。

「塾通いも大変で。もう来年は受験なんて信じられない。」

「へー。大変そう。あ、デザートどうする?」

まあるい腹を撫でてお腹いっぱいと呟きながらも、甘いものは別腹らしい。

「甘いものが欲しくて欲しくて。二人目も女の子かもね。」

なんだかんだ楽しみにしていた久しぶりのランチは、従姉妹という多少は気心知れた仲なのに面白くないし疲れた時間だった。




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私にないもの

針金さんとのモーニング。楽しい反面、落ち込んだ。
なんていうか、ここ最近会っていない間、彼女のプライベートは私抜きで十分充実しており、知ってしまったからこそ感じる劣等感。
例の親子は母親の方は子どもを保育園に預け、復職したらしいのだけれど。

「私はもうしばらく仕事はいいわ。なんだか疲れちゃって。」

どんな仕事をしていたのか、まだ直接聞くことが憚られ、頷きながら彼女の言葉を待った。

「若いっていいわよね。何でも出来て。私もあと10年若かったら、もっとバリバリ上を目指したんだけどね。今は普通の主婦よ。」


知りたいけど、逆に私についてあれこれ聞き返されることが怖く、何となく話を逸らした。空っぽの自分には提供出来るだけの話題もない。微妙な空気になることを恐れた。

会話がふと止まり、うまく繋ぐことが出来ずモーニングに付いていたゆで卵が喉に詰まり掛けむせてしまった。
針金さんはにこにこ笑みを浮かべながら、厚切りトーストを頬張った。


「でもね、健康の為にちょっと動こうかなって思って。ご近所さんに誘われてテニス始めたの。テニスしてたのはだいぶ昔だからなかなか勘が戻らないし、最初は億劫だったんだけど、やってみたらとっても楽しくって!」

生き生きと目を輝かせて語る針金さんが、遠い存在となっていく。お茶に誘われ、近付いたかと思えば私とは別世界の住人なのだと。

「OOさんも、テニスやらない?楽しいわよ~」

誘われたが、私には到底無理な話。運動神経も鈍いし、何よりあの小さなボールを小さな面積の網目に当てることなんて出来ない。

そこからは、なんだか会話も盛り上がらず、もう帰りたい気持ちで一杯だった。モーニングでは、隣の席のママ軍団などは珈琲を何倍もおかわりして楽し気だったが、私達は一杯目が空になったことをきっかけに解散することになった。

針金さんは、悪くない。話題性豊富だし、人を盛り上げる会話術を心得ている。私が詰まらない人間なのだ。
彼女が案外スポーツ好きなことに驚いた。オリンピックに盛り上がっていたのは知っていたけれど、野球やサッカーの類にも明るく、私にはチームの誰それの話を聞かされてもさっぱり分からない。運動をしなくても、せめてスポーツ好きだったのなら会話も盛り上がっただろうし、今はコロナ禍で無理だけれど、近い未来には誘い合って観戦なども行っていたかもしれない。
観戦ついでに、KーPOPにもはまっているようで、気持ちが若い。だから、あの若いママさん軍団の中に溶け込んでいたのだろう。

人と円滑なコミュニケーションを望むのなら、まずは好奇心。針金さんにはそれがある。








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おうちレンタル

昨日に引き続き、今日は従姉妹とランチ。私にとってはチェーン店ではないちょっといい店。
針金さんとのモーニングの余韻を残しつつ、バタバタと今日も外出。

余所行きの服、従姉妹が見たことのない服を探すけれど、こういう時に手帳に記録をしておけば良かったと思うのだ。
また同じ服を着てる・・と思われるのも恰好悪い。ランチ予算だって下げた身なのだ。

ふと、子のクローゼットをのぞいた。夫が子にせがまれて買ったセレクトショップの服。もしかして、着れるかも!?
子は、最近大人っぽいシンプルな服装を好む。中でも、秋らしいチェックのワイドパンツが洒落ており、それに合わせた真っ白なニットも真新しく、アラフォーの私が着ても問題なさそうだ。それに、最近は若者の間でもゆったりサイズが今時なので、私でもサイズは大丈夫。
袖を通しても違和感がない。

子が下校するまでに帰宅するだろうから、ばれることはない。新しい服を買った気分で、おうちレンタル。
ランチ、楽しんで来ようと思う。



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お楽しみ

義実家訪問の予定がぶっこまれたお陰で、針金さんとのモーニングの前倒し。
急遽、月曜にお願いしたら快くOKを貰えた。ついでに火曜は従姉妹とも会う予定を取り付けた。
ただそれだけのことなのに、もうぐったりだ。働いている人達に叩かれるだろうけれど、一仕事終えた気分。

モーニングの集合時間は朝10時。お隣なので、一緒に行くのかと思いきや現地集合とのこと。
これから朝の家事を一気に仕上げる。予定があると、家事も捗る。何もないとダラダラと過ごすだけで酷いと子が下校する時間になってもシンクの中は朝のままだったりするこの頃なのだ。

疎遠になり掛けていたお隣さんとの復活モーニング、思う存分楽しみたい。

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三女の声

義姉、三女から夫宛の電話が増えた。仲違いしていた時期もあったが、雪解けのように再び仲を取り戻し、私の出る幕はなくなったということだ。
しかし、それは表向きのことであって、夫を通して私に対して要求をしているように感じるのだ。

「来週、暇な時にまたおかずでも持ってってやってよ。」

来週は、モーニングにランチが控えている。週に2回なんて贅沢なことだけれど、久しぶりに家族以外との外食は私にとっては重大イベント。
だが、仕事も決まってない、簿記の勉強も進んでいない中、ふらふら出掛けることがばれたらまた何を言われるか分かったもんじゃない。

「来週って、あなたは何曜日出勤?」

まずは、夫の出勤日の把握が必要だ。夫が在宅の日にお楽しみは避けたいところ。夫帰宅までに帳尻を合わせることだけに神経を使いたい。

「多分・・月曜と火曜。」

最悪なことに、連続ときた。まだ従姉妹とも日程調整していないが急過ぎる。私の中で、水曜と金曜辺りで日程調整したいところだったのだ。それに加えて義実家訪問となると、頭もパンクしてしまう。

「来週、病院にも行くらしいから空けといて欲しいらしいよ。付き添いしてくれって。」


「え?付き添いは私がするの?だって運転出来ないし、それはお姉さんがしてくれるんじゃないの?」

「仕事だろ、平日だし。タクシーでも呼べばいいよ。」

義父は、疲労がたまって家で休ませたいとのことだ。これは義姉が言っていたという。勝手に私のいないところで話が進んでおり、戸惑った。


「それで、何曜日に行けばいいの?」

「さあ。また来週あたまに連絡来るだろ。」


どうせ暇なんだからーという夫の声に加えて三女の声も聞こえる。介護は暇な人間がすればいい、私は彼らにとって、そんな都合の良い存在なのだ。




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ランチ予算

人気運、上昇。
針金さんに続き、今度は従姉妹のN恵からラインが入り、ランチの誘い。
出産前に洒落た店に行きたいのだそうだ。

ー宣言も明けたことだし、生まれたらまた当分身動き取れないからいい店行きたい!

彼女がリサーチした行きたい店がいくつか添付されていた。クリックすると、確かに都内のちょっといい店。

ー体調は大丈夫なの?

ーうん、安定期だしね!むしろ動きたくってうずうずしてる感じ。

二人目報告から、私の気持ち的なもので距離を置いていた従姉妹。だが、いつまでもそうしている訳にいかない。そろそろ切り替えなくてはと思っていた矢先の誘い、二つ返事でOKすることにした。

ーいいね。N恵ちゃんの希望のお店にしよう。身重なんだから、無理せず行ける範囲のところで。

ーこの店行きたいなって思ってるんだけど。


添付を開くと、予算が1万円程。これはディナーの平均料金なのだろうか?ランチメニューの案内はない。

ーランチとかないのかな?

ー芸能人がお忍びで来るとこみたい。頼めばランチもやってくれるんじゃない?シェフのお任せランチって感じで。前に、ここ来た芸能人のブログで見たよ。

ーへえ。すごいね。どれも美味しそう。

メニュー写真は、披露宴に出されそうな豪華な食事ばかり。ランチでもコースなら5000円は軽く越えるだろう。今、私の虎の子は心もとなく、だからといって家計から拝借するには大き過ぎる金額だ。


ーあ、でも予算、大丈夫?


私の困惑がライン越しに伝わったのだろうか?これまでの私なら、見栄を張って大丈夫と返していただろう。


ーうーん、ちょっと厳しいかな。仕事も決まってないし、ここ最近ランチ続きってこともあって贅沢し過ぎかなって。来週も予定入っててね。


ーそっか。じゃあ、ここはどう?予算2000円くらいなら行けそう?

正直、1000円以内に抑えたいのが本音だ。もっと言えば、ワンコインでいきたいところ。来週の針金さんとのモーニングは、チェーン店だったので予め予算チェックしたらとてもお得だった。それでもワンコイン以上はするけれど。

ーいいね、じゃあそこで。


ただ、N恵とこうしてランチするのもまた数年先になりそうだし、特別な時間を過ごすのだと思えば2000円はそう高くはないと思い直した。
家中のガラクタをかき集め、メルカリでなんとか利益を出すとしよう。














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気分上昇

ラインの未読、だいたいは企業のもので今日もそんなものだろうと期待せずに開けてみたら、なんと針金さんからだった。
ソワソワしながらトーク画面を開くと、思わぬ展開。

ーこんにちは。お隣なのに全然会わなくなっちゃいましたね。久しぶりに会いませんか?〇×珈琲のモーニングでも。

すっかり彼女とは疎遠になり、もうこのまま個人的に会うことなど無いのだと諦めていたので、喜びより驚きの感情の方が勝った。最近の自分はクサクサしており、相変わらず仕事先も決まらないし、家族以外の誰からも必要とされない現実に落ち込んでいたところだったのだ。そんな時の彼女からの誘いで、一気に気分上昇。じわじわと嬉しさが込み上げて来て、深呼吸をしてメッセージを送った。



ーお久しぶりです!本当、お隣なのに会いませんよね。私は針金さんとお話したいなと思っていたんです。お誘いありがとうございます。モーニング、いいですね。行ったことのない店ですが気になっていました。ぜひぜひ、お茶しましょう!
日時は針金さんのご都合に合わせます。いつでも大丈夫です。


夫が在宅かもーと思ったけれど、折角のお誘いを反故することと天秤に掛ければ、その選択は迷いようもなかった。
すぐに、針金さんから返事が来て、モーニングの日程が決定した。

わくわくしている。とても。モーニングに着ていく服を買ってしまおうかなんて、リサイクルショップを覗いたりしてしまう程に。




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数打っても当たらない現実

1社、気になった会社があったのでメールで応募してみた。
書類選考が通れば、面接まで。最近では、落ちること前提というか取り敢えず応募することで就活をしているのだという痕跡を残すことだけに集中してしまっている。
不採用通知すら来ない現実。

素敵ママは趣味を仕事にして頑張っていたが、コロナ禍で転職せざるを得なかったのだろう。それでも間を置かず次の仕事を見付け、バリバリ働いているのだと知ると、やはり根本的人間力の違いを思い知らされる。
私はこうしてもう何年もの間、あれこれ言い訳を重ねて、自分を甘やかして来た。そのツケが回って来たのだろう。
勇気を出して応募したところで、不採用通知すら来ない現実を目の当たりにする。まるで、透明人間になったかのような感覚。
ラインのような既読の印もないので、本当に応募メールが届いているのだろうか?と疑心暗鬼になったりもするのだが、いやいやそんなはずはないー、またいつもの悪い癖。単に、自分都合の想像力を働かせているだけなのだ。

えいやと、限りなく私が不向きな職種のバイトに応募してみた。需要はこのコロナ禍でも多い。どうせ落ちるだろうと、これでも落ちるだろうと。もし書類選考が通ったら、その時にまた考えよう。




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外の香り

「ただいまー。ママー、リボンが無くなった。明日は朝会があるから必要なの。買って来て。」

もう夕方で外は暗いけれど、急遽、買いに行くことになり駅前まで自転車を走らせた。
ここ数日の寒さは和らいだと思った日中。だが、陽が落ちれば気温は下がる。既に、冬が秋を押しのけ、駆け足でやって来たかのようだ。
駅前のショッピングモール内にある、小さな洋品店。お直しなどもしてくれて、夫のスーツも何度か頼んだこともある店。
近隣学校の制服や体操着なども取り扱っており、普段は暇そうにしているけれど、春先には約束された利益があるのだから、こんな店はコロナ関係なく強いのだ。

「はい、1200円ですね。」

小さなリボンなのに、この価格。500円程度かと思っていたので損した気になるが仕方がない。モール内のスーパーはお高めなので普段は使わないけれど、この時間帯だとおつとめ品がわんさかあるかもーと思い、ついでに寄ってみた。
私の勘は的中し、おつとめコーナーにはたくさんの新鮮野菜。普段手が出ないようなルッコラなども80円と安い。その中で、シャインマスカットを見付け、息をのむ。なんと600円。やや小ぶりだけれどずっと食べてみたいと思っていたもの。手が伸びるーけれど600円あれば肉や魚が買える。一食分の材料費だ。
店内を一周し、またおつとめコーナーに戻る。先程あったシャインマスカットは3つ程度だったのだが既に残り一つになってしまった。
買おうか、どうしようか。まだ仕事も決まっていない分際で贅沢かー迷い迷っていると、

「あれ?OOさん?」

コーナーの真向いに知った顔。素敵ママだった。

「久しぶり!」

小さく手を振るその姿は、いつもの彼女とは違って余所行きだった。小綺麗なトレンチコートの中に薄いニットとスカート。手首にちらっと見える腕時計は高級ブランドのもの。
ストッキングを履いた足元は革のパンプスとそれに合わせたバッグ。まるでOLのような恰好。私が知っている彼女の恰好は、もっと流行を追い掛けたラフなものでこんなコンサバチックではない。
一方、私はいつものジーンズにチェックのボタンシャツ。所帯じみた主婦の制服といったところだ。

「こんな時間に珍しいね、仕事帰り?」

「いや、ちょっと子どもに頼まれて買い物。そっちは仕事?」

何となく、会話を合わせる。

「うん、もうバタバタ。これから学童にお迎え。」

「そうなんだ。」

「じゃ、またね。」


下の子をお迎えに行く前に買い物を済ませるのだろう。つい、彼女の籠の中身に目を遣ると、定価のシャインマスカットが入れられており、なんだか自分が惨めに思えた。
シャンとした後ろ姿、外の香りを引き連れて、パンプスを履くその足取りは軽く凛としていた。






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引退式

子の部活の引退式の手伝いをして来た。
おずおずと集合時間にテニスコート前に行くと、既に保護者達が和気藹々と群がっており、つい後ずさりしてしまいそうになる。
どの親が3年で2年なのかも分からず、勇気を出して聞くしかないーと、以前少しだけ会話をした3年の母親がいたので、声を掛けた。
彼女は、あの頃は馴染んでいなかったはずなのに、いつの間に3年保護者の輪に溶け込んでおり、恐らく私の知らないところで努力をして来たのだなと、毎度のことながら置いてかれたような途方もないような気持ちに陥る。
3年の母親は、私のことを覚えてくれていたようで丁寧に返してくれ、また私の居場所がないことを察してくれたのか、自然と輪に入れてくれた。
ただ、お手伝いは2年の母親が主なので、どうしようかと戸惑っていると、会長のところまで連れて行ってくれたのだ。
会長はとても忙しそうにしていたけれど、私に役割をくれた。写真撮影だ。デジカメを手渡し、これでお願いと頼まれたことで安堵した。
他にもスマホなどで撮影する人はいたのだけれど、何枚も撮影した中から厳選したいのだろう。
なにはともあれ、役割を貰えたことは大きく、3年の母親にお礼を言おうと振り返ると、当たり前だがもう先程の輪に戻ってしまっていた。
放課後のチャイムが鳴り、ぞろぞろとコートに生徒達や顧問が集まると、最後の交流的な打ち合いが始まり、我が子も先輩の相手をしたりする姿が見れて、それを他人のカメラ越しだけれども見ることが出来て、とても有意義な時間に思えた。
そういえば、こんな風に子が汗を流す姿を最近は見ていなかった。家にいればスマホばかりでぐうだらしており、覇気がないーそんな我が子の印象が、学校では実はそうでもなくそれなりに頑張っているということ、友達や先輩、縦と横の難しい関係の中で、自分の立ち位置をしっかりと把握し、日々過ごすことの大変さを思い出す。
彼女は、親が思う以上に頑張っているのだと、この目で実際見ることによって気付かされた。

同学年の母親らとの会話は殆どなく、黙々と写真撮影のみして終わった引退式。
子が、例の色紙を代表して先輩方に渡す瞬間も撮影した。
思わず、私の携帯で撮りたかったのを、ぐっと堪え、この目で焼き付けるまでにとどめた。

いよいよ、我が子は3年。受験生。先輩から後輩へのバトンタッチの瞬間を見ることで、身が引き締まる思いを味わえた。





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線の向こう側

なんだかんだいって、後を引いているのは私の方だ。
先日面接を受けた会社の求人は、当たり前だけれど「募集終了」の掲載を目にし、現実を知る。
そして、若干名採用されたのはどういった人なのだろうか、選ばれし者への羨望と同時に自らの不甲斐なさを思う。

取り敢えず、気持ちを切り替えるしかないのは分かっているし、条件をもっともっと落として身の丈に合った求人を探し応募するしかないのだろう。

日曜の求人誌に、これまでに比較すると気が進まないけれど仕事内容さえ我慢すれば、曜日や時間は家族を犠牲にせずに済みそうな求人を見付けた。
取り敢えず、電話をしてみようと思う。
そして、子の引退式。かなり憂鬱だけれど、他に憂鬱なことがあるとなぜだか薄らぐ気もする不思議。嫌なことは一遍に済ませてしまえという若干投げやりさも混在する思いで、やってみる。

線の向こう側に行く為の努力だ。


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強がり

結局、先日の会社からは何の連絡もなかった。
毎日1時間おきにポストのチェック、電話のチェックで疲労困憊。実は、私なりに手応えがあったのに。いっこうに仕事が決まらない自分に、自信がどんどんなくなり意気消沈している。気を紛らわせる為にやっている簿記すら頭に入らない。

休日の求人広告を眺めた。短期でもいいから受けてみようかーと思いながら、いやいや、まだこのコロナ禍でブラック企業しか求人を掛けていないだろうとチャレンジしない理由を探す。

不採用なら不採用で、はっきりして欲しかった。返事も貰えないだなんて、足元を見られているというか扱いがぞんざい過ぎてそんな企業はこちらから願い下げだと強気な自分を演じたりする。




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相反する感情

週末、子が持ち帰ったのは先輩方に渡すという色紙の束。子は、色紙の担当になったらしい。
来週初めに行う引退式は、放課後に行う。晴れていれば、テニスコートが会場とのこと。
保護者会の会長から、集合場所と時間が書かれた用紙を先生経由で子が預かったらしい。

「別に、来なくていいよ。引退するのは先輩だし。」


子の言葉に甘えて、不参加にしてしまおうか悩む。

「他の親御さんは来るの?3年生のお母さんだけ?」

「いやいや、3年だけじゃないよ。だって、2年の親が担当だもん。ママは例外みたいだけど。」

棘のある言い方に、胸が痛む。子も子で、不甲斐ない母親を持ったことを受け入れようとしながらも、相反する感情に揺れているようだった。ただ、それを直接的な言葉に出さないだけ、大人になったということだ。
来年は、子が送られる番。こういうことは、「順番」なのだ。なので、たった一日の仕事だと思って参加すべきと思い直した。

「出席するよ。あなたの部活、コロナだから全然見れてないし。」

自分の意志とは真逆の言葉。だが、親としてこうありたい言葉でもある。
実際、行ったところで既に他の保護者がすべてを段取り、私はでくの坊のように突っ立っているだけにすぎないかもしれない。想像すれば逃げ出したい思いだが、やはり立ち向かわなければならない壁は子育てをしている以上存在する。

駆けつけ一杯、お守りのそれがあることを確認し、大丈夫だと言い聞かせる。



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中二親子

前期が終わり、子の元にも通知表が帰って来たのだが、塾をいったん辞めて通信にしたりと落ち着かない中だったこともあるのか、思うような成績を残せなかったようだ。
主要3科目については、ど真ん中。社会と理科については、社会は本人もテストの山が当たったと喜んでいたし、更に提出物もしっかり出していたというので期待していたのだけれど、思うような結果ではなかった。
そんな中、ちらっと子が学年上位の子の名前を出した。それは、スネ夫ママの子だ。

「同じ部活の子がクラス一緒で、K君のこと言ってた。美術以外、5だってさ。」

「そう・・なんだ。すごいね。」

あの親の要領の良さを引き継いだのだろう。あの子は幼馴染のN君を虐めていた主犯格だ。しかし、大人の前ではそういった素振りを一切見せない、ずる賢さを持っている。


「生徒会もやってるしね。サッカーもうちの学校、強いし。」


子も、内申がそういったことに影響を受けることは既に知っている。どこか諦め口調の我が子に対し、もっとしっかり頑張ってよ!と説教しそうになった。同じ学校の生徒だという彼を、客観的にーというか、まるでテレビ越しの芸能人を眺めているかのように扱う我が子が情けなく、やはり私の娘なのだと思ってしまう。


「塾も変えたんだから、後期は頑張ってよ!」

「はいはい。頑張りまーす。ママも簿記、頑張ってね!」


「・・・・・」


ああ言えば、こう言う。中二親子はこじれ気味だ。








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性悪女

簿記がまったく頭に入らない。一応、テキストを広げてみるものの、その文字や数字の羅列は頭の上を通り過ぎ、気付けば携帯漫画やネット動画を観ている始末。

夫が資格取得の為に、学校に時々通いつつ課題を提出しつつ、更に自分で勉強をしていたことを思うと尊敬する。これで本当に合格すれば、夫は有言実行を果たすことになるし子どもからの信頼を勝ち取ることも出来るだろう。
それに比べて母親の私といったら・・・
相変わらず、先日の面接結果は届いていない。ポストを開けるが手応えのあるブツは入っていない。ゴミ同然のチラシくらい。ふと、両隣のポストに間違って通知が入っているのではないか?と思ったりもする。隙間から覗くが一部しか見えず、開けて確認したい衝動を抑えたりと、心の中がいつでも騒がしい状態だ。
時々、年に数回あるかどうかだけれど、配達員が間違えてポストにお隣やその上階の住人宛てのハガキや手紙などを投函することもあるのだ。

ゴロゴロと寝そべりながら、惰性で簿記のテキストをめくる。すぐに頭の中は脱線し、また空っぽのポストを思い出すと、ふいに針金さん宅に行って、聞いてみようかー
なんて、馬鹿なことを考える。すると突然、携帯電話が鳴った。

ーもしかして!?

それまでソファーに寝そべっていた体がビクっと条件反射を起こし、物凄い勢いでローテーブルの上にある携帯に向かう。慌て過ぎたせいで、小指の角をテーブルの脚にぶつけてしまった。


「はい!OOですが!」

非表示だったので、胸が高鳴る。期待する気持ちと、期待し過ぎては駄目だとセーブする気持ちの間で、しかしそれは残念ながら機械的な女性の声に打ち砕かれた。

「こちら、××ショップのものですが、お客様の携帯の件でお電話いたしました。」

ガラケーを使っている私。来年度までにスマホに変更手続きをしなくてはならない。そのお知らせだった。高揚の準備を整えていたはずの心は一気に萎み、ついカチンと頭に来て、普段ならこんな対応絶対にしないのに、要らぬ嘘で相手に八つ当たりしてしまった。

「今ですね、家族が病気で看病してるんですよ。」

「あ。そうですか。それは大変失礼いたしました・・・」


女性の声がか細くなってしまったことで罪悪感は湧いたけれど、私自体の失望に比べればそれは金に代わるものなのだ。働く場所があるということは、社会から必要とされているということ。
何歩も先を歩く彼女に対し、嫉妬した。

電話を切って、何とも後味の悪さが残っただけだった。そしてこんな性悪女、一体どこが採用するのだろうと思い余計に落ち込んだ。
自信喪失の波が、再びやって来て私の心をどす黒く覆い隠そうとしている。足の小指がじんじんと痛みを訴え、こんな時にその存在をアピールしていることにすら腹が立った。





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資格欄を埋めろ

「電話なんて来なかったよ。」


先日、私が留守中に採用の電話が来るかもーなんて大口を叩いたものだから、夫も少しは期待していたのだろうか?
結局、あれからポストの中身も変化なし。毎日何度もチェックしているのに、チラシばかりがたまっていく。


「やっぱり、一応受けてみて。」

夫からの突然の要望に、愕然とする。


「ネットから申し込んだから。仕事も現状まだ決まってないし、自分の実力を知るのにもいい機会だろ?だいたい履歴書の資格欄が空欄だなんて、俺が人事だったら即落とすね。それに、OOの手前、母親だって頑張ってる姿を見せるべきなんじゃないか?あなた、いつでも車んところに行って暇そうだし。」

先日、簿記については仕事を探すということで白紙になった案件だったのに、再び再熱。しかも、私に断りなく申し込みまで済ませており、もう逃げられない状況に追い込まれた。


「OOの通知表見てあれこれ文句言う権利、あなたにはないよ。それに、OOに響かないぞ。俺みたいに目に見える形で自分の結果を出さないと。」


夫は、難関試験の一次を通過し、ようやく二次試験を終えて結果待ちの状態だ。本人は自己採点し、合格する気でいるのか自信満々。合格すれば、年度内に退職をする流れとなっている。最近は時間が出来たこともあり、私への干渉も増えて来た。


「ママも何か試験受けるの?じゃあ私は今度の英検頑張る!」


子にも妙なスイッチが入ってしまい、ますます八方塞がりだ。夫の言うことも、もっともなところもあるので何も言い返せなかった。









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  • 2021/10/13

丑三つ時のオンライン

久しぶりに飲んで帰って来た夫は、帰宅は勿論早かったのだが、どれだけ飲み足りなかったのだろう?まさかのシャワーを浴びてすぐに自室でオンライン飲み。飲んできたメンバーと引き続き家で飲み会を続行したのだ。

寝ずに待っていたことが馬鹿らしい。なので早々と就寝した。
しかし、眠りが浅かったようで目が覚めた。喉が渇いて水を飲んだのが、深夜2時。その時間になっても自室からは楽し気に笑い合う声が聞こえた。

今朝、夫は殆ど寝ずに出社した。二日酔いも酷かったようで、朝食も一口二口つけた程度だった。
何の為に対面飲みしたのか分からない。ならば、最初からオンライン飲みにすればよかったものを。夫の脱ぎ散らかしたスーツのポケットから、レシートがはみ出ていたので手に取ると、恵比寿の串揚げ屋。代表して支払いしたのかどうか、なんと6万越えていた。ちゃんと割り勘したのだろうか?というか誰と飲みに行ったのだろう?勝手に趣味の仲間か職場の同僚や後輩なのだと思い込んでいるけれど、本当にそうなのか?
ネットでその店を調べると、居酒屋的な串揚げ屋というよりもまるでデートで仕様の洒落た店。
なんだか、豚汁を作って待っていた自分が単なる飯炊き女のように思え、実際のところそうなのだけれど悔しい気持ちが湧いた。




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  • 2021/10/12

作り置きの提案

夫から、先程連絡があった。
夕飯は要らないということらしい。飲んで帰るということだ。もうすっかり解禁気分らしい。
コロナ前も夕飯ドタキャンはあったのだけれど、久しぶり過ぎるからか、こうして連絡があるのは珍しい。
ワクチンは2回打った。私も夫も。だが、油断大敵。特に、久しぶりに気の合う仲間との飲みは気分も上がって感染リスクも高まるだろう。
折角作った夕食は、ようやく値下がりした生野菜をふんだんに使ったサラダや刺身、それに筑前煮やお浸しなど和定食だ。豚汁まで作ったのに・・もっと早く電話をくれたら豚汁とおにぎりにサラダくらいで済んだのに・・
判を押したように夕飯を共に食べる生活がすっかり体に馴染んだことで、また親子二人の夕飯生活が蘇るのかと思うともやもやする。夫は、ノリで外で飲み食いするところがある。これは私の労力も財布にもきつい。
オンライン飲みの自室で食べられたとしても、折角作った食事が無駄になることがなかったのでここまで苛々することもなかったのだ。
刺身は、照り焼きなどにして明日の食事にリメイク、豚汁はたっぷり作ってしまったので勿体ないから明日も食べよう。夫は作り置きを嫌がるけれど、今後不安定な生活を強いられることになるのだから、これを機に、作り置きのメリットを提案したい。




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引退式の憂鬱

テニス部保護者会から通知が来て、憂鬱だ。
3年生を送る会?的なものをするらしく、その手伝いをしなくてはならない。去年はコロナということで中止になったので今年もその流れでいくのだろうと悠長に構えていたのに。
しかも、3年生の親が主体となるのかと思えば、「送る会」なので2年の親が主体となるらしい。これは、悪しき慣習だ。
既に、保護者の会の会長副会長が水面下で動いており、私のような平保護者は当日の参加だけで良さそうなのだけれども、子の部活関連にほぼ関わらずに来た1年半なので、連絡を取り合えるような保護者もいない。ただ、なぜかその他の親連中は仲が良く、私だけ完全アウェイだ。このまま時間をすっ飛ばして、3年の引退にまで持って行きたいところだった。

送る会では、例年、親子参加の会食も設けられていたらしいが、さすがにそれは無しとなったのが救いだ。小学校卒業式を思い出し、子どもがいるとこうした行事に常に追い込まれている気になる。過ぎても過ぎてもやって来る憂鬱なイベント。

また、チューハイを体内に取り込み頑張るしかない。


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私の通帳

先日夜に起きた地震、10年前を思い出させる揺れだった。
ただ、夜で夫も子も同じ屋根の下にいるという事実が、パニック発作を抑えてくれた。これが一人だったらー、しかも、一人暮らしだったらどれだけ心臓が止まる思いだったろう。

再び、備蓄品のチェック。水やトイレットペーパーなど諸々を買い込んで一息つくと、待ってましたと言わんばかりに携帯に着信。
実母からだ。夫が在宅仕事をしている時もある為、家電ではなくこうして携帯に掛けて来ることも増えた。

「ちょっと、大変だったわね!あの揺れ!心臓止まるかと思ったわ。食器棚が倒れそうでね、いやもう倒れてぽっくり行くのがいいのかとも思うけどね。」

保証人の件が頭をかすめる。だが、こちらから聞くのは控え、母の出方を待つことにした。いつも通り、愚痴と親戚の噂話、それから体のあそこが痛いここが痛いや、ゴシップネタを一通り聞き流した。


「あ、そうそう。言わなくちゃと思ってたんだけど、あんたが何かあった時の為に預かってた通帳なんだけどね、ずっと使ってないと凍結されるからこれを機会に私の口座に動かすわね。勿論、ちゃんと戻しておくわよ。」

あ、そうそうーと思い出したような時に使うこの枕詞、大体においてこちらが真の要件だ。
それは何かの為にと独身時代、毎月3万ずつ預けていた私名義の通帳。一体いくら入っているのだろう。私の結婚費用に使うと言って管理されていた。だが、実際に結婚式当日になってもその後も、その通帳が渡されることはなかった。暗証番号すら知らされていないのだ。いつしかその通帳についての話題は親子間であってもタブーとなっていた。
ただ、母親心に娘の口座の中身を黙って出し入れするのは後ろめたいのだろう。断りさえ入れておけばそれで彼女の心は軽くなるのだ。


独身時代の貯金。もしも出戻りになった時に、家に戻ってもいいけれど、仕事が決まるまでの生活費は実家に皆置くもんだと言いくるめられた。それから、その金について尋ねようとすれば話を逸らされたりとのらりくらりで、もう半ば、いずれ返して貰えばいいかと諦めていた。だが、私の名義口座から母の口座にうつすということは、もう何もかもがうやむやになり兼ねない。口座が凍結されるとかなんとか理由を付けて、引っ越し資金にするのでは?と疑惑が湧く。実際、そんなこと聞いたら親子絶縁状態になり兼ねないけれど。
縛られているのだ。率直に聞くことが出来ない点において、私は母に心をロックされている。





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新築一戸建ての輝き

最近出来た、新築一戸建てエリア。子の中学校と目と鼻の先。
懇談会にしぶしぶ参加し、へとへとになりながら帰宅途中、なんだか気になってまだ新築特有の真っ白な壁をぼーっと見ていた。
今風の玄関に、車を置くスペースと庭。広々としており、こんなきれいな家に住めたらどんなに楽しいだろうと思いを馳せる。
家は、全部で8件程横並びになっており、しかしご近所付き合いは大変そうだなと思う。
2件程は車が駐車してあったのだが、BMWなど高い車だ。

何となく表札を眺めていたら、「酒井」という名前を見付けた。よくある名前なのだが、胸騒ぎがした。
そして、見覚えのある車が駐車していることに気付いた。酒井さんだ。あの、酒井さん。素敵ママとよく互いの車を乗り合わせてコストコやらジムやらに出掛けるのを目にしていたので、悲しいことに車のナンバーまで覚えているのだ。そもそも、なぜ車のナンバーを覚えているのかといえば、それは現在の住居ではない地名が記載されているからだ。どうして都内なのに変えないのだろう?その土地にそこまで愛着があるのか?と思い不思議に思っていたのだ。それ程に、私達の暮らす土地の車のナンバーは、人によっては格好いいとされるのだ。

引っ越したという事実を知り、やはり嘘ではなかったのだと思う一方で悔しい気持ちがわいた。
彼女自体、前職はCAという華やかな職種で派手好きだ。いくら体系や見栄えが変わっても、中身は変わっていないのだろう。セレブ思考。なので、こんな場所でうだつの上がらない日々を送ること自体がおかしかったのだ。
素敵ママなど、次々に彼女の友達は戸建てや高級マンションを購入し、恐らくコロナ禍以前は家にお呼ばれもしたのだろう。とすると、彼女自体、私が感じる以上の悔しさをジリジリと背負って来たに違いない。
それが、ようやく晴れたのだ。


あのポストには、不動産のチラシなどもう入らないのだろうなと思う。
私が住む世界とは、別の世界に羽ばたいたのだ。






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和気藹々の中のポツン

欠席する予定だった懇談会、結局、出席した。

懇談会は、予想以上に保護者が来ていた。
酔っ払っていたので多少の記憶は曖昧だけれど、今回は発言の機会はなく、ただ資料を渡されての説明と、今後、コロナ禍においての学校生活の諸注意点、それから生徒の近況をスライドでまとめたもののみ。
違うクラスだけれど、相変わらずスネ夫ママや素敵ママらの姿を廊下で目にし、そそくさと通り過ぎる。相手は私のことなど眼中にもないのだろうけれど、苦手意識はやはり変わらない。
実は、ギリギリまで行くのをやめようと思っていたのだ。しかし、罪悪感もはたらく。特に仕事や予定もないのに自宅でぐだぐだしている自分に嫌気がさしたのだ。それで、飲んだ。
チューハイ1本が空くうちに、気持ちがポジティブに変わっていくのに気付いた。2本目を手にし、半分程飲んだ時に時計を見れば、まだこれから身支度をして懇談会に間に合う時間だったことも手伝い、勢いでメイクをし服に着替えた。
私のクローゼットの中では一張羅の秋っぽい茶系のチェックシャツワンピースだ。もう数年前に購入したものだけれど、普段ジーパンばかりでスカートをはかないので毛玉などなく綺麗なまま。真新しいともいえた。
若干、デザインが古臭いような気もしたが、チェックは定番だしおかしくはないだろう。

教室内では、例の男子の親が来ていて気まずかったけれど、一回だけ目があって反らしてから存在を消していたらあちらはあちらで仲の良いママ友らと楽しそうに会話を始める。懇談会に来るような親は、やはり顔が広いというか堂々としているし顔見知りも多い。あちこちで「久しぶりー」「元気にしてた?」などの会話が耳に届いた。その中で、誰からも話し掛けられない私は、やはり自分の人脈のなさに落ち込み、すっかり酔いも醒めてしまった。

来年の今頃は、子の志望校も決まっていることだろう。こんな風に、和気藹々としていられるのも今のうち。






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グミ占い

明日は懇談会がある。
行くべきか行かないべきかー、夫が在宅なら強制的に行くはめになっていたけれど、運良く出勤日。
なので、自分の自由に出来る。
だからこそ、迷っている。
もしかしたら、欠席することによって重要な情報を逃すかもしれない。懇談会で担任がどのような話題に触れるのかレジュメもないので想像出来ない。
ただ先月、日時のお知らせが届いただけだった。
微熱が出たということにして休むことは簡単だ。だが、我が子の為にそれでよいのだろうか?
ママ友がいれば、欠席したとしても気軽にその内容を聞けるけれど、そんな人間はいない。敬語ママだって、クラスが違うし雲の上の存在どころかもうしばらく会っていない。会ったとしても、挨拶が出来るのは向こうが一人きりの時。誰かといれば、私はただその真横を通り過ぎるのみだ。


行く、行かない、行く、行かない、行く・・花占いのごとく、子が食べ掛けのグミを一粒一粒取り出しながら口に放り込む。

ー行かない。

最後の粒は、行かないだった。欠席しよう。そう決めたら、心が軽くなった。






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車の中から見える景色

夫が今日は在宅なので、例のごとく駐車場へ。
相変わらず、ポストの中はチラシばかりでお目当ての封書は無い。携帯も無反応。
採用されたらどうしようーという気持ちがありながらも、やはり、社会に認めて貰いたい思いがあるのも事実なのだ。

「もしかしたら、電話があるかもしれないから。そうしたら携帯に掛けてね。」

採用の電話が来るかもと夫に伝えるのは勇気が要ったがー(なにせ、まるで採用される前提なのがイタイと思われそう
夫は、私の想像の斜め上をいく言葉を掛けた。


「分かった。まあ、駄目だったとしても次があるんじゃない。宣言も開けたし。」

夫も、私に早く稼いで欲しい気持ちがあるのだろう。嫌味のひとつでも言われるかと身構えていたのに空振りに終わった。

誰かに見られるもの微妙なので、後部座席を使っている。こちらの方が広々としていて足も伸ばせる。
取って来たチラシを何となく眺める。
例のごとく、不動産のチラシ。1億とか・・都内なので当たり前だけれど今更夫の年齢とローンのことを考えたら、こんな豪邸に住めるはずもない。ぐちゃっと丸めて放り投げる。
続いて宅配のチラシ。ファミレスのものだけれど、日替わりランチはワンコイン。ただ、野菜が無い。小さなスペースにキャベツの千切りの写真があるけれど、恐らく、実際はこんなにこんもりとしておらず、しなびて見る影もないのだろうと思う。
だが、一番豪華なメニューは1500円のステーキセットで、添え物はファミレスらしく、野菜は冷凍ベジタブルとポテトくらいなのだけれど、肉がかなりのボリュームで食べ応えがありそうだ。
夫も在宅の時は、たまに宅配を取ってくれたら楽なのに、私が作るかー、さもなくば、昼休憩に原チャに乗って自分の分の昼飯をコンビニで調達する。気を利かせて私の分を買って来てくれることなどないけれど。
新聞勧誘のチラシには、間違い探しの絵が乗っており、つい暇なので探してしまう。3つ程見付けてそれが当たりなのかどうか調べるも、ネット上にその答えを入力し応募するらしい。洗剤セットなど、家庭で使う助かる商品だけれど、実際それに当たったとしたらそれに加えて激しい勧誘が待っているかもしれないと思うと、正直萎える。

気を取り直し、再び求人サイトを眺める。しかし、飲食系ばかりが目に付き、絶望的。
マグカップに入れて来た氷の塊をがりがりとかみ砕く。最近、頻繁に氷を口に入れている気がする。ストレスか病気なのだろうか?
チラシとチラシの間に、ふと求人のチラシが挟んであるのを目にした。拾い上げると、お試しで単発からOKの仕事だ。慣れてくれば、パートや正社員にもなれると記載されている。
それは、介護の仕事だった。やはり、介護はどこも人手が足りてないのだろう。しかし、何かに引き寄せられるように、この折込をポケットに入れた。

外は、晴れている。車の中から見える景色は、私を車外に引っ張り出そうとしているように思えた。








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非常識にも程がある

突発的に電話をした会社に出た男性は、なんだか威圧的に感じられ、受話器を持つ手が震えた。

「あの、面接の応募をしたく電話をしたのですがー・・」


声も、どんどんと小さくなってしまう。勢いで掛けたはずの電話なのに、その勢いはみるみるうちに萎んでいってしまった。
ただただ怖い。

「あ、そうですか。では、お名前と連絡先をお願いします。」

どうしてもその声に恐怖心を抱いてしまい、生理的ーという言葉を使うのは適切ではないかもしれないけれど、


「やっぱり、いいです。」


「え?」


心底驚いた声が聞こえたが、慌てて受話器を置いた。
とても非常識なことをしたと思っている。そして、こんなことでビクついている私に、果たして仕事が勤まるのだろうかと不安が大きく募る。
以前、短期で働いてからもう何年も経っている。あの時、あれで終わりにせずに別の仕事を探してでも細々と働き続ければ違ったのかもしれない。
これが、社会的ブランク。傍から見たら、普通のことが出来ないし普通のことが怖い。
結果待ちの会社ですら、採用されたらどうしよう・・というあり得ない感情に支配されてしまったのだ。





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続けざまに

採用の連絡が、電話で来るとばかり思っていたが、きちんと確認していなかったことに気付いた。
もしかしたら、封書かもしれないー、そんな胸騒ぎがして、一日に何度もポストを覗くけれども、不動産やデリバリーのチラシばかりでそれらしき物は見当たらない。
面接のあの会社は、個人経営のようで小さなビルの一角にあり、換気も出来ているのかどうか微妙な感じで空気も淀んでいるようだった。
それに加えて陽当たりも悪く、薄暗い。あのような場所で働くことをイメージすると、少々気は重くなる。
こうして、落ちた時に受けるショックを少しでも和らげる為に、向こう側のデメリットをつい挙げがちなのは私の悪い癖だ。

新聞広告を眺める。応募スイッチが入ったのかどうか、数年前の今頃も募集していた業種の短期バイトの求人を見付け、電話で面接の応募をしてみようかという気になる。
心臓がドキドキする。電話を掛けるのは相変わらず苦手な作業だ。応募の電話から審査は始まっているとも聞く。だが、私にしては珍しいくらいの、年に1回あるかどうかのアグレッシブなテンションを武器にして、勢いに身を任せた。




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連絡待ち

採用の連絡が家電に来て、大喜び。夫と子に伝え、二人も喜んでくれた。
どこからか花束を持って来た夫が、私に手渡す。子からはリボンを付けたクマのぬいぐるみ。
私は感激して号泣。そして、職場へ行き、すぐに馴染む。どこかで見たような・・知っている顔もちらほら。
そして、その空気感が懐かしいーと思えば、それは学生時代のバイト先だった。

そんな夢を見た。起きた時、夢だと悟るまでに時間が掛かったけれど、私より遅く起きた目覚ましが鳴り響き、途端に現実に引っ張られる。


面接の結果が、採用ならば今日来るかもしれない。今週中に知らせるとのことだったけれど、どうだろうか。
決まりたいような決まりたくないような、妙な気分を引き摺っている。

虎の子は、もう底をついているのだ。義父にも耳を揃えて金はきっちりお返しした。スカスカの虎の子に侘しい気持ちは湧くけれど、これで良かったのだと一方で思う。

まだ午前中ー、今日は一日が長い。今日何もなければ、明日も引き続き長い一日となる。
連絡待ちは、それだけで一日が潰れるのだ。


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